第10話 ガオ=ノーティコ=マッコト 2
遅くなり申し訳ありません。
しかも短めです。
「スモード家がまさか国王派に戻るとは……」
ガオの父親があきれたようにつぶやく。
だが、ガオにすればおかしくもなんともない。
誰しも生き残ることを確保した上で、より得をする方につくのは当たり前だ。
とうぜん、今まで味方だった方が負けそうになれば、そちらを見限って勝ちそうな方に鞍替えする。
もちろん命をかけた忠誠というものはあるが、それを除けば自分が生き残ることを最優先に、裏切ったり、表返ったりすることが悪いとはまったく思えない。
どうやら、ガオが思っていたよりも父親はナイーブなたちのようだ。
相談相手にならない父親は放置しておいて、ガオは考える。
(おそらく、俺を警戒して国王派と手を組んだな)
スモード家は、最初に国王に反乱した大貴族だ。
国内の混乱の責任を本来、一身に負うべき人物。
それが国王に頭を下げ、国王もそれを許したとなると、状況に重大な変化があったということ。
国内の勢力バランスを大きく変えた最近の出来事といえば、ノーティコ家の勢力伸張がまず疑われる。
となれば、スモード家の狙いはノーティコ家。つまりはガオだ。
「父上。頼みがあります。ウント家から嫁を迎えたいと思います」
「ウント家から。わかった」
国王=スモード連合に対抗するためには、ノーティコ=ウント連合が必要だ。
とはいえ、中堅貴族にすぎないウント家との連合だけでは、圧倒的に優勢とは言えない。
だが、ウント卿は戦上手で知られている。
劣勢でも跳ね返す力量があるが、わずかに優勢な状況なら負けはしない。
(問題は、足元を見られることだな)
ウント卿とてガオを警戒している。
なんの見返りもなく同盟を申し出ても、拒否されるだろう。
またはこちらの苦境を察して、劣悪な条件を出してくるか。
ガオの父親でなければ、国王=スモード連合の主敵がノーティコ家だということは、考えればわかることだからだ。
(下手すりゃ、国王=スモード連合と一緒になって、ノーティコ家を滅ぼしに来る可能性すらあるからな)
慎重な立ち回りが求められる。
唯一、突破口があるとすれば、ウント卿は非常に対面を気にする人物だということ。
国王と、二つの国内有数の名門貴族が三つ巴に争う中、どの勢力からも使いつぶされないように距離を置くため、独自の勢力圏を築いた人物だ。
困窮したフリをして懐に飛びこめば、無碍にはできないタイプである。
(それから、ついでにこれが最後通牒だぜ)
ノーティコ家内では、すでにガオが実質的な頭領となっている。
父親のダメダメな命令を、ガオがくつがえしたことも何度かある。
そのことで父親との関係にはすきま風が吹いているのだが、ガオから歩み寄ったりはしない。
すでに、家中はどちらかにつくかで大揉めにもめていた。
だが圧倒的に優勢だったのは、ガオの方。
ガオとしてもここが好機と、父親の派閥を積極的に切り崩しにかかった。
しかし対外的には家長と見られている父親が、この難しい交渉を上手く締結できれば、まだ利用価値はある。
だがもし失敗したなら、どこかのタイミングで引退させるか、もしくは……。
結果だけを言えば、父親は失敗した。
かなり高圧的な条件を出されたらしく、憤慨して帰ってきたものだ。
そんな姿に、失笑と失望を感じざるを得ない。
だが、笑ってばかりもいられない。
国王=スモード連合と単独で戦うなど、戦力的には狂気の沙汰である。
しかし、もう一方の王を僭称する貴族と連合する案はあり得ない。
それこそ、これまで獲得してきた領地のほとんどを召し上げられても、おかしくない話だ。
だからウント家に従うある弱小貴族をそそのかし、スモード家配下の貴族とトラブルを起こさせた。
これで国王の派閥はさておき、スモード家の当面の敵はウント家になった。
おかげで、ウント家側から共闘が持ちかけられた。
(こうやるんだよ、父上殿)
この一件で父親の権力基盤は崩壊し、ノーティコ家はガオの元に結束した。
二重権力が解消され、一元化されたことでさらにノーティコ家は対外的な攻勢を強め、ウント家とともに国王=スモード連合と激突。
だが慎重を期して、国王とスモード家との間を離間させる策略を練っていたのが功を奏し、土壇場で国王派はスモード家を切り捨てて手を引いた。
おかげでスモード家を滅ぼすことができ、封建王朝の反乱は新たなステージに突入することになった。
現在の大反乱時代における台風の目はノーティコ家であり、その中枢を占めるガオであることは、もはや誰の目にも明らかだった。
さらに衝撃のニュースが、スモード家滅亡から時間をおかずに国内をかけめぐった。
ウント家派閥が、ノーティコ家に吸収されたのである。
ウント卿自身は、戦上手である。
だが勢力的には中堅貴族ということで、動員可能な戦力は多くない。
そんな中、国内で第三位の勢力をほこるスモード家と全面戦争になったのだ。
激戦が繰り広げられ、多くの犠牲を払って辛くも勝利した。
だが、弱体化したスモード家にとどめを刺すのはノーティコ家に横からかっさらわれ、ウント卿自身も片足を失うほどの重傷を負いながら、得るものも少なく人望を失った。
仕方なくウント家は、戦死した嫡男が遺した唯一の相続人である息女をガオの妻、それも側室扱いで差し出してでも部下の反乱を抑えるほか、手が残っていなかった。
この時点で、ノーティコ家は滅亡したスモード家に代わり、国内三大勢力の一角を占めるまでに成長した。
国王派と、国王を僭称するヴィスディ家と肩を並べるまでになったのである。
とうぜん、国王とヴィスディ家の双方から警戒される。
だが、ヴィスディ家が王を僭称してくれていたおかげで両者の共闘はあり得ず、キャスティングボードはガオが握っていた。
しかし、ガオはそんなことにあぐらをかきはしなかった。
ヴィスディ卿に事あるごとに相談を持ちかけ、何度も使者に頭を下げた。
おかげでヴィスディ家との関係は良好。
警戒感が緩んでいることを実感していた。
(バカだな。豚もおだてりゃ木に登るか)
ガオは心の中で小馬鹿にしたようにせせら笑った。




