第11話 ガオ=ノーティコ=マッコト 3
遅くなりまして申し訳ございません。
復讐相手のクズっぷり説明回は終わり、明日から主人公とのいざこざが始まる予定です。
「上手くいったなっと」
多くの女性をはべらすために努力を惜しまず、勢力を拡大し続けた結果、国王派と国王を僭称するヴィスディ家と肩を並べるまでになった。
だが急成長したノーティコ家への警戒で、あり得ないと思っていた国王派とヴィスディ家の共闘の噂を聞き、ガオは仲違いをあおった。
元々国王側は、国王を僭称するヴィスディ家に思うところがあったし、ヴィスディ家としても今さら正規の国王と正式に手を結ぶことは政治的なリスクがある。
おかげでガオが点けた火は盛大に燃え上がり、両勢力がぶつかった戦いはし烈を極めた。
国王派はその戦いで王子が死亡するほどの大損害を受け、ヴィスディ家も優秀とうわさされた次男が戦死したほどだ。
異世界人が何人死のうが、ガオには興味がない。
自分たちの仮想敵が殺し合う報告をガオは、何人もの愛妾を組み伏せながら聞いたのだった。
「まぁ、無様なものだな」
目の前に展開する父親の軍を見て、ガオは吐き捨てるようにつぶやいた。
国王派とヴィスディ家の戦争のあと、唯一の男子を失った国王の受けた心理的衝撃は激しく、ショックで病に倒れてしまう。
そんなチャンスを見逃すガオではなかった。
ひそかに国王に使者を送り、王女の輿入れを条件に大損害で傷ついた国王派を取りこむことに成功したのだ。父親には一切知らせずに。
おかげでガオの父親は激怒し、親ヴィスディ家の者たちとともに懲罰の軍を発した。
だが、すでにノーティコ家の実権はガオが掌握していたため、父親への支持はいっさい広がらない。
「うみを出し切るぞ」
ガオの命令で、父親が率いるわずかな軍へ兵士が殺到した。
その後ガオは、負傷しながら捕虜になった父親を、ろくな治療も与えずに幽閉した。
「死んだのか」
衰弱しながら、死の寸前までガオを呪う言葉を吐いていたという父親が死んでも、ガオの心にはなんの感傷もわかない。
(この世界では生物学的な父親かもしれないけどな)
生まれてこのかた、父だと思ったことはなかった。
おかげで、戦争で死んだ兵士に対してなんの感情も覚えないのと同様、なにも感じない。
そんなことに心をわずらわせるくらいなら、左右にはべらせた女に奉仕させ、責めなぶっていたい。
ガオ=ノーティコこと、小川牙雄という男は、そういう人物だった。
死んでしまい、神だと名乗る胡散臭い存在に希望を聞かれ、王様としてハーレムを築きたいと願った。
わかったと言われたのに、転生した先はしがない地方領主。
だが、地球世界では開花する前に死んでしまった牙雄の才能が爆発し、戦争をすれば連戦連勝。
王女と婚約した時点で、牙雄に取り入るために差し出された貴族令嬢の愛妾は十四人を数えていた。
降伏した敵から奪った貴族の夫人や娘も七人となり、側室や奴隷としてたっぷり愛でている。
愛妾や側室の世話係として送られてきた侍女も、若くて美人な者、二十人ほどにはすぐに手を付けていて、毎日だれを指名するか考えるのが楽しくて仕方がない。
国王にとって、いまや残されたたった一人の娘である王女と婚約するにあたり、箔を付けるためにヴィスディ家から小さくてもいいので勝利することを求められた。
といって、お手盛りの勝利で満足するような小物ではないと、牙雄は調子に乗っていた。
しかし、好事魔多しという慣用句が嘘のように、牙雄の快進撃は止まらない。
ヴィスディ家派閥のナンバーファイブと目されたそれなりに優秀な将軍を寝返らせ、ナンバースリーに対して戦争を仕掛けて大勝したのだ。
ここでも娘を人質に拠出させて降伏を許すと、王都に軍勢を引き連れて凱旋して見せる。
成り上がり者と牙雄をさげすみ、王女との結婚を引き延ばそうとしていた国王派の貴族を数人血祭りにあげ、そのまま強引に結婚式を挙げさせる。
そうして王位継承権を獲得すると、国王に迫って譲位させ、正式に国王に就任した。
