第10話 連合軍侵攻1
遅なりましてすみません。
推敲ができていないのですが、投稿させていただきます。
「立憲君主王国と軍事同盟の連合軍ですが、軍を二手にわけて進んでおります。計画によると、立憲君主王国軍は獣人領に侵入し、同盟軍は魔導王国領へ侵攻。獣人や魔導王国民を解放するつもりとのことです」
「兵力はどのくらいだ?」
ワカナが集めさせた情報を元に、連合軍の概要を説明すると、雅人は気になったことを質問した。
わざわざ軍を二分するのだ。
よほど自信があると見える。
「立憲君主王国の軍は志願制ですので、五万ほどです。軍事同盟は徴兵制ですし、盟約に基づいて出兵しておりますので比較的多く、十万から十二万といったところです」
「……ずいぶん……少ないな……くくくっ」
予想兵力の半分とはいえ、大軍を前にして笑い出した雅人を、藩王たちがジト目でみてきた。
ティナなんて、頭大丈夫かくらいの、まるで汚物か虫でも見るような目をしている。
やめてくれ。
いくら、同じく後宮にいる女性からの視線とはいえ、壬氏じゃないので、そんな目をされて興奮する趣味はないんだ。
「あのー、我が君ー?」
藩王たちがアイコンタクトで責任を押し付けあった挙げ句、一応最年長ということでマーキアに役目が回ったようだ。
恐る恐る、声をかけてくる。
「なんだ、マーキア」
普通の声で答えてやると、あからさまにホッとされた。
解せぬ。
そんなにおかしかったか。
「そのー、これってー、嫌がっていらした二正面作戦を強要されてるんじゃないかと思うんですがー」
「なるほど。そういう懸念もあるのか」
雅人はどう説明しようか、あごに手を当てて考える。
一言で言えば、ロイド君、それ二正面作戦じゃないから! ということなのだが、それだけでは納得させられないだろうし、今後のためにも良くない。
「まず、二正面作戦というのは、敵が連携しているかに限らず、連続していない複数の戦線を相手にすることを言う。こちらは、味方どうしの連携が上手く取れない状態にされることだな」
細かい定義は、戦争の専門家でもないので間違っているかもしれないが、西にフランス、東にロシアを相手にしたドイツや、陸で国共合作、海と空でアメリカと戦った第二次大戦中の日本なんかが典型的な二正面作戦だった……はず。
「今回の敵は、どこまで連携を取って攻めてくるかはわからんが、こちらとしては片方を固く守った軍で抑えている間に、もう一方を撃破し、返す刀で最初の方を包囲殲滅すればいい。そうやって連携をとって進められる戦争を二正面作戦とは言わない」
この説明であっているかはわからないが、少なくともマーキアたちは理解できたようだ。
「それにな。戦略的に言って、兵数に勝る方が軍をわけるのは、確かに有効な手なんだが……中途半端なんだよな」
「中途半端とはどういう意味でしょうか」
カーラの問いかけに、これまたどう説明すればいいか、頭を悩ませる。
地球世界、つまり魔法がない世界線では、戦車をようする機甲部隊に、対戦車砲などの有効な攻撃方法を持たない軽装歩兵で戦いを挑むようなもの、と言えば理解できようか。
とはいえ、説明相手は藩王たちだ。
前世の話をしても、な……。
「うーん。兵を分けるのは、対応する敵の兵力を分散させて、自分たちが優位な戦場を作り出すための手段だ。でも、いくら兵を分けたところで、その数が最悪、九以下なら……こちらの優位は揺るがないだろう?」
そう言うと、皆が納得したようにうなずくのが見える。
藩王五人に、リナとパルム。それからトスタナと雅人が対応すれば、少なくとも戦線は膠着させられる。
それでも雅人が二正面作戦を忌避するのは、敵の勇者や聖女を警戒して、万が一を想定しているからだ。
たしかに聖女であるチャーティは、カーラやアヤ単独で圧倒できた。
だが他の六人の聖女と、七人いる勇者が同じように簡単に倒せるとは思っていない。
特に、全員が元クラスメイトの勇者は、一筋縄ではいかないだろう。
あのルドラサウムなら、パラメーター補正くらいかけてきそうじゃないか。
管理者Dが叡智を創造したみたいに、自分が楽しむためなら、勇者にチートアビリティやパラメーターを追加で割り振るくらいのことは、平気でやりそうだ。
『ひどい言われようだね』
くそっ。
白昼堂々と、人の頭の中を読んできやがった。
マジで管理者Dだな。
同じ天の声でも、大賢者みたいにこっちの味方なわけじゃないくせに。
『そんなことない。キミの好きにしたらいいんじゃないかな。僕は、キミが何をしようと、キミの味方だからね』
絶妙に、娘想いのモフモフ大精霊様みたいなこと言ってんじゃねぇよ。
というか、あっちいけ。
『つれないなぁ。イ、ケ、ズ』
あー、ウザイーっ!
