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第二章

「「「「カンパーイ」」」」

試合後、ファミリーレストランで打ち上げをする四人衆。

それぞれの打撃成績は


良平――五打数無安打。

淳哉――五打数一安打。

ゆきまる――五打数三安打。

四街道――四打数四安打四打点。


という感じであった。

「いやー、なんと言っても初回の青木のホームランでしょ」

「これって脳ある鷹は牙を隠すって奴?」

「いや、それ爪だろ」

ゆきまるの間違いに冷静に突っ込む四街道。

「なあ青木、なんでいつも真面目に打たないんだ?」

四街道は淳哉に訊ねた。

「いや、真面目にやってるよ。あの打席はマグレなんだって」

「確かにコースは少し甘かったけど、あの鋭いスイングはマグレじゃねーよ。見ればわかる」

「……」

「もしかして遠慮をしてるのか? それとも打てすぎて野球が退屈になったのか?」

「えぇー! そりゃ勿体ないよー。なんでもっと打たないのさ」

「打ちたくても打てないんだよ。本当に今日の一打席目は奇跡みたいなもんなんだって」

「奇跡であんなバッティング俺にだってできねーよ……」

淳哉自身、自分のホームランに驚いており、なぜ打てたのだろうかわからなかった。

もしかすると、試合前のキスが効いているのだろうかと一瞬思ったが、それはないとすぐさま心の中で否定した。

ファミレスで昼食も兼ねた打ち上げを済ませ、その日はそのまま解散した。


※※※


家に帰った淳哉はそのままベットに倒れ込んだ。

試合前のゆきまるとのちょっとした事故でのキスと、一打席目のホームラン。

それを思い出すと照れや恥ずかしさがあるが、幸せな気分になる。

枕に顔を埋め、足をジタバタさせている淳哉。

すると、ケータイ電話から着信音が鳴った。

ゆきまるからのメッセージだ。


――もう一回キスさせろ


……ボンッ

メッセージを見た淳哉は一気に赤面した。

恥ずかしさからベットの上でゴロゴロとのたうち回った。

もしかすると、ゆきまるは自分に気が合うのか。

でも自分を好きになるきっかけなんてなかったぞ。

はっ、早く返信しないと、でもなんて返そう。

淳哉は返信する内容に悩んだ結果。


――一体何のつもりだ。是非お願いします!!


と返した。

さて、どうなる。どうなる。

ドキドキドキドキドキドキ……。


――今からこの前のバッティングセンターに来い。試したいことがあるんだ。


淳哉はすぐさま家を飛び出して行った。

おそらくゆきまるは自分と同じ事を考えてるのではないか。

でもキスをするとバッティングが上手くなるなんてそんなファンタジーな事があるわけがない。

そうこう考えていると待ち合わせ場所のバッティングセンターに着き、既に建物の前にゆきまるが待っていた。

「おっ!」

ゆきまるが淳哉に気が付くと駆け寄ってきた。

「隙きあり!」

ゆきまるの柔らかな唇が淳哉の唇に軽く触れた。

「なっ……!?」

突然のことに淳哉は困惑し、ゆきまるは顔を少し赤らめた。

「こ、これは実験だからな……」

「実験?」

「今日の試合前と同じことをすれば、青木がまた打てるんじゃないかと思って……」

「……そか」

人生で二度目のキス。なんて反応すればいいかわからなかった淳哉だが、二人はそのままバッティングセンターに入り、一五〇キロのコーナーに行く。

四街道がバカみたいに打っていたコーナーだ。

淳哉は「あんな速い