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俺、ヲタクでイジメられてたけど、異世界で魔王に転生したので、クラスメイト全員に復讐します!  作者: JKL
第1章 イジメられてた俺、転生したのでまずはクラスのモブキャラカップルに復讐します
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第8話 追憶

(もう、疲れた……)

 慣れ親しんだアールヴの杜では見たことのない、見た目すら怪異な種類の大木に寄りかかり、エリー=ベルッドはそのままズルズルと背中を滑らせてへたり込む。


 もう何時間さまよっただろうか。

 歩きなれない場所で追われたせいで何度も転び、顔は泥だらけ。

 むき出しの腕や脚はいつの間にか枝に引っかけた傷が、いくつもついている。

 なにより昨日から丸二日、ほとんど何も食べていない。

 もう、空腹で一歩も動けそうにない。

「う、うぅぅっ……」

 何も考えずに足を動かしていられた間はよかったが、疲労を自覚してしまったことで自分の境遇を思い出してしまい、悔しくて涙がこぼれる。

(どうして……どうしてお父様が殺されなきゃならなかったの?)

 まだ十代のエリーには考えても答えなど出るはずもない。

 それでも考えずにはいられない。

(ぜんぶ、あの男が悪いんだ……)

 誰かを恨まなければ、もう気力ももたない。


 つい一週間前まで、エリーは幸せだった。

 優しい父と美しくて慈母のような母。

 姉であるエリーに負けたくないと可愛らしい勝負を挑んでくる上の妹と、エリーにあこがれていつも後ろをついてくる下の妹。

 優しい家庭に育ち、多くの使用人にかしずかれる満ち足りた生活。

 父の意向で使用人たちも休みが十分に与えられ、家の中はいつも笑顔であふれていた。

 それがある日、突然くずれた。


 その日は朝から雨が降り、アールヴ辺境伯領の首都リヴェリアはどこか嫌な雰囲気につつまれていた。

 それでも朝、お城へ出勤する父を見送り、娘たち三人で争うように父の頬にキスをする。

 いつもとなにも変わらない一日のはじまり。

 になるはずだった。


 昼には珍しく雷雨になった。

 妹たちが怖がるのでそばにいてやり、本を読み聞かせてあげる。

 もう十一歳だと言うのに、上の妹であるミレーは雷に怯え、来月十歳になるルカも雷鳴のたびにギュッとしがみついてくる。

「姉様……風と水の精霊様が怒ってらっしゃるよ……」

 三姉妹で一番整った顔立ちのミレーが震えながらつぶやく。

 他種族に比べれば断然美しいアールヴの中にあっても、三人とも美人の誉れ高い姉妹と言われているが、エリーとしてはミレーの顔を見るだけでうっとりしてしまう。

 それくらい、ミレーは姉のひいき目を割り引いても美しい少女だった。

「大丈夫よ。風のシルフ様も、水のウンディーネ様も、心穏やかでいらっしゃるわ」

 エリーは覚えたての精霊魔法を使って精霊にお越しいただき、妹を安心させる。

 シルフもウンディーネも、エリーの魔力操作に合わせて、陽気に踊っている。

「エリー姉様、スゴイ……」

 相変わらずエリーの服をつかみながらも、ルカがまだ幼い顔を輝かせて精霊を見る。

 だが、雷光が窓から入ってくると、小さい悲鳴を上げてエリーの服に顔を隠すようにうずめる。

 ピカッという雷光と、ゴロゴロという雷鳴が近かったので外を思わず見ると、屋敷の前に見慣れない馬車とたくさんの兵士が集まっていた。


 もうすぐ成人の儀が視野に入る年齢とはいえ、まだ子どもと見られているエリーに、両親は政治のことをほとんど教えてこなかった。

 だから、残念ながらわからないことの方が多い。

 そもそも、数百年前のダイロトの勝利以来の名門ベルッド家は、エリーがふさわしい男性と結婚して継がせることが決まっていた。

 アールヴは魔力絶対主義と、貴族は男性が継ぐのが望ましいという価値観が根付いているので、エリーは花嫁修行をしていれば父や母が喜んでくれた。

 元々、七歳の名付けの儀において辺境伯への御目通りが叶うほど、エリーの魔力は同年代でも優れている方だ。

 魔力に優れたよき伴侶を見つけ、子をなせば、遺伝的に魔力量の多い子どもが生まれやすくなる。

 そうなれば、次代のベルッド家も安泰だと確信できる程度には。

 将来の不安といえば、その結婚相手のことを好きになれるか、という恋も知らない乙女なものだけだった日々は、その日終わりを迎えた。


 貴族の館への訪問の作法も無視した兵士たちが、傍若無人に屋敷に侵入する。

 エリーのお気に入りだった花壇は無惨に軍靴に踏みにじられ、昨日まで妹たちやメイドたちと笑い合った庭園は武器を持った者たちに占拠されてしまい、もう見る影もなくめちゃくちゃにされていた。


