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「恋をする」シリーズ

モノクロ王女は薬学教師に恋をする 前編

作者: 雪ノ音リンリン

みなさんお久しぶりです!もしくは初めまして!「女騎士は衛生兵に恋をする」「第六王子は敵国のメイドに恋をする」に引き続き「恋をする」シリーズ3作品目です。主人公は第六王子の妹ちゃんと、以前ちょろっと出てきた衛生兵のイザークくんです。

全2部構成、前編です。




私の()の名前はソフィア・エレミエフ・アクーラ。

そして現在の名前はソフィア・エレミエフです。短くなって便利ですね。なぜ「アクーラ」が名前から取れたのか。理由は簡単、アクーラ王国がなくなってしまったから。王国がなくなれば、当然王族もいなくなるわけで。普通は敗戦国の王族など処刑されるのでしょうが、なぜか平民として生きるよう最後の国王であるエド兄様から言われました。一番の末っ子で第一王女だった私は終戦当時は5歳で、平民になるという意味がよく理解できていませんでした。ただ、上の兄たちが「ミハイルのせいで」ととても怒っていたことは鮮明に覚えています。


成人までは、という条件付きでエド兄様の庇護下で現在過ごしています。「働かざるもの食うべからず」というエド兄様の格言を受け、ソフィア・エレミエフ7歳、ただいま城や町でお手伝いをしています。自分に何ができるのか考えた結果「何ができるのかわからない」という結論に至り、とりあえずいろいろ挑戦してみようということで「なんでも屋」になって、あらゆる経験をしています。最初はメイドさんや料理人などお城の中から、徐々に評判が広がって、今では町の方からも依頼が来るようになりました。大抵のことは一度見るだけでできるので、みなさんとても驚かれます。


「ソフィアちゃん、今日は本当に助かったよ。娘が急に熱出しちゃって人手が足りなかったから。はい、これ今日のお給料ね」

「いえ、またいつでも依頼してください。娘さんの体調、早く治るといいですね。ではっ」

「ははっ相変わらずせっかちだねぇ」

「時は金なり、ですから」


お給料をもらってスタスタとその場を去る。今日は町の食堂のお手伝いで、緊急だったから少しお給料が高い。あそこの食堂のおばさんは子供相手でもきちんとお給料を支払ってくれる、とてもいい人だ。だが、毎回終わる時間が遅いので、前回は門限に間に合わずエド兄様にお叱りをいただいてしまった。まずい。今日もこのままだと門限までに間に合わない。ふと森が目についた。この森を突っ切れば部屋まで最短で行けるのでは?でも夕暮れ時に森に入るのは少々勇気がいる。でも、叱られるのは嫌だし・・・えぇい!ここは森を突っ切るしかない!


ーガサガサッ

ーアォーン

ーザワザワ


薄暗い森の中をお給料が入った袋を握りしめて進む。森ってこんなに音がするんだ・・・。向こうに城の尖塔が見えるから迷うことはないけど、同じような獣道を歩いていると前に進んでいる気がしない。日も暮れてきて、足元がわかりにくくなる。


ーガルルルルルルッ


ガルル?一瞬で冷や汗を大量に掻きながらゆっくりと背後を振り返る。5メートルほど先には、肋骨が浮き出るほどガリガリに痩せたオオカミがいた。獰猛な牙の隙間から、よだれが滴り落ちている。


「お、おいしくない・・・よ?」


ーグワァゥッ


牙をむきながらこちらに飛び掛かってきたところまでは覚えている。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「きゃぁああああああああ!!!」


・・・悲鳴?しかも子供の。くそっ子供がこの森に迷い込みでもしたかっ。

森の中の家に帰る途中で悲鳴を聞き、腰に下げた剣を抜き放って急いで声が聞こえたほうに向かう。


「間に合ってくれよ・・・!」


草木を突っ切って走る。確かここら辺から聞こえたような・・・あたりには子供どころか、動物すらいない。暗くなってきて視界も悪い。ふと地面に視線を落とす。そこには血痕が。そしてそこから引きずられたような跡が森の奥に続いていた。


