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俺、ヲタクでイジメられてたけど、異世界で魔王に転生したので、クラスメイト全員に復讐します!  作者: JKL
プロローグ イジメられてた俺、自殺を思いとどまりました
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第1話 自殺未遂

 風が強い。

 季節はまだ中秋といえる時期なのに、真冬のような冷たい風だ。


 本来、危険なので生徒は立ち入り禁止の屋上。

 普段は鍵がかかっているが、先日生徒のイタズラで壊され、自由に出入りできる状態になっている。

 その柵を越えたわずかな出っ張りに、辛うじてかかとだけで立っている石村雅人(いしむらまさと)は、今にも風にあおられて落ちてしまいそうになる。


「うううっ……」

 怖い。

 偽らざる本音だ。

 眼下に見える、三階分の高さをへだてた地面が恐怖の涙でにじむ。

 万年運動不足の足がガクガクと震え、小太りの体は今にも誤って落ちてしまいそうだ。

 自然と、背中が接している柵をつかむ手に力が入る。

 涙が落ちてきた鼻水をすすり、あばた顔を蒼白にして、荒い呼吸を繰り返す。


 当たり前だが、こんなことはしたくない。

 誰かに強制されたということもない。

 度胸試しをするような友人も仲間もいない。

 今すぐ、先ほど乗り越えたばかりの柵を戻り、両手両足で地面の感触を確かめたくなる。

 だが、このままあと1時間半もすれば始まる、地獄のような日常から逃れるには、もうこれしかないと思い詰めるほど、雅人は追いこまれていた。

「父さん、母さん……今からそっちに行くね」

 意を決して目をつぶる。

 体から横に広げた腕の力を抜いて、つかんだ柵を離そうとした瞬間だった。


「ちょっと待ってよ」


 声をかけられて目を開ける。

 ありえないことに、「目の前に」人がいた。

 どう見ても宙に浮いている。

「やあ、早起きだね。石村雅人くん」

「ど……して……母さん」

 空中に浮かぶ、死んだ母親。

 その顔や服装まで、母そのものだ。

 雅人は完全に死のうとする気勢を削がれてしまった。

 それなのに、ビューと強く吹いた風にあおられて落ちそうになり、慌てて柵をしっかり掴んだ。

「あらら。ちゃんと掴まらないと、落ちちゃうよ」

 確かに顔も声も母のモノだ。

 だが、母はそんな話し方はしなかった。

「アンタ……何者だ」

「うーん。今の君にはまだ話せないかな」

 考えるフリをしてはぐらかされる。

「それより、どうして死のうと思ったの?」

 そうか。これは幻だ。

 死にたくない感情がまだ雅人の中にあって、それがこんな形で幻想を見せているのだ。

「違うよ。幻なんかじゃない」

 雅人の幻想である証拠に、勝手に頭の中まで読んでくる。

 失礼な話だ。

「そういうの、もういいから」

 幻想に別れを告げるように言い放つ。

 とはいえ、一度崩れた死ぬ決意を再度固めるのは大変だ。

 それでも深呼吸して、入学式から昨日までのことを思い出す。

 地獄の日々を。

 クラスメイトのあざけるような笑顔を。

 肉体的な暴力、精神的な苦痛、金銭的な損害を。

(大丈夫。この手を離せば楽になれる……父さんと、母さんのところに行ける)

 段々と、霧散した覚悟が集まってくるように、固まっていく。

「ねぇ、集中してるところ悪いんだけど。今死んじゃったら、復讐できないよ」

 雅人はその言葉に、せっかくもう一度固めたばかりの決意が揺らぐのを感じた。


「復……讐?」

「そう。君をいじめているクラスメイトたちに復讐するの。すっごく楽しいと思わない? でも、今死んじゃったら、君はその権利を失っちゃうよ。もったいなくない?」

 何を言っている?

 コイツは何を言ってるんだ?