「どのような権限で当ベルッド子爵家に侵入したのですか? 事と次第では辺境伯様に訴えますよ!」

 父から信頼されている執事長が白いヒゲの間から声を上げ、門をこじ開けた兵士たちに詰めよる声が聞こえる。

「ギュイターク=ベルッド子爵は本日、辺境伯様への謀反の疑いによって拘禁された。我々は、辺境伯様よりの御命令により、ベルッド子爵家での追加証拠の探索と、妻子の連行を命じられている。抵抗すれば子爵の心証が悪くなるぞ」

「そんな、あの人に限って謀反なんて……何かの間違いです。もう一度お調べください」

 兵を従える将の言葉に母が夫の無実を訴える。

「いや、義姉上。残念ながら事実です」

 ゾワッ。

 その不快な声を聞いて、エリーは立ち上がった。


「二人とも、ここに居て。大丈夫。お父様が悪いことをなさるはずがないわ。きっとなにかの間違いよ。それを確認してくるわ」

 不安で今にも泣き出しそうな妹たちをメイドに預け、エリーは階下に向かう。


「私が兄上から謀反の企てを聞いたのです。そんな恐ろしいことは受け入れられないと断り、一度は兄上だから黙っておこうと思いましたが、辺境伯様への忠義のため、証拠とともに報告しました。すべては兄上の過ちです」

「つまり、あなたが父を悪者に仕立てあげたのね」

 母や使用人たちを相手に独演会のように話し続ける叔父ムッコヤム=ベルッドに憎悪をこめた視線をぶつける。

「ひっ! え、エリー。伯父に向かってなんて魔力をむけるんだ…」

 父の異母弟であり、本来は魔力が低くて貴族の地位を与えられないところだった男は、ウキウキとした声で話していたところから一変して、恐怖に顔を青ざめさせている。

 父と半分血が繋がっているとは思えない、みにくいぜい肉をたくわえた体が、いまやガタガタと震えている。

 伯父が冷や汗をかいているせいで、キツイ体臭が辺りにただよい、吐き気をもよおすほどだ。

 魔力が少なくてせいぜい騎士爵くらいが関の山と言われていたのを、継母に泣きつかれた父が準男爵に引き上げてやったと、屋敷の誰もが知っているのに。

 恩を仇で返すとはこのことか。

 先ほどの話を整理して、この男が父を悪者にしたのだと、幼心に理解したエリーは、怒りにまかせて悪人を殺してしまおうと魔力を解放する。

 だが。

「エリー、やめなさい」

 伯父とエリーの間に、母が立ちふさがる。

「お母様? どいてください。この男がお父様を、お父様を!」

 正直、細身の母が立っていようと、その後ろにアールヴにあるまじき、だらしないぜい肉のかたまりは丸見えで、魔力をぶつけるのに支障はない。

 だが、悲壮感を漂わせた母の美しい顔を見て、エリーは矛を収めざるをえない。

「証拠はないわ……さすがに証拠を残すほど愚かではないでしょう。それに……あなたがここで暴れては、ギュイターク様への辺境伯様の心証が悪くなってしまうの。わかって」

 屈辱に唇を震わせた母に止められ、エリーは泣く泣く魔力を収める。

「同行願おう」

 魔力封じの魔導具である手枷をはめられる。

「待って! 妹たちはまだ小さいの。なにも関係ないわ」

 懇願するが、現場の将はまったく斟酌する気配もない。

「ならせめて、一緒に居させてっ! 不安がっているの」

「そうやって仲よく逃亡する気か」

「なっ!」

 悪意ある言葉をぶつけられ、エリーもようやく理解した。

 この一連のものがすべて茶番で、エリーたちが犯罪者になることがすでに決められているのだと。

(お父様……せめてご無事で……)

 幼いエリーには、祈ることしかできなかった。

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