「あのー、我が君ー?」
どうやら、ヒトガミと会話していた間、百面相してしまっていたらしく、マーキアが心配そうに顔を覗きこんできていた。
というかあの性格悪そうで、人間と魔族を争わせて楽しんでる感じ、アイツの正体はエヒト様なんじゃね?
閑話休題。
「すまん。ちょっと考え事をしていた」
心配かけたことは素直に詫びないとな。
「ごほん。つまり、敵としては、軍を分けたところで、戦争を優位に進める役に立たない行動をしているわけだ」
マジで謎だ。
「藩王、強力。敵軍、不知?」
「うーん。魔導王国があんなにアッサリ負けたのに、知らないってことはないだろうな」
アヤが悩みながらつぶやくが、それはちがうと思う。
「ただ、今のアヤの意見に補足すれば、ヒューマンのレベルから見て、馬鹿みたいに強い藩王が何人いるのかわからないから、とりあえずわかっているマーキアとリナだけと仮定して軍を分けたということは考えられる……のか……」
どれほど強くても、警戒すべき相手が一人なら、軍を分けるのは有効だ。
マーキアとリナが分けられるかすらわからないのだろうし。
呂布が強くても、別働隊を襲えばいい。
ハンニバルには勝てなくても、弟のハスドルバルは倒せると言うことだ。
「ただな、中途半端というのは、この敵の作戦。愚策にしか見えないんだよな」
「愚策? ですか?」
カーラの問いかけにうなずく。
「そうだ。この作戦だと、各個撃破してくれと誘ってるようにしか見えない。なにか秘策でもあるのか……」
考えすぎな気もするが、用心に越したことはない。
藩王を一人でも失うわけにはいかないのだ。
政治的にも、軍事的にも、個人的にも。
「敵の手がわからない以上、慎重にいこう。まずは立憲君主王国軍を獣人領に攻めこませないこと。トスタナを総大将に。フォーリ、オニ族を率いて、侵攻を阻止してくれ」
「はいっ!」
元気な返事に、笑顔でうなずく。
「それからワカナ。オニ族が敵を食い止めている間に、側面から妖魔族で攻撃してくれ。ただし、無理はしないこと」
「はい。秘策があるとの情報はありませんが、おっしゃるとおり、慎重にいきます」
王弟に藩王二人を投入。
ここまでやれば勇者が数人同行していても対処できるだろう。
その場合は最悪、アレン皇国に頼みこんで勇者を戦場から引きはがすことも考える必要がありそうだ。
そんなこちらの秘策は使いたくないが……。
「マーキアとアヤは、邪精霊とドラゴニュートを率いて、俺とともに軍事同盟の侵攻から旧魔導王国領を守る。おそらく、同盟の方が強いからな。なんとかこちらを叩いて、急いで立憲軍をはさみ撃ちにしたい」
「はいー、わかりましたー」
「是。奮闘、約束」
マーキアとアヤの気合いの入った返事を聞いて、またうなずく。
「カーラはまた留守番で悪いが、頼んだぞ」
「お任せください、我が君」
恭しく頭を下げるカーラに悪いと思いつつ、本国の守りもおろそかにはできないので、頼む。
信頼していないと任せられないのだということは、わかってくれているはずだ。
とはいえ、フォローは必要である。
一段落ついたら、ちゃんと愛でてやらなければ。
「我が君ー?」
おっと。
雑念が顔に出ていたようだ。
慌てて表情を引き締める。
追加の懸念点としては、兵力に劣っていても運用次第で各個撃破できるので、こちらが敵に合わせて軍を分けることに不安がないわけではない。
とはいえ、索敵の重要性は藩王たちも理解しているので不意打ちを喰らうようなことはない。
恐ろしい勇者や聖女の動向も、ほぼほぼ把握している。
(アスターテじゃない。金髪の指揮官が敵にいるわけじゃないからな)
雅人は不安を振り払うように、大きく深呼吸をした。




