第13話 封建王朝崩壊 1
遅くなりましたが、なんとか更新できました。
「三日も保たなかったか」
「こちらの狙いどおりですね」
回答期限の三日を待たず、封建王朝側は戦争の準備に慌てて入っていた。
(別に、呼ばれて行った神の宴で、とつぜんウォーゲームを宣告された弱小ファミリアじゃあるまいし。事前に準備してなかったのかね)
すでに、ウッフィ商会をからめたトラブルを引き起こしていたのだ。
最悪の事態を想定していれば、封建王朝単独でアイェウェ軍と戦うことになる可能性くらい考えていて不思議ではないというのに。
しかも、自分たちの策略で勝手に巻きこんだウッフィ商会は魔族によって攻められ、商会長をはじめとした体制の刷新を余儀なくされている。
それを目の当たりにしながら、それでもなお封建王朝側は、明らかにバタバタと今さら戦争準備をしている様子だ。
もちろんその慌てっぷりが実は罠で、準備万端、手ぐすねひいて待ち構えていたという可能性もあり得る。
だが潜入させた諜報員からの情報では、本気で今ごろ戦争になると焦っているらしい。
封建王朝側からすれば、とつぜん降って湧いた災難だろうが、こちらとしては望んでいた展開である。
周囲からターニャへ向けられる評価のように、戦争狂というわけではないので、進んで戦争をしたいわけではない。
が、今回はいかんせん時間に限りがある。
勇者が帝国を出発するまでに、封建王朝との決着をつけておきたい。
ふだんならつけないような強気な条件を、強硬な態度で押しこんだのも、そのためである。
おかげで狙ったとおりに追い詰められた敵は、無謀な戦争の火蓋を切ってくれた。
あまり追い詰め過ぎると、後がない死兵と化した軍に手こずることもあり得るので、さじ加減が難しいところではある。
「まぁとりあえず、五日は様子見か」
雅人のつぶやきに、諜報活動も名目上は統括するワカナと、戦略担当のエリーがうなずいた。
***
「しっかし。ここまで人望がないとか、笑えるのを通り越して泣けてくるな」
封建王朝への宣戦布告から五日後。
軍事行動を起こしたアイェウェ軍をさえぎる者は、まったくなかった。
国境から首都に向けて封建国内に攻めこんでも、各地方領主は競うように魔王である雅人の元にはせ参じ、恭順を誓う。
そこには、魔導王国や軍事同盟、立憲君主王国の敗北を見た上での、生き残るための現実的な判断があるのは当たり前だが、封建王朝の現国王への反発も見て取れる。
頭を下げて、ときに人質を差し出す彼らが言うことを聞いていると、元々は同格か、それ以下であったガオ=ノーティコ=マッコトへの、隠しきれない悪感情が透けて見える。
成り上がり者。
風見鶏のように、何度も敵味方を取っ替え引っ換えした裏切り者。
王妃や元妻の変死が相次ぐ、疑惑の人物。
もっと踏みこんで、王妃や元妻を殺害した冷酷な殺人鬼。
そんな言葉でぶべつされたガオは、悲しいほどの支持率の低さをあらわにしていた。
(ま、身から出た錆なんだけどな)
宣戦布告から時を置かずに侵攻し、突き進むアイェウェ軍の前には、約半数の諸侯が中立を宣言する使者を送りこんでくる。
首都に向かう間に領地を持つ領主のほとんどは、早々に国王に見切りをつけて無駄な抵抗はせず、むしろ関心を買うように迎えてくれる。
国の名が体制を表すとおり、彼らは封建領主だ。
所領を安堵してくれる者に簡単に頭を下げる者たちだった。
国王……というか元々のノーティコ家系派閥は、当初は持ち堪えている間に、国王が派遣してくれる援軍の力を借りて、自領の安寧を得ようとしていた。
しかし、頼みの綱の国王からの援軍がまったく来ない。
籠城する敵を、犠牲を払ってまで攻略する必要性をまったく感じなかった雅人は、囲むだけ包囲させ、どんどん先に進んでいった。
援軍もなく、切り捨てられた格好になったノーティコ家系派閥は大いに動揺し、次第に開城する領主も出てくるほどだった。
(この辺りで揺さぶるのがちょうどいいか)
元ノーティコ家系であろうと、軍門に降った領地に関しては、所領安堵を約束していた。
軍の規律も厳しく、封建王朝の内乱時に横行した敗者への略奪も起こさない。
それを見て安心した領主と領民は、慈悲を求めて門を開けるケースも出てくる。
だが、それでも抵抗する領地が片手であまるほどいる。
甘い顔ばかり見せるとつけ上がり、戦後の統治にも響きかねないため、雅人はある領地に目をつけた。
ディエンガンというその街は、三方を川に囲まれているため、軍事的には攻めにくく守りやすい土地にあった。
そのことにあぐらをかき、ほかの領主と異なって降伏に条件をつけてきていたのである。
「徹底的にやっていいぞ」
雅人の下知に応じて、ヒューマンの戦争では攻めにくいとされる川の方面からも、空を飛んだ風の邪精霊や、ドラゴニュートが襲撃し、街中を炎や突風で破壊していく。
わずか一日で陥落したディエンガンの街は、生き残った人々は捕虜にし、残った財貨は徹底的に略奪した。
どこかアイェウェ軍を甘く見ていた諸侯は、狙いどおりに震撼し、軍を引いたら好き勝手しようと目論んでいた有力貴族の心胆を寒からしめた。
そして、ディエンガンの攻略後数日を置いて、ほかの抵抗を続ける街や貴族に最後通牒を突きつける。
恐ろしい噂はすぐに伝播していたため、すべての街が門を開き、恭順を誓ったのだった。
籠城し、アイェウェ軍の食糧が尽きるのを待つ戦略しか選択肢がなかったガオ=ノーティコ=マッコトだったが、その前に諸侯による抵抗を当てにしていた。
諸城でアイェウェ軍の足を止めさせ、食糧を浪費させる。
帝国から、勇者がもうすぐ国を出るとの情報が入っていたことも、籠城による遅延戦略を取らせた一因であった。
だが、事態はガオ王の思いどおりにはまったく進まなかった。
頼みにしていた諸侯は早々に降伏し、唯一の抵抗をしたディエンガンの街は破壊された。
頼みにしていた防衛線があっという間に食い破られ、想定外の早さで首都を包囲されて、ガオ王はパニックになったらしい。
ザマアミロだ。
だが、本当の復讐はこれから。
強引に門を開けさせるか、甘言を用いるか。
もはや決定権は雅人にあった。
ガオ王と首都の住民たちにできることは、ただ雅人の決定に翻弄されることだけだった。
明日は本当に更新できないかもしれません……。
その場合はご容赦ください。
話は変わって。
封建王朝における小川牙雄くんの成り上がりストーリーですが、「女好きの下剋上」というサブタイトルにしておけばと少し後悔していますが、そこまでやると怒られそうなので、今から変更するのはやめておきます。




