第9話 フェルディナンド=フィンレック=モンセール5
すみません。
説明回が長すぎですね……。
もっと簡潔にしないとダメですね。
気をつけます。
とはいえ、またも復讐対象のクラスメイトのクズっぷりがご理解いただけたら幸いです。
他党の弾圧は、前世の地球世界でも一部の国家がやっていた手法として、印象に残っている。
だが、それだけでは首相としての権力を強化できても、国王にはなれないことをフェルディナンドは理解していた。
だから、国王の周りに手を伸ばし、現在の王権を動揺させることを画策したことが、熱中した二つ目である。
国王には寵姫がかつて二人いた。
その片方が、最初の王妃の死後、王妃に選ばれた。
とうぜん、選ばれなかった方は面白くない。
だけでなく、不幸な事故で国王の寵愛そのものも失っていた。
フェルディナンドはそこに目をつけた。
フェルディナンドに心酔する配下を通じて元寵姫に接触し、憎悪をあおる。
あとは、放っておくだけでよかった。
ただ毒物「も」扱う非合法な商人を紹介してやっただけで、嫉妬にかられた女は望みどおり、大いにおどってくれた。
王妃暗殺。
そのスキャンダルに、立憲君主王国は大さわぎになった。
もちろん、首相として混乱をおさめる責務は負ったが、あらかじめわかっていた事件だ。
ある程度はなにが起きるか予測して事前に手を打っておいたおかげで、早期に鎮静化させられた。
そのおかげで、フェルディナンドの為政者としての評価は高まり、彼が事件の黒幕だということはだれも考えてもいないようだった。
「なかなかの効き目だな」
奴隷として捕らえていた、モンセール卿未亡人の遺体を足蹴にしながら、フェルディナンドはつぶやく。
「これなら怪しまれん」
実験のため、元寵姫をあおる前から仕込みを開始し、食事に遅効性の毒を加えて与えていた。
その期間、約三か月。
地下牢に繋ぎっぱなしで、しかも無理矢理押さえつけて処理に使うこともしばしばあったため、元々身体はかなり弱っていた。
それでも本人も不調を訴えながらも、毒を盛られているとは夢にも思わないまま、死んでいった。
これなら十分使える。
娘の方はまだ若いので楽しめると残しておいたが、若さのピークをとっくに越えていた未亡人など、殺しても惜しくはない。
むしろ、自分の実験に使ってもらえて光栄だと思えとすら考えていた、すでに身体に飽きていた奴隷女を犠牲にした実験で効果を確認したので、フェルディナンドは最後の仕上げに入った。
かつて寵愛を与えた女たちが凄惨な殺し合いを演じたのだ。
国王は一気に見た目まで老け、国事行為である儀式も王女に任せることが増えた。
そんな落ちこむ国王に、買収した料理人を通じて毒を与えていく。
時間はかけたくないが、急いては事を仕損じる。
そして一度儀式中に倒れながらなんとか回復し、気合いで国王としての責務を果たしていた王も、毒薬には勝てなかった。
二度目に倒れたとき、たくみにフォローしてやったフェルディナンドに国王は持ちかけてきたのだ。
待望の提案を。
それは首相を辞任して娘と結婚し、王位を継いで欲しいとの願いだった。
本音を言えば、首相在任中に国王になりたい。
だがそれを言えば、国王は別の者を選ぶだろう。
どうせ密約だと割り切り、フェルディナンドは王女との結婚を受け入れた。
そうこうしているうちに、国王は危篤状態になった。
このままでは、王位が空位になってしまうと危惧した政府の者たち(もちろん、フェルディナンドの影響下にある)が国王代行である王女に対し、フェルディナンドと王女の結婚を上奏。
難色を示す王女を、首相選任中の混乱を避けるためと称して押し切り、辞任を先延ばしにさせた上で結婚を了承させた。
史上初めての、国王兼首相の誕生である。
フェルディナンドといえば、二王国の英雄。
首相としてもまずまずの業績により、国民の支持はなおも圧倒的なものがある。
国王の危篤という国家の非常事態に対処するのに、適任との評価で世論はすぐに固まった。