封建王朝内でもはや敵なしの牙雄は、失意の中退位した先王がなくなったあと、自ら新王朝の設立を宣言。
先王からたまわった姓を捨てて、自らマッコト朝を創始した。
なお新王朝の名前を決めるにあたり、希望を問われたガオ=ノーティコは、とっさに「マコト朝」と答えた。
前世において、子どものころ見たテレビアニメの女好きな主人公に共感して、誠……もとい、「マコト朝」としたかったのだが、この世界での発音の問題でマッコト朝となったのは余談である。
王妃は若くて顔は美しく、王女として大切に育てられたために、肌つやも素晴らしかった。
だが、それだけだった。
首から下はまだ発達途上なのか凹凸に乏しく、牙雄は早々に飽きてしまった。
しかし、王妃をないがしろにして政敵にすきを見せるような不用意さとは無縁の牙雄は、義務的に王妃と連日子作りに励んだ。
そのあと、口直しにお気に入りの愛妾や側室のところに入り浸ったことも余談である。
とはいえ連日のように頑張ったせいか、無事王妃は懐妊した。
すでに愛妾や側室の何人かに子どもを産ませていたが、自分の遺伝子が国王になるというのは、それまでとはちがう興奮を覚えた。
王妃の懐妊から一年弱。
無事に王女が産まれたものの、産後の肥立ちが悪く、王妃は死亡してしまう。
とはいえ、愛情など異世界人のだれにも感じたことのない牙雄は、特に悲しみも覚えなかった。
だが、ここで淡々としていてはヴィスディ家の付け入るすきを与えかねないと判断し、牙雄は喪に服すことを発表。
ヴィスディ家に停戦を求めた。
王を僭称するヴィスディ家としては、王妃の死亡など知ったことではないのだろうが、かつて王として仕えた先王の忘れ形見の死去につけこむことはできず、停戦が成立した。
停戦期間中、王妃に気兼ねする必要がなくなった牙雄は、愛妾や側室、お手つきした侍女たちと酒池肉林を目いっぱい楽しんだ。
牙雄にとって、異世界人など同じ人間とも思っておらず、ただ性的に消費するだけの対象としてひたすら楽しむばかりだった。
そして一年が過ぎ、喪が明けた。
すでにひそかに準備させていた牙雄は、即座にヴィスディ家への攻撃を命じる。
次男を失い、長男の専横に手を焼いていたヴィスディ卿も、最近は老いたせいか消極的な姿勢が目立ちはじめていた。
カリスマ性の欠片も持ち合わせていないヴィスディ家長男では、凋落を押し留めるだけの力量がなく、ヴィスディ卿が病没すると、勢力を維持できなくなった。
父の後を襲って国王を僭称したヴィスディ家長男を見限り、諸侯が次々に牙雄のもとに降伏してくる。
瓦解したヴィスディ家の軍では牙雄のプレッシャーに抗いきれず、僭主ヴィスディは王位を返上し、妹を人質に差し出すことで降伏を許してやった。
だが、この妹が最高の贈り物だったのである。
燃えるような赤い髪をした豊満な胸をもつ彼女は、勝気な性格と、ベッドの上では従順さを見せるギャップで牙雄を大いに楽しませた。
ヒューマンの中でも、一部に根強いニンゲン至上主義を思想的に持ち、獣人はケモノに近いと差別し、アールヴなどの亜人を嫌悪していた。
その辺の主義思想には興味がなかったが、牙雄とは妙に気が合った。
相手に敬意を表した牙雄は、ほかの愛人や死んだ妻、王妃とは異なり、彼女は他の女とは一緒にベッドをともにしなかった。
複数の女を一度に組み伏せることを好んだ牙雄としては、これは珍しいことといえる。
なお彼女は思想だけでなく、ニンゲン至上主義を実践する女性でもあった。
獣人の若い女を奴隷として買い上げ、首輪をつけてペットとして飼育し、しつけと称して虐待した。
彼女が好まないので手は出さなかったが、「ペット」を虐待するときの彼女は、牙雄に組み敷かれているときとはちがう魅力を帯びていて、サディスティックな表情と行為をともに見て楽しむことを牙雄はすぐに覚えたのだった。
何人もの獣人娘が責め苦に耐えきれずに死亡したが、それすら二人にとってはプチ贅沢な楽しみであった。




