part4 (完)
「さぁ、これからどうしましょうか?」
そう言いAが指を鳴らすと部屋の隅で蹲り涙を流す少年が姿を現した。
「お父さんには黙っていましたが、あの鏡には少し前の映像を映していたんです。本当は涼介君、あなたの方が先にこの相談室に訪れていたんですよね」
少年――涼介は泣きながら小さく頷いた。
「親子揃って同じ日に死のうとするなんて……中々ないケースだったので少し利用させてもらいました」
Aはそう言い悪戯っぽく笑った後、続けて言った。
「涼介君、あなたはひとりじゃないそうです」
涼介は膝を抱えたまま嗚咽を漏らし泣き出した。
「そう、あなたの事を想う人がいる。その人は決して強い人では無いかもしれません。その人にあなたの世界を180度変えてくれるような力は無いかもしれません。それでもその人はきっと枯れた井戸みたいだったはずの瞳を潤ませあなたの横で涙を流してくれるはずです。その人は痩せ細った掌であなたの背中を擦ってくれるはずです。その時あなたは10年ぶりの温もりを思い出す……なんて程、我々も甘くはあの世界を作っちゃいませんがね」
Aはそう言った後、
「ねぇ、鏡を見てみて下さいよ」
と涼介の肩に手を乗せながら鏡を指差した。
「さっきのお父さんと比べてみたらあなたはまだこんなにも小さい」
Aは涼介の肩に乗せた掌に力を込める。
「あなたの相談に乗ってくれる人はあの世界に沢山います。だってこんな死の際にだっているんですから」
Aがニヤリと笑うと、涼介も小さく頷いた後そっと笑い返した。
「独りで抱え込まないで何かあれば遠慮なく話してください。私はここでずっと相談員をしています。またいつでもどうぞ、なんて気軽に言うわけにはいきませんけど」
Aは悪戯っぽく笑った後、涼介の肩からそっと手を離す。
数千年分の軋みと共に閉まるドアの音が、A独りきりの部屋に高く響いた。
これで完結です。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。