「あれ? 復讐、したくなかった?」

 母親の顔で無邪気に問いかけてこられ、雅人は目の前の存在を睨みつける。

「やっぱ、アンタ母さんじゃないな。母さんなら、そんなこと思いもしない」


 母親は他人に復讐することなんて、どんなことがあっても思いつかない人だった。

 優しくて、そして強い人だった。

「そりゃそうさ。死んじゃった人間を蘇らせることはさすがにできないよ」

「じゃあ、なんで母さんの姿なんだよ!」

 もし母さんが生きていたら、こんな毎日を過ごしてたりはしなかった。

 そんな雅人の想いなんて目の前の存在は考えてもいないだろう。

「あとで教えてあげるよ。それよりさ、復讐。したくなかった?」

 前屈みになり、下からのぞき込むように表情をうかがってくるのがムカつく。

「……できるなら、復讐、してやりたいよ」

 血を吐くような想いで言葉を発する。

 できることならやり返してやりたい。

 復讐の刃を振るい、イジメを主導するヤツらを滅多打ちにし、這いつくばらせて「ざまぁ!」と見下してやりたい。

 でも、雅人にそんな力はない。

 ケンカする力も、味方を作るコミュニケーション力も、残念ながら親から遺されたカネの力もない。

 それ以上に、逆境をはね返そうとする度胸も気力もない。

 ないないない。何もない。

 そんなんだからイジメられてるのだとわかっていても、簡単には性格を変えることはできない。


「あはは、よかった。それじゃあさ、昼休みまで我慢してみてよ。ちょっとだまされたと思って」

「……何が起こるんだよ、その間に」

「それは言えないんだ。未来のことをきみたちに言うと、世界の理を壊しちゃうから」

 世界の理だと。神にでもなったつもりか?

「うーん。まぁ、君たちの知識の中だと、その言葉が一番近いかもね」

「……死神の間違いじゃないのか? 人が死のうとしてるところにタイミング良く現れるんだ」

 幻なのか、本当に神に等しい存在なのかわからず聞いてみる。

「死神ねぇ……黒い服を着て髪を逆立てて、おまけにリンゴでも食べてれば、この姿よりも信じてもらえたかな」

「……死ななくていいなら、俺がしたいのは復讐だ。いくら世界が理不尽でも、犯罪者の名前を書いて殺す趣味はないぜ」

 雅人の言葉にくっくっくっと自称、神は笑う。

「調子が出てきたじゃないか。そのまま、昼休みまで頑張りなよ」

「アンタが、本当に神だと言うなら、昼休みまで待ってやる。でも、昼休みまで何も起こらなかったら、その時は止めても無駄だ」

「オッケー。約束するよ。君に今死なれちゃうと、つまらないからね」

「……やっぱり、あんたリンゴ好きの死神なんじゃないのか?」

 人の生き死にを楽しむなんて、死神でないなら悪神だ。

「悪神だなんて失礼だな。眷属はいなくもないけど……彼らの名誉のために言っておくと、ダンジョンで狩ったしゃべるモンスターをいたぶった後に売り飛ばすような外道じゃないし。僕は悪い神様じゃないよ」

「……それは、スライムだろ……」

 コイツと話していると、疲れる。

 だが良くも悪くも、今死ぬ決意は完全に削がれてしまった。

「あはは。どう? 今死んじゃうより、少し頑張ろうって気になった?」

「いや、とにかく疲れたよ。死ぬ気が失せた」

 ぐったりだ。

 しかも心地好くない類の疲労感。

「あとは笑顔だね。笑顔があればなんでもできる! それに、笑うと体内で黒タンクトップのお姉さんが活性化して免疫力もあがるしね」

「……それは、笑顔じゃなくて元気だろ……」

 はぁーっ、と大きなため息を吐く。

 それに、これから死のうという人間に免疫力を云々言われても困る。

「ため息なんてつれないなぁ。安心して。僕は君の味方だよ」

 笑いながら言われても、説得力がない。

「大丈夫。どこかの駄女神みたいに、君のことを馬鹿にして笑い転げたりしないから。信用してよ」

「……そんなことされたら、絶対言うこと聞かない」

 あと、腹いせでもお前を旅のパートナーに俺は選ばない。

 母親の顔をしているなら、なおさら冒険についてきて欲しいとは思わない。

 たとえ、通常攻撃が二回攻撃でも、全体攻撃でも。

「くっくっくっ。楽しい会話をありがとう。まぁ、延長戦みたいで午前中は辛いかもしれないけど、たった半日。終わりが見えてるなら耐えられるでしょ?」

「……あぁ、そうだな」

 雅人は死ぬことを先延ばしにした安堵と、これからの地獄への絶望が混ざり合った不快感を覚えながら、柵を乗り越えて教室に向かった。

初投稿です。

よろしくお願いいたします。

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