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俺、ヲタクでイジメられてたけど、異世界で魔王に転生したので、クラスメイト全員に復讐します!  作者: JKL
第3章 イジメられてた俺、転生したのでクズ野郎どもに復讐します
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第31話 立憲君主王国滅亡 5

「くそっ、開けろ。門を開けろっ! フェルディナンド=フィンレック=モンセールだ。お前たちの国王だぞ。なぜ門を開けないっ!」

 砦の塔の扉をくぐると、そこは首都のすぐそばだった。

 前世で見たSFのワープみたいな瞬間移動に驚きつつ、これで助かったと安どのため息を吐いた。

 周りに護衛の兵はだれもいないのは不安だが、中に入れば安心だ。

 急いで城門をたたく。

 だが何度たたいても、どれだけ大声を張り上げても、反応がない。

(まさか……首都も魔族の手で……)

 恐ろしい予想が頭をよぎる。

 もし首都まで陥落していたら、立憲君主王国の国王を名乗っている場合ではない。

 早急に他の国で国王を目指さなくては、老人になってしまう。

(まさか……まさか……そんな……これまでの苦労はなんだったんだ……)

 がくぜんとしながら、門をたたくのを止める。

 あまりのショックで、ヨロヨロと城門から距離を取るように後ずさり、高い門扉を見上げる。

 幸い、どこにも戦争の跡は見えない。

 だから、まだ無事だという予感もありつつ、ならばなぜ自分に対して門を閉ざすのかという疑問が晴れない。

「おぅい! だれかいないのか? 国を愛する、憂国の民は!」

 手をメガホンのようにして城内に呼びかける。

 その言葉が効いたのか、待望の反応が返ってきた。

 ただし、それはフェルディナンドが望むものではなかった。

「うぁぁっ」

 足元に、矢が射かけられる。

 危うく足が地面に縫いつけられるところだった。

「何者だ! 我は、フェルディナンド=フィンレック=モンセール。この国の国王だぞ!」

 怒りに任せて叫ぶが、その返答は複数の射撃だった。

 焦って数十メートルの距離を走って逃げる。

 かつて軍にいた頃は鍛えていた体も、政治家に転身してからは美食や美酒によって肥え太り、少し走っただけで息が上がってしまう。

「はぁはぁ、なんなんだ……」

 息が上がりすぎて立っていられず、膝をついて荒い息を吐く。

『て、テニス部の……練習じゃ……ないんだぞ……』

 前世で、嫌で嫌でたまらなかった無意味なランニングを思い出し、思わず日本語でつぶやく。

 軍隊での訓練では基本的に持久走ばかりで、今のように短距離全力疾走など、生まれ変わってから記憶にない。

「クソ……くそっ……だれだ、国王に矢を向けるような不届き者は……」

 ゼェゼェと息を吐きながら、城壁の上に顔を向ける。

 そして、ポカンと口を開けた。

 城壁の上には、まったく予想していなかった人物の顔が見えた。

「ど……して……」

 王妃と王子が、城壁の上からフェルディナンドを見下ろしていた。

「リッカ! 私だ。フェルディナンドだっ。安心してくれ。魔族に乗り移られたり、偽物が化けたりしてるわけじゃない!」

 前世のお伽話で、妖怪やお化け、悪魔がそんなことをしていたのを思い出しながら、自分は正常で本物だとうったえる。

 だが、王妃であるリッカ=フィンレック=リヴァップは、冷ややかな視線を改めなかった。

「フェルディナンド=フィンレック=モンセール。あなたの悪行、我が国では赤子すら知っています。裏切り者を受け入れる余地はありません。去りなさい」

 あまつさえ、フェルディナンドを受け入れることを拒否した。

「ふ……ふははは……俺に去れ……だと?」

 あまりに愚かな物言いに、笑いが出てしまう。

「お前は、俺と結婚したから王妃なんだぞ! 俺がいなければ、お前なんてただの外国人だ。お前が去れ!」

 激昂して叫ぶが、門は開かれない。

 なぜだ。

 どうして?

