第4話 英雄の誕生
おかげさまで、100話に到達しました。
なんとか、毎日更新もできております。
だいぶ苦しくなってきましたが。。。
100話ということで、ちょうどよく復讐とかのクライマックスにできればよかったのですが、そんな構成力はありませんので、3章の復讐に向けた仕込みの話で恐縮です。
頑張って書いていきますので、これからもよろしくお願いいたします。
(俺は、どうしてこんなところにいるんだ?)
フェルディナンド=フィンレックは、魔獣討伐に向かいながら自問する。
(そもそも……どうして、王様の子どもに生まれなかったんだ? あのとき、神様は俺をどこかの国の国王にしてくれるって言ってたのに)
いつしか自問の中身が、生まれてから何度目かわからない疑問へと変わる。
(この隊長ってのも、頭は悪くないかもしれないけど、勉強とかしてなさすぎて話通じねぇし)
魔獣討伐の先頭に立って進んでいる隊長を心の中でこき下ろす。
いや実際に、隊長がいないときを見計らって部下たちに向かってネタにして笑っているのだから、質が悪い。
(そもそも、魔獣ってなんだよ。そんなのいるわけねぇじゃん)
フェルディナンドはそう高を括っていた。
魔獣こそ、「女の股から産まれ」ていないため、自分の天敵だと気づかずに。
***
「はぁ、はぁ……くっそ……なんなんだ、あれ?」
「フィンレック副隊長……だから油断するなと……」
なかなか現れない魔獣とやらの捜索に飽きて、隊長と二分した部隊のメンバーに、適当に周囲を探したふりだけしておけと命令したのだが、その隙を見事に突かれた。
前世で見た、プロレスラーのような体付きをしたあり得ない体格のウサギに肉薄され、フェルディナンドを除いた部隊員があっという間に全滅。
命の危険を感じ、這う這うの体で逃げ出したフェルディナンドは、隊長が率いる部隊の元へ逃げこむ。
すると、フェルディナンドの後をつけてきたウサギが、隊長の部隊の背中側から襲い掛かった。
一瞬で、三分の一のメンバーが蹴り殺される。
隊長の指揮でかろうじて立て直したものの、続けて二匹目が現れ、多くの犠牲が出た。
何人もの死者を出してようやく退治したあと、ふと気づくとフェルディナンド以外に立っていたのは、重傷を負った隊長だけだった。
重体の仲間を連れ帰ろうとする隊長と手分けして、魔獣討伐の証拠として、異様に長いウサギの耳を切り取る。
だが。
「く、くそ……囲まれた……」
隊長のうめき声に顔を上げると、血の匂いに誘き寄せられたのか。
牛のように大きい狼が三匹集まってきていた。
唸り声をあげ、今にも飛びかかってきそうだ。
「に、逃げましょう」
「バカ、生きている仲間を置いていけるか……ぐぁっ!」
狼の一匹が、死角から隊長にかみつく。
残りの二匹は、重体でうずくまっている仲間の頭をかみ砕いた。
「ちっ、畜生っ!」
隊長と仲間にかみついている間に逃げようとするが、もう一匹が現れた。
無我夢中で剣を構え、突進する。
ちょうどフェルディナンドに気づかず、生きていた重体の最後の一人にかみつき、絶命させたばかりの狼の腹に、深々と剣が突き刺さった。
ズブっという嫌な感触に耐え、行けるところまで刺し貫く。
当たりどころがよかったのか、剣を握った両手が狼の灰色をした体毛に埋まるまで刺すと、狼はビクッとなって絶命した。
「うわっ。血が……」
両手は、狼の血でヌルヌルする。
その本能的な不快感と、鉄臭い血の匂いに吐きそうになるが、仲間の死体をボリボリと喰っていた別の狼を見て、恐怖に吐き気も治まる。
(は、早く……逃げよう)
だが、その判断は遅かった。
「ウォォォンッ!」
仲間を殺されたことに怒る三匹の狼を見て、フェルディナンドは逃げられないことを悟った。
仕方なく、刺殺したばかりの狼から剣を抜き、めちゃくちゃに振り回す。
狼の血が、周囲にまき散らされる。
仲間の血に、襲撃者たちは目を血走らせているのが見える。
(ヤバイ。ヤバイぃ……)
