第5話 会見
今日も遅くなってしまいまして、申し訳ありません。
しかも今日も短いです。
このあとのあれやこれも書きたかったのですが、日を改めて投稿させていただきます。
「失礼いたします、魔皇様。お疲れのようですから、またにしましょうか?」
「いや、問題ない。くつろいでくれ」
会議の合間に作った約束の時間ちょうどに、マーシュ=ロンヴァ=セナケが同行者とともに現れたのを、少し疲れた笑みで迎える。
「本当にお疲れのようですね」
「あぁ、こういうのはガラじゃなくてな……」
体を重ねたがゆえの気安さで、少し弱音を見せてしまう。
だが、疲れているのは本物だ。
新しく領土に加えた旧立憲君主王国領は、首都の市民らによって選ばれる首相に政治を委ねる文化が、根付いていた。
これをどうにかしないと、せっかく征服しても首相が市民の支持を背景に反抗した場合に、最悪の場合、また流血の事態になりかねない。
とはいえ現代日本出身者として、選挙というシステムを否定する気にはなれない。
仮に、雅人の復讐が完遂されたとすると、世界中の国家は統一されることになる可能性が高い。
そうなると、どのような国家を築くのかというのが、問題になる。
雅人の血筋が統治する体制にすれば、地球上の歴史で繰り返されてきたことが、この世界でも再現されることになる。
すなわち魔王の地位をめぐって、子孫たちが最悪、殺し合うことになる。
サリカ法のように法律を決めておいたとしても、資格者の間で流血の事態を避けられるとは限らない。
そう考えると選挙システムは、一考に値する。
なにせ、カエサル大好きオバさまが、政敵を殺さずに権力の交代を成し遂げられる唯一の方法と、ほめていたくらいだ。
とはいえ、異世界モノで普通選挙を実行する話は寡聞にして聞かない。
できるかどうかも含めて考えなければいけないが、英国のように君臨すれども統治せずという体制を作れれば、子孫たちが殺し合うことは避けられる。
それ以上に、そもそも君臨する王という存在は不自由が多くて面倒なので、あえて就きたがる者がいなくなるという効果もある。
しかし、まだそんな話は時期尚早だ。
そして、それよりもやらなければいけないことが山積みな状況である。
「とりあえず、マーシュ殿。後ろの二人を紹介してもらえるか」
「はい。僭越ながら、私から紹介させていただきます」
マーシュはうやうやしく頭を下げると、同行者の紹介をはじめた。
「まずこちらが、前立憲君主王国の国王のお孫さんであられる、パール=フィンレック=ザ•コーネル様です」
「パール=フィンレック=ザ•コーネルです。民と兵たちをお救いいただき、ありがとうございました」
小柄な方がスカートの裾をチョコンと摘みながら頭を下げる。
彼女は紹介どおり、フェルディナンドの前の王にとって孫にあたる。
より正確に言えば、フェルディナンドの妻であった前王妃の忘れ形見である。
「いや。フェルディナンドを捕まえるのに成功したのは、城門を閉じてくれたパール殿のおかげだ。ありがとう」
軽くだが、頭を下げる。
「いえ。母と祖父の仇でした。そんな男の血が流れているかと思うと……我が身すら許せません」
そう言って、自分の左腕を右手でギュッと握っている。
功労者の一人であり、王族であるパールとの謁見が遅くなったのは、自分の身体に流れる血を憎んだ彼女が、開門後に自殺をはかったからである。
幸い、一命は取りとめたが、心身ともに治療を最優先と厳命させたおかげで、時間が必要だったということである。
「そしてこちらが、クーリア=モンセール嬢です」
「クーリア=モンセールです。お助けいただきありがとうございました」
「いや。元気になられたようで、なによりです」
モンセールの名が示すとおり、彼女は謀殺された軍事同盟の貴族、モンセール卿の一人娘だ。
母ともども、奴隷としてフェルディナンドに囚われていた。
母はさんざんオモチャにされた後、毒殺の実験台にされ、自分ももてあそばれ続けた。
不衛生な地下牢に繋がれていたせいで衰弱が激しく、治療に時間がかかったため、彼女も謁見が遅くなったというわけである。
「お二人とも。不本意かとは思いますが、仇であるフェルディナンドは捕らえ、継続的に苦しめているので、命を取ることはご容赦願いたい」
「魔王様にすべてお任せします」
殺してしまっては、苦しむのは一瞬だと思っている雅人としては、これからもフェルディナンドこと、塚田の命を取るつもりはない。
だが、自分と同じくフェルディナンドに恨みを持つ二人には、同じく納得してもらわないと困ってしまう。
だから一任を取り付けたことに安堵し、ホッとため息をもらす。
「魔王様。お願いがあります」
「なにかな、パール殿」
思いつめたような表情を浮かべるパールとクーリアに続きを促す。
「クーリア様とも話し合ったのですが……私たち二人も、魔王様のおそばに置いていただけないでしょうか」
危うくなにかを噴きそうになる。
いや大歓迎だが、どうしてそうなる?
「私たち二人。もう身よりもありませんし、私たち二人が魔王様のおそばにいるということ事態が、政治的なメッセージになるからです」
なるほど。
前王朝の最後の一人が雅人につけば、アイェウェ軍に征服されたことについての正統性の問題を回避できる。
モンセール領についても、領土の正統な継承者が魔王のそばにいれば、アイェウェ領になることに異論は出ない。
「恐ろしくはないのかな?」
そばに立つパルムのジト目を華麗にスルーしながら、受諾の意を言外にこめて問いかける。
「マーシュ様のお話をうかがいましたから。そこは問題ありません」
「なるほど。承知した」
これも政治とにこやかに笑って、少し話をしたあと、三人を下がらせた。
「マサトー様。顔」
ニヤけてしまっているのを、嫉妬したパルムにぶっきらぼうにたしなめられる。
「はい、すみません……」
さぁ、藩王たちの御機嫌取りも頑張らなければいけないなと思いながら、雅人は次の会議の準備を命じた。