「生きていてくれっ」


引きずられてできたであろう線を辿っていく。・・・見つけた!剣を逆さに構えて耳の横に持っていき、子供を咥えて走るオオカミめがけてぶん投げる。


ーキャインッ


オオカミの胴体に刺さった剣は心臓を貫いていた。急いで子供の元へ向かう。


「おいっ大丈夫か!しっかり、」

「うっ」

「良かった。生きてるなってお前もしかして、ソフィアかっ!?」


何で妹がこんなところに。いや、今はそれよりも止血が先だ。オオカミにやられたのは右腕と右足。着ていたシャツを破いて包帯代わりに巻き付ける。


「大丈夫だ。大丈夫だからな」


これは足の方は比較的軽傷だが、腕の方はまずいな。跡が残るだけならまだいいが、最悪動かないかもしれない。止血を終えて、土と血に塗れた軽い体を抱き上げる。


「エド兄上に連絡しないとな」


ここから王城までは少し距離がある。ひとまず家に連れ帰って、休ませないと。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



腕と足が焼けるように痛い。なんでこんなに痛いの?なんで今、眠っているの?早く起きないと、次の依頼に間に合わない・・・!


「良かった、目が覚めたみたいね」

「・・・だ、れ?」


知らない人が目の前にいる。いや、それよりも気になることがある。


「私は・・・そうねあなたの義理の姉かしら」

「あ、、ね」


義理の姉・・・兄たちの中で結婚している人は残念ながらいなかったはず。やっぱりこれは夢?だって、だって


「・・・色が、ない」

「色?どういう・・・」


そのまま意識を失ってしまったらしい。次に目が覚めたときは自室のベッドの上だった。見慣れた光景。見慣れた家具。しかし、それらすべてに色がない。白と黒しかわからない。形も見える、大きさも見えるのに色だけが見えない。どうして?


「ソフィア!起きたのか!」

「エドにいさま?」

「あぁ良かった、生きててくれて。ミハイルが血相変えて飛び込んできた時には肝が冷えたよ」

「お前、3日も目を覚まさなかったんだぞ」

「ミハイルにいさま?」


扉を開いて現れたのはエド兄様、兄様に続いて現れたのは多分、ミハイル兄様。


「初めまして。ミハイル兄様、生きてらっしゃったんですね」

「俺は初めましてじゃないけどな。俺が生きてることは秘密で頼む」

「わかりました。えっとなんでミハイル兄様がここに?」

「森でオオカミに喰われかけてるお前を助けたのは俺だからだ」


オオカミ・・・思い出しただけで震えが止まらない。怖い、怖いよ!


