第2話 再会
すみません。遅くなった上に短いです。
「マサトー様。本当に、本当にありがとうございます……」
「わかった、わかった。いいから泣き止め」
エリーが何度目かわからない感謝の言葉とともに、頭を下げる。
それを雅人は苦笑気味に受け止めた。
「あ、あの……ま、魔王……様……私も、助けてくださって……その……ありがとうございます……」
「ルカだったな。そんなにかしこまらなくていいぞ」
アールヴの常識から脱却できていないルカ=ベルッドは、雅人の前でビクビクと恐怖に震えながらも、ちゃんと救出された礼を述べた。
エリーの末の妹であるルカが、立憲君主王国のとある商人の家に買われていたのがわかったのは、首都占領後のことだった。
アールヴ奴隷を購入となればそれなりの話題になりそうなものだが、ずっと秘匿されていて諜報活動でも引っかかってこなかったのだ。
そう聞くと、地下牢にでも閉じこめられて変態にもてあそばれていたのかと心配になるが、そうではない。
購入した目的が美しい少女を養女にして、できるだけいい条件の家と婚姻関係を結ぶことだったため、かなり大事にされてきたらしい。
もっとも、立憲君主王国が征服されて滅亡したために、商家の存続を当の商人は危ぶんだようだ。
雅人に対する献上品として差し出してきたのを迎え入れ、エリーと再会させた。
もちろん、養親として大事にしてくれていた当の商人には十分報いるつもりだ。
現代日本的な感覚ではワイロになってしまうが、前近代の社会であるこの世界では、こういうことを大事にしないと色々と回っていかない。
郷に入っては郷に従う柔軟性が求められている。
(かといって、この世界の価値観に染まりすぎると、簡単に人を殺せるからな……そこは自重しないと)
人命がなにより大切という考え方そのものが、そもそも現代的なものだ。
明治維新前の日本だって、武士道とは死ぬことと見つけたりするし、なにか責任を取ることがあればすぐに腹を切ろうとした。
罪人は簡単に死罪を言い渡され、どうせ殺すならと対馬の防衛のための捨て駒として送りこまれるくらいのことは、平気でなされる。
異世界だって命は軽い。
まったく事件の原因に関係がなくても、大規模な転移事件という魔力災害が起きれば、責任を取らされて領主は処刑されてしまう。
次期ツェントの座をめぐっての政変でも、かなりの人命が失われたと語られたことから推測できる。
でも、だからこそ雅人としては無意味な殺りくはしたくないし、復讐はしても戦争はできるだけ回避したいと思っている。
幸いなことに、雅人の復讐を見るのを楽しみにしている自称神も、ルドラサウムみたいに戦争しているのを見るのが好きなわけではない。
「エリー、一週間休暇を与える。妹と仲よく過ごせ」
「ありがとうございます」
昨日も……というか、昨日まで一ヶ月ほど毎日愛でたので、淫紋の方は問題ないだろう。
まだ上の妹の安否はわからないし、母親も取り戻せていない。
それでも、嬉し泣きで鼻まで真っ赤にしているエリーを見て、雅人の心も温かくなる。
(まぁ、イノシシの皮を被ったヤツでも、他人の思いやりに触れたらホワホワするわけだし)
前世では両親を亡くし、生まれ変わったら父親は息子に愛情を抱かず、母親は死んでしまっている。
姉は政治的なライバルとしか幼い頃から見なさず、弟は何を考えているかわからない。
およそ、家族愛というものに二十年近く無縁な生活を送っていたので、エリーの愛情の深さが微笑ましい。
(よし。みんなの笑顔のため、頑張るか)
復讐は雅人の生きる上での重要な要素になっている。
だが、それと同じくらい彼女たちを護り、慈しむ気持ちも雅人の中で育っていた。
(生まれ変わった当初は、こんな気持ちになるとは思わなかったな……)
何度も頭を下げながら退出するエリーを笑いながら送り出し、雅人は少し過去にも思いを馳せた。