さらに、国王がフェルディナンドを王女の婿として考えていたと侍従長が暴露。
王の空位を避けるため、フェルディナンドと王女の結婚が不自然なほど急がれても、だれからも文句は出なかった。
結局、それから国王は一度だけ危篤状態から脱し、フェルディナンドと王女の結婚を正式に承認した。
だが、首相を辞めるようにという密約を強要するだけの体力も気力もなく、一年あまり病床から起き上がることなく苦しみ、崩御した。
その間、フェルディナンドは王女に娘を産ませた。
しかし、王女は産後の肥立ちが悪く、かろうじて一命は取り留めたものの、もう子は産めない身体だと宣告された。
前王は死に、王統を伝える妻とは男子が望めないことで、フェルディナンドの派手な女性関係を表立って止められる者はいなくなった。
(王様になったんなら、ハーレム作るのは当たり前だよな)
フェルディナンドは心の中で、妻に死なない程度の毒を盛った判断が間違っていなかったとほくそ笑みながら、貴族や商人。ときには農民の娘まで美女を集めては、取っ替え引っ替え、飽きたら捨てるといった女遊びを繰り返した。
その激しさは、妻である王妃の精神を病ませるほどだった。
(邪魔だな)
フェルディナンドはまたも毒を用い、今度は王妃を病死に見せかけて殺害した。
喪が明けると、後継者を得るためとの建前で、封建王朝から美人で評判の貴族令嬢を王妃に迎えた。
だが後から思い返すと、新王妃との間に無事王子が産まれたこの頃までが、フェルディナンドの絶頂期だった。
***
つまずきは、フェルディナンドにしてみれば些細なことだった。
自党のある政治家が、没落した貴族から札束で頬を叩くようにして幼い令嬢を妻にした。
その程度のこと、フェルディナンドからすれば選ばれた政治家の役得でしかないと思っていた。
だがそれに、フェルディナンド自身の奔放な愛人遍歴に眉をひそめていた一部の市民が反発の声を上げたところ、大きな抗議運動に発展してしまったのだ。
(あ、これはヤバい)
前世で優秀な学生ではなかった塚田克は、とはいえフランス革命についておぼろげな記憶を持っていたため、早急に対処してボヤの段階で政治的な危機を乗り越えた。
しかし、長期政権に飽きはじめていた世論の逆風を敏感に察知したフェルディナンドは、なにか真新しい成果を得る必要性を感じたのだった。
そこに飛びこんできた、魔族が獣人西辺境伯領征服のニュースに、フェルディナンドは可能性を見出した。
列国会議で連合軍が結成された場合、軍事的には弱小国である立憲君主王国に活躍の機会はない。
だから、列国会議では決して積極的に賛成しないよう代表として送りこんだ外務大臣には命じていた。
その甲斐もあり、予想外のダークエルフの活躍もあって連合軍結成の機運は消滅した。
そこまではフェルディナンドの思惑どおりだったが、魔導王国が単独で魔族と戦争し、簡単に敗北したのを見て計画変更を余儀なくされた。
魔導王国と比べるべくもない弱小軍しか持たない立憲君主王国単独では、計画していた局地的な勝利すらおぼつかない。
とはいえ大々的な戦争準備には金がかかるが、政治的に不人気な増税はできない。
袋小路に陥ったが、商業都市連合から商談にきたある商人によってフェルディナンドの運はまた好転した。
『お前、丹下だろ?』
『な、なんで……』
二人きりで会談したときに声をかけると、あっさり日本語が返ってきた。
(神様、あんたの言ったとおりだったな)
顔を見た瞬間、頭の中に声が聞こえて前世を見抜いたのは、正しかったようだ。
『俺は塚田だ。お前をうちの国で独占的に商売できるようにしてやるから、戦争の金を貸せ。嫌とは言わせないぜ』
反論しようとする丹下源太を制して、強引に契約を結ぶ。
すでに、金と兵さえ用意できれば軍事同盟が共同で参戦する旨、約束を取り付けていたフェルディナンドは、泣きそうな顔をした元クラスメイトとは反対に、満面の笑みを浮かべた。