「わ、悪い。怖がらせるつもりじゃなかったんだ」

「ミハイル・・・」

「悪かったって」


ミハイル兄様が頭を優しくなでてくれる。少し落ち着いた。あぁそうだ私、謝らないと。


「森に入って、ごめんなさい。心配かけてごめんなさい。助けてくれてっあ、ありがとうっ」


兄様の手の温もりに安心したら、涙がぽろぽろとあふれ出てくる。涙を拭おうと右腕を動かそうとしたら激痛が走った。右腕に目をやれば包帯でぐるぐる巻きにされている。


「エド兄様、この腕・・・」

「右腕と右足に怪我をしていてな。右足は跡は残らないそうなんだが、右腕は・・・」

「右腕は、跡も残るだろうし、元通りに動かせなくなるかもしれない」

「そ、んな・・・」


元通りに動かせなくなる・・・


「他に痛むところはないか?」

「痛いのは腕と足だけですが、えっと・・・」

「どうした?」

「色が、わかりません」

「い、医者を呼べーーーー!」

「エド兄上落ち着いて、俺たちの立場は微妙すぎて医者呼びつけられないから!手当てしたルカを呼ぼう!」


モノクロの世界で慌てふためく二人の姿がおかしく、少し吹き出してしまった。




「ソフィアちゃんこの花、何色かわかる?」

「・・・わかりません」

「じゃあこっちは?」

「・・・わからないです」

「なるほどな」

「おいルカどうなんだ。俺の妹は大丈夫なのか」

「落ち着け、お前が慌ててどうする」

「ソフィアはなぜ色がわからなくなってしまったのだ?」

「俺はしがない元衛生兵なんで、断定はできませんが、恐らくオオカミに襲われたショックで色が判別できなくなってしまったと思われます」

「治療法は?」

「今のところは。明日には治っているかもしれないし、もしかしたら一生このままってこともある」

「そんな・・・」

「エド兄様、ミハイル兄様。私は大丈夫です。色が見えなくても生きていけますから」


今のところ色が無くて生活に不自由はしていない。むしろ足と腕が使えないほうが辛い。それに今はこんな状態なので「なんでも屋」の活動ができていないことが心苦しい。


「ソフィアちゃん。リハビリについてなんだが・・・」

「リハビリ?」

「腕とか足を元通りに近づけるための訓練みたいなものだ。で、それなんだが、俺はこいつのせいでなかなか時間が取れそうにない」


親指でミハイル兄様を指しながら言った。ミハイル兄様が怖い顔で睨んでるけど、この人大丈夫かな。


「だから、代わりの奴を寄越す」

「代わり?」

「あぁイザークっていう奴なんだが」

「では、イザークさんに、お世話になりますとお伝えください」

「しっかりしてんなぁ」


ルカさんが私の頭を撫でようと腕を伸ばしたら、右からエド兄様に、左からミハイル兄様に叩き落されていた。


「斬るぞ」

「潰すぞ」

「え?この兄弟似すぎじゃない?何この物騒兄弟」



翌日。変わらず世界はモノクロだ。

目の前にいるのは、ルカ先生が昨日言っていた人だろう。くせ毛で所々ぴょんぴょん髪が跳ねていて、触ったらきっとふわふわなんだろうなぁと思う。


「初めまして、ソフィアちゃん。僕はイザーク・カスパロフ。今日からよろしくお願いします」

「ソフィア・エレミエフです。こちらこそよろしくお願いします」

「先輩から聞いてはいたけど、本当にしっかりした子だね~」

「これくらい普通ですよ」

「えぇ!最近の子はこれが普通なの!?どうしよう・・・僕よりしっかりしてる子供たちに教えるなんてこと、できるのかな」

「教える?」


そういえば、この国を学園都市にするかも、という噂を聞いたことはあるが。もう教師の選出の段階まで進んでいるのだろうか。


「もしかして、噂の学園都市で教師やるんですか?」

「あれ?声に出てた?」

「はい、ばっちりと」


しまった~と頭を抱える姿は子供のようで。多分20歳くらいだろうが、年下の男の子のように見える。なんか可愛い。


「これ、秘密のやつだから、内緒で頼みます」

「わかりました」

「ありがとう。それじゃあリハビリ始めましょうか。といっても腕も足も完全に傷がふさがったわけじゃないですから。今日は目の検査をしましょう」

「はい!」


モノクロの世界の中で、こうして緩やかに時間は過ぎて行った。

呼び方も段々と変化していった。


「先生、そこ滑りますよ」

「うひゃあ!ソフィアちゃんもう少し早く言って・・・」


3年後、ソフィア10歳、イザーク21歳


