第19話 盟主への復讐3
今日も遅くなって申し訳ありません。
また、短いです。すみません。
「魔王様……夫、タック=セナケ=ハオーはおろかにもあなた様に戦いを挑み、敗れました。ですが、民衆には責はございません。どうか、寛大なご処置をお願いいたします」
岡田尚生の生まれ変わり、軍事同盟の盟主タック=セナケ=ハオーを一騎打ちの末に捕縛した雅人は、すでに継戦能力を失っていた軍事同盟軍を武装解除し、首都であるジラフを包囲した。
恐ろしい魔王と魔族に攻囲され、パニック寸前の都市と城内を鎮めたのは、盟主タックの妻であるマーシュ=ロンヴァ=セナケであった。
自ら軍事同盟において罪人がまとう、血の色を連想させるような真っ赤な囚人服を身に着け、護衛を排して単身、魔王の元に進み出てきた。
「民衆だけでなく、我がままを申させていただければ、兵士たちも命令されて従軍したのみ。あわせて助命いただけるのなら……この細首と夫の太い首の二つ。見せしめとしてともにお刎ねいただいても、本望です」
「殊勝な心掛けだな」
深々と頭を下げるマーシュからは、殺されることへの恐怖は見えない。
それよりも、自らに与えられた責務を懸命に果たそうという使命感に似た何かが漂ってくるようだ。
(たしかに言われてみれば姫に似ているが……心根は全然ちがうな)
自分と夫の命を引き換えにしてでも民衆と兵士たちを助けようとする姿は、転生者の王族ばかりを相手にしてきた雅人の目に新鮮な驚きをもたらした。
妻の命乞いをした田中、肉親同然の家臣を殺してでも助かろうとした小池。圧倒的な実力差を認めることができずに無駄な抵抗を繰り返した池井、息子を救うためならなんでもすると言い放った難波江。
そんな低俗さとはちがう、本物の王族らしい姿に、雅人の好感度は爆上げだった。
(ファーナが入れ替わる前の王女様だったか、王妃だったかが言った、「王族にとって一番間違ってはいけないのは、死ぬべきとき」だってのを体現しているのは好ましいね)
雅人は目を細めて、土下座したままのマーシュの後頭部をながめた。
とはいえ、岡田を殺して復讐とするつもりはないので、王妃についても殺さない方針だ。
ならばどうやって雅人の個人的な復讐と、アイェウェ軍に刃を向けたことへの懲罰的な見せしめを両立させるか。
(毎回同じじゃつまらないし。お古とはいえ、元クラスメイトじゃないからな)
別に純潔への過剰な信奉はない。
というか、たまたま雅人の周りにいるのはみんな初めてだっただけで、気にしすぎたりはしない。
もちろん男として少しは幻想というか、ちょっぴり嬉しかったりはする。
だが真っ白なキャンパスだけでなく、たまには他人の色で染められた布地を、自分色で塗りつぶすというのも悪くない。
「タック=セナケ=ハオーは罪人として捕縛されている。ゆえに、マーシュ王妃。あなたが今、この軍事同盟の最高権力者と仮定して話を進めさせてもらう」
頭を上げるように言ったマーシュと、前提条件の確認をする。
軍事同盟を料理するのに、盟主ないしは盟主代行と合意したことかどうかというのは大事な話だ。
あとで横やりを入れられてひっくり返されないようにするために。
「あなたには、タック=セナケ=ハオーに対して反旗を翻した者たちを許すつもりはあるか?」
「……許すつもりもなにも、私に対する叛意ではありません。それに……私の父も、かつてはセナケ家と対決しました。心情的には、その方々のお気持ちも理解できます」
どうやら、父親の命を人質にして強引に娶られたことに対して、思うところがあるようだ。
「で、あるか。ならば、セナケ家に対して要求しよう」
そう雅人が言った瞬間、マーシュの身体に一瞬だけ力が入った。
「セナケ家は、新しい盟主として我、シャーン=カルダー八世を推挙してほしい」
(あ、目が点になってる)
予想の斜め上の要求だったのだろうか。
マーシュは数秒間、固まっていた。
「し……失礼……しました。魔王様が……新しい、盟主……」
「国の成り立ちを考えれば、我ほどふさわしい者はいないだろう?」
にやりと笑ってやると、マーシュは視線をそらして数秒考える。
「……たしかに。他国からの侵略を撃退いただくのに、魔王様ほど適任はいませんね……」
そう。
資格だけなら、魔導王国が誇っていた魔導騎士を壊滅させたアイェウェ軍と、四天王の一人であるオーガ=ヴァーク=アデシュをやすやすと撃退したシャーン以上の適任者はいない。
軍事同盟という名が示すとおり、他国からの攻撃を連合して退けることが国是なのだから。
だが、即答できないのは……。
「魔王たる我が恐ろしいか」
ぴくっとマーシュの肩が動く。
まぁ予想されていたことなので、怒ったりはしない。
「ふふ。マーシュ殿には、推挙くださるだけでいい。あとは……必要なら実力で、盟主にふさわしいことを証明して見せよう」
「……かしこまりました。この身はすでに魔王様のモノ。いかようにもお使いください」
そんなこと言うと、張り切っちゃうぞ。
なんて邪な感想を抱きながら、とりあえず政治が最優先だと思い直して雅人はうなずいた。
「かたじけない。あとは……反乱軍にも通達しよう。我を盟主と認めるか否か。その回答次第で、反乱の罪に問うかどうかを決める」
「反乱軍にまで、寛大なお心遣い。感謝いたします」
雅人は、マーシュが再び深々と頭を下げたのを満足そうに見つめた。
話の展開的に、これ以上は別の日の話になってしまうので、短いのですが投稿させていただきます。
このあと(まだ書いてます……)、ノクターンの方に久しぶりに投稿しますので、年齢的に問題ない方はそちらもご覧ください。