だが剣を警戒しているのか、狼たちはしばらくの間、遠巻きにこちらを観察していた。
と、右肩を食い破られた隊長が、隙を見て一匹の腹に剣を突き刺し、殺害。
それに気を取られた残り二匹の片方の首を、フェルディナンドが斬りつける。
頸動脈を上手く斬ったのか、狼は血を吹き散らしながらどぉぉんと大きな音を立てて倒れた。
これで残りは一匹だ。
だが、隊長はもはや虫の息であり、ほかのメンバーも間違いなく絶命している。
(こんな……こんなところで、死んでたまるかっ)
自分は王になる、神に選ばれた者だと奮起し、狼に突撃する。
それを余裕でかわす獣。
だが、それもフェルディナンドの想定の範囲内だ。
(前世でトリックスターと呼ばれた俺を、なめるなっ)
木のそばで避けた狼はその巨体が仇となり、鋭く尖った枝が邪魔でそれ以上、後ろに下がれない。
そうなることを予測していたフェルディナンドは急激に方向転換し、一気に狼に突撃。
大きく開けた口に剣を突き刺した。
「グォォォンッ」
断末魔の叫び声を聞きながら、さらに剣を押しこむ。
二の腕に狼がかみついてくるが、口内から刺さった傷が頭蓋骨をも貫いているおかげで力はなく、フェルディナンドに被害はない。
そのまま必死に剣を押しこむと、ついにずぶっと何かが抜けた感触とともに、狼の瞳から光が失われる。
それでも油断せず、剣先が頭頂部から突き出したのを見て、仲間の仇を取ったことをようやく実感した。
「ふぃ、フィンレック……副隊長……助け……て、くれ……」
アドレナリンが出まくりの、一歩間違えたら死んでいたシチュエーションに、荒い息を吐く。
と、隊長が息も絶え絶えながら、救命を求めてくる。
当たり前のように近づいて助けようとするが、そこで悪魔のささやきを聞いてしまう。
(もし……隊長が助かったら……? 俺が適当にやって、仲間を全滅させたせいで、隊長の部隊も殺されたと証言されちゃうんじゃね?)
「なにを……している……早く……手を、貸して……くれ……」
一度芽生えた疑念は、決して消えなかった。
(それより……ここで隊長が死んで、俺も怪我して帰ったら……? 俺、悲劇の英雄じゃね?)
魔獣討伐で部隊が全滅したなか、ただひとり帰還した男。
マスコミがあったら、大いに祭り上げてくれそうではないか。
そのためには、ここで隊長に死んでもらわなければならない。
放っておいても死ぬかもしれないが、もし生きて帰ってこられたら?
フェルディナンドが見殺しにしたことがバレてしまう。
それはもっとマズイ。
「……隊長。残念ですが、あなたは助かりません」
「なに……を……言って……助け、て……くれ……」
訓練では何度も血を見た。
今さっき、初めての実戦も経験した。
だが、人を殺したことはない。
副隊長に任命されたのも、前世の学校教育のおかげで計算ができたことに加え、中学時代の部活動で後輩に指示を出すことに慣れていたおかげだ。
武勲は今初めて、手の中にある。
「悪いんですけど、俺は王様になる男なんです。その、礎になってください」
「な、にを……」
剣で殺したら、バレてしまうかもしれない。
狼の巨体を引きずり、虫の息をしている隊長の胸と顔に載せる。
もう、上に乗せられたモノを引きはがす力もなかった隊長は、しばらく手足をバタバタとさせていたが、一分もしないうちに動かなくなった。
「隊長。魔獣討伐で犠牲になったこと、俺は忘れません」
念のため、仲間の死体もすべて確認する。
生きているか確認する必要もなく、ほとんどの頭がウサギのキックでつぶれているか、狼にかみ砕かれていた。
人数も間違いない。
これで一人、たまたま生きていたなんてシャレにならないことが起きたらマズイのだ。
入念にチェックする。
間違いなく全員死亡を確認した。
実は部外者と入れ替わっていたなんてことも、支給された鎧を着ているか確認したのであり得ない。
「ふはははは……」
生き残った。
その感慨と同時に、英雄として賞賛される未来を幻視し、フェルディナンドは乾いた笑いを上げた。