「イザークさん、ここは行き止まりですよ」

「あちゃ~。ソフィア、それは行く前に言ってほしかった~」


さらに3年後、ソフィア13歳、イザーク24歳


「イーズ、ここ天井低いですよ」

「いったぁ~ソーニャ、当たる前に言ってよ~」

「すみません、面白かったのでつい」

「まぁいいか。そういえば来月からソーニャはパーチェ学園に入学するんだっけ?てっきりシェステ学園に来てくれると思ったのに」

「薬学・医学共にこの6年の間にあなたから習いましたから。学園での4年間で商学を修めて、学園都市総括(ミハイル)総括補佐(エドアルト)の役に立ちたいんです」

「妬けるね~もっと婚約者のことも構ってください」


そう、2年前に私とイーズことイザークは婚約者同士になったのです。思いを通じ合わせてからというもの、イーズがワンコのように構って攻撃してきて困っています。

ちなみにここは学園都市内部に新設されたカフェのテラス席です。さっきはテラス席に出る扉の所でイーズが頭をぶつけていました。可愛いです。

来月から開校される学園都市は、五つの学園からできています。医学・薬学の”シェステ学園”、学問の”エスポワール学園”、商学の”パーチェ学園”、農学の”ソンリッサ学園”、そして戦闘術の”ウェンライ学園”です。私は来月から商学の”パーチェ学園”に生徒として、イーズは医学・薬学の”シェステ学園”に薬学教師として通い始める。


「イーズ、そんなんで教師なんてできるの?」

「うっ、きっと大丈夫、なはず」

「ネクタイは買った?」

「あ、忘れてた」

「そういうと思って、はい、これ」

「っ!もしかしてこのネクタイ、くれるの?」

「教師の就任祝いに、と思って私が選んだのだけれど」


気に入ってくれた?と面と向かって聞くのは恥ずかしくて、下を向いてもじもじしてしまう。


「ソフィーが選んでくれたんだ・・・。嬉しい。ありがとう」

「変じゃない?大丈夫?」


私の目ではカラフルなネクタイも、モノクロにしか見えないため、選ぶのに何時間もかかった。


「この色、ソフィーの瞳と同じ、綺麗なローズピンクだね」

「・・・やっぱり男の人がその色を付けるのはおかしいわよね。ごめんなさい」


やっぱり返して、と言おうと思ったらイーズに人差し指で口を塞がれた。じんわりと顔が熱くなる。な、なんでしょうか、この状況。


「おかしくない。君の色を纏えて俺は嬉しいし、何よりソフィーが俺のために選んでくれたんだ。一生大切に使うよ」


とろけるような笑顔でそんなことを言われたら、返してくれなんて言えないじゃないですか。何回あなたに惚れればいいのでしょうか、私は。会うたびに愛しさが溢れます。


「・・・生徒の中には、きっと女生徒もいるでしょう。私、不安で、その、」

「~~~っ」


声にならないとでも言うように両手で顔を抑えて天を仰いでいる。一体どうしたというのでしょうか?


「それを言ったら僕だって、ソフィーと同級生の男子生徒全員に嫉妬しそうだよ」

「ふふっまさか」

「ソフィー、男子の前で絶対にその笑顔を見せてはいけないよ」

「な、なんで?」


そんなに変な顔だったかしら?それにしても、いつになく真剣な表情で言うものだから、少しドキッとしてしまいました。


「ソフィーに惚れるから」

「冗談はそれっぽく言わないと冗談に聞こえないのよ。イーズ」

「冗談じゃなくて本気だからね」

「・・・たとえ誰が惚れても、私が惚れているのはこの世でただ一人、イーズだけよ」


安心させたい、という気持ちで惚けた顔をしているイーズの頬に軽くキスをする。


「僕は試されているのかな?ソフィーの成人まであと5年、自信がないよ」

「?」


カフェを出た後に、イーズから彼の瞳の色と同じ青柳(あおやぎ)色のブローチを一緒に買いに行きました。モノクロの世界の中でも、それは一段と綺麗に輝いて見えました。嬉しさとともに、どうしようもなく、彼の纏う色のすべてをこの目で見てみたいという衝動に駆られたのでした。




そして2年後、私の危惧していたことが起きてしまったのです。


「イザーク先生は、アタシのものにするわ。あなたは邪魔だから消えて頂戴」


イーズの誕生日に学園まで迎えに行ったその日、私は宣戦布告をされたのでした。




後編は21時に更新します。

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