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俺、ヲタクでイジメられてたけど、異世界で魔王に転生したので、クラスメイト全員に復讐します!  作者: JKL
第3章 イジメられてた俺、転生したのでクズ野郎どもに復讐します
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第16話 タック=セナケ=ハオー 3

遅くなりまして申し訳ありません。

(勝ちに不思議の勝ちあり、とは言うが……それにしても……)

「勝ちすぎたな……」

 雅人がため息とともにつぶやくと、何人かがびくっと反応した。

(どうしてこうなった……?)

 肘掛けに肘をついたまま、右の手の平で口元をおおうようにしながら、雅人は考えた。

 予定では、立憲君主王国の軍を防いでいる間に、雅人たちの主力が軍事同盟軍を蹴散らし、挟撃する……つもりだったのだが……。

 うまく行き過ぎて、鎧袖一触。

 ただの一戦で敵の二つの軍が霧散してしまった。

 その鮮やかさは、まるで某劣等生の雲散霧消ミスト・ディスパージョン並みだ。


 ふと目をあげると、エリーも藩王たちも恐縮したようにうつむいている。

 トスタナはひょうひょうとしているが、空気を読んで黙ったままだ。

「いや……その、悪いことじゃない。勝って悪いなんてことがあるわけないだろ」

 空気が重すぎて、慌ててフォローする。

「とりあえず、だれも犠牲者が出なかったことは喜ばしい。うん。それが最優先だ」

 昏い雰囲気をどうにかしようと、わざと明るい声を出す。

「そうですねー。さすがはマサトー様。素敵なお考えですー」

 マーキアが雅人の意図を読んで同調してくれ、少しほっとした空気が流れる。

 それはありがたいのだが……。

 絶妙に、メイザース家に仕える双子鬼の髪の毛が青い方みたいな、手放しの賞賛はくすぐったいぞ。


(しかし……本当にすごいのは、へっぽこ宮廷画家だな)

 真っ暗闇の中、敵に同士討ちをさせるアイディアは、敵が兵を分けたことを察知したエリーが、なにかに利用できないかと提案してきたことに、雅人がアレンジを加えて実行させたものだ。

 同士討ちと気づかせないよう、呪いを解く方じゃないシャナク的な暗闇を深める魔法は使わせたのだが、それにしてもどうしてあそこまで気づかないんだろうと不思議でならない。

 彼らとしては恐ろしい魔族と戦っているという恐怖と、闘えているという高揚感で、その辺りの感覚が麻痺していたのかもしれない。

 まぁ、フランス最初の偉大な王と称えられたフィリップ=オーギュストですら、同じく夜襲したら同士討ちだったという策にハマったわけだし。

 しかもあっちは、ご丁寧に罠まで仕掛けて。

 な……何を言ってるのかわからねーと思うが、策を授けた雅人自身もあまりにうまく行き過ぎて、恐ろしいものの片鱗を味わった気分だ。

(アル=アーディル・ヴァレリー。恐ろしい子!)