 この国の王は俺なのに。

「あなただって、軍事同盟の出身でしょう?」

 完全に見下すような言い方に、プチンと頭の中でなにかがキレる。

 魔法を練り上げ、反乱を起こした王妃を誅殺しようとした。

 だが、王妃が挙げた右手を振り下ろした瞬間、フェルディナンドの魔法よりも先に矢が左足に突き刺さった。

「ぐぁぁぁぁっ!」

 激しい痛みに、発動寸前だった魔法がキャンセルされる。

「リッカ……貴様……」

「うるさいぞ、裏切り者!」

 怨嗟の視線でリッカをにらむが、横から兵士たちに罵倒され、フェルディナンドはサッと頬を紅潮させた。

「そうだ。なにが英雄だ! ただの卑怯者じゃないか!」

「騙して殺したり、毒殺したりしておいて、なにが英雄だよ。嘘つきめ」

「聞こえますか、フェルディナンド。あなたのことを擁護する人は、この国にも、軍事同盟にもいません」

 なにを……なにを言っているんだ?

 俺は国王だぞ?

 二王国の英雄だぞ?

 その俺が、見捨てられてる?

 そんなこと……許されるわけがないだろう?

 そうだ。

 間違っているのはリッカだ。

 罰を……与えなければ。

 何がいい?

 どんな罰が……。

 だがそんな自分勝手な考えは、再び足元に矢が突き刺さったことで中断をよぎなくされ、フェルディナンドは恐怖にかられてその場から逃げ出した。


***


「あー、くそ。みんなくそだ」

 半日ほど、見つからないように薄暗い森の華を逃げたところで、立ち止まる。

 足に矢が刺さっているので、それほど遠くまで行けたわけではない。

 腹も減っている。

 これからどうするかと考えるために立ち止まってみると、よく考えればリッカも、命令で矢を撃った兵士も、ともに女の股から産まれた者だ。

 フェルディナンドを殺すことは、できないはずだった。

(惜しいことをしたな……)

 あのまま、どうにかして門を開けさせてしまえさえすれば、思い上がったリッカや一部の兵士たちを処罰し、大部分のフェルディナンドに心を寄せている兵士や民衆と、魔族に対抗するための義勇軍を作れたかもしれないのに。

(そうだ。戻ろう)

 薄暗い森など、英雄たる自分には似合わない。

 ましてや、そんなところで逃げ回っているなど、大いにプライドを傷つけられた。

 その報いを受けさせなければ!


***


「はぁ、はぁ……なんだ……あの、化け物は……」

 もう一度自分が姿を見せて、城門を開けさせようと思い直してから数時間が経っただろうか。

 空腹と久しぶりの長距離移動に、全身が悲鳴を上げた。

 辛うじて小川を見つけたので、喉こそ渇いていないものの、獲物を狩る体力はない。

 足の痛みもある。

 もう一歩も歩けないとへたりこんだフェルディナンドの前に、「それ」は現れた。

 両手に、それぞれバカでかいモーニングスターがついた鎖を持った少女。

「あはっ、見つけた」

 目が合った瞬間にヤバいとわかる、圧倒的なプレッシャーに、フェルディナンドは必死に逃げ出した。

「逃げるなよー」

 モーニングスターが、左右から迫ってくる。

 一つがフェルディナンドの身長の半分ほどある鉄球が、ビュンビュン、ジャラジャラと音を立てて襲ってくる恐怖に、空腹も忘れて逃げまどう。

 森の中なので、木々に隠れながら逃げる。

 だから、フェルディナンドの姿は見えていないはずだ。

 それなのに、モーニングスターは真っ直ぐフェルディナンドに向かって飛んできた。

 破壊力が強すぎて、進路上にあった木の幹に穴を開けながら。

 とうぜん、当たったら命はないだろう。

「どうして……こんな、目に……」

 こめかみの辺りに心臓が上ってきたと錯覚するくらい、心音が激しく感じられる。

 心臓の悲鳴に気を取られたのか、足元がおろそかになっていたようだ。

「うぐっ! くそっ……」

 木の根に足を引っかけ、盛大に転んでしまった。

(早く……立ち上がらないと……)

 だがもう、立ち上がる気力も体力もない。

 と、フェルディナンドが寝転がっているそばの木が、モーニングスターによって粉砕された。

「ぎゃあぁっ! 痛い……いだぃ……」

 この戦争がはじまるまでの、フェルディナンドとしての人生では、傷など負ったことがなかった。

 それなのに降り注ぐ木の破片のいくつかが、明確な意図を持つかのように突き刺さる。

 足に刺さった矢の痛みだけで充分なのに、さらに木片まで刺さっては、大声で悲鳴が漏れてしまう。

 見つかるから悲鳴を抑える、という考えは頭に浮かばない。

 痛い、いやだ、助けて。

 そんなうめき声を上げて、あまりの痛みに地面を転げ回る。

「あー。そんなところでわめいてると、簡単に見つかるんだが」

 フェルディナンドの前に、死神が舞い降りた。

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