「あのー、マサトー様ー?」

 ごほん。

「すまん。なんでもない」

 ちょっと考えごとに集中しすぎてしまったようだ。

「とりあえず、上手く行きすぎた。悪いことではないが、このままでは俺の気がすまん。少し計画を修正して、盟主殿に意地悪をして困らせてやろう」

 雅人が言うと、藩王たちがようやくホッとしたようにクスクスと笑った。


***


「くそっ。生かしておいたのが間違いだったか!」

 タックは、命からがら軍事同盟の首都であるジラフに帰還した。

 ともに出撃した側近たちはことごとく生死不明であり、政治面ではすぐに大混乱に陥った。

 悪いことは重なるもので、タックたちの苦境を見計らったかのように、かつて散々叩いて壊滅的な被害を与えた者たちの一部が、再び反乱を起こしたのだ。

 対応に苦慮することになってしまった。

 しかも、反乱軍を率いるのはタックの父親である、先代盟主である。


 軍事同盟という国家が崩壊してしまうのではないかと思うほど、タックに対する反乱は国の半分以上に及んだ。

 おかげでタックはジラフを離れることができない。

 タックがジラフに留まっているからこそ、味方してくれている領主もいるのだ。

 人質の身を案じている者もいるだろう。

 そしてタック抜きで勝てるほど、父が率いる反乱軍は弱くはなかった。

「くっ……おとなしく酒と女に溺れていればいいものを……」

 追放生活ではそんなぜいたくはできず、すっかり昔どおりになった父によって、ただでさえ魔族との敗戦で弱体化した軍が打ち負かされてタックは窮地に陥る。

「援軍を要請した立憲の軍はまだか!」

 タックは事ここに至り、プライドをかなぐり捨てて立憲君主王国に援軍を要請したのであった。

 だが。

「我が国と貴国の盟約は、あくまでも魔族と戦うためのモノ。内戦への干渉は控えさせていただく、とのことです」

「クソがぁ!」

 フェルディナンド=フィンレック=モンセールの裏切りに、タックは執務机を殴り壊すほど当たり散らす。


「も、申し上げます」

 しばらく目に入る物を壊しまくってストレスを発散させていたタックの元に、伝令兵が恐怖に震えながら報告に訪れた。

「……なんだ」

 執務室内を、まるで大型台風が直撃したような惨状に変え、ようやく少し落ち着きを取り戻したタックは、荒い息を吐きながら続きを促す。

「魔族から伝言のついた矢が届きました」

「貸せっ」

 矢文を引ったくるようにして広げる。

 毛嫌いされる魔族相手とはいえ、わざわざこんな手のこんだことをするのだ。

 なにか意図があるに違いない。

 溺れる者はマラ……ごほん。藁をも掴む心境のタックとしては、読まない選択肢はなかったであろう。

「タック様……?」

 読みながら震えているタックの様子におびえ、伝令兵は思わず声をかけてしまう。

「殺す。絶対に殺してやる」

 目が座った異様な表情でタックはつぶやいた。

「あ、あのう……た、タック様?」

 声をかけられてようやく伝令兵の存在を思い出したのだろう。

 気まずそうな顔をしたタックは少し待てと命じた。

「これを魔族の軍に打ち返せ」

「はっ」

 伝令兵が持ってきた矢に紙を巻きつけて命じた。

 疑問はあるが、めちゃくちゃになった部屋を見れば、一刻も早くこの場から逃げたいと、伝令は急いで退散したのだった。

「見てろよ……魔王! 殺してやる」

 タックのつぶやきを聞く者は、誰もいなかった。


***


「我が君。獣人の奴隷たちの解放を確認しました」

「ご苦労」

 軍事同盟の首都、ジラフを包囲したアイェウェ軍は、要求どおりに市内にいた獣人たちが解放されて保護されたことを確認して包囲をゆるめた。

 もっとも、恐ろしい魔族が囲んでいるところを突破して逃げ出そうという気概のある者はだれもいないのだが。

「これで、犠牲者はこれ以上出ないな」

 軍事同盟でも獣人たちは、ひどい境遇に追いやられていた。

 奴隷としてこき使われ、消耗品のように扱われる。

 それだけでなく、戦争にも駆り出される。

 粗末な武器を与えられて先陣を切らされ、敵を疲弊させる捨て駒にされたのだ。

 後ろで督戦部隊が逃亡を防ぐ中、必死に戦わされる獣人たち。

 先の対魔族戦争には運良く駆り出されなかったものの、内乱には投入されて多くの犠牲を出していた。

(それじゃぁ、ティナとの約束は果たせないからな)

 なんでもしてあげるという約束はまだ保留中だ。

 それも軍事同盟を滅ぼしたら、とりあえずほぼ達成したと言えるだろう。

 マーキアやアヤたちが見ているので顔がニヤけないように注意しながら、雅人は立ち上がる。

「では行ってくる」

「頑張ってくださいー」

「奮闘、注目。応援」

「頑張って、バカをめちゃくちゃのぎったんぎたんにしちゃってください」

 三者三様の声援を受けて、雅人は陣幕の外に足を踏み出した。

明日から、ようやく復讐再開です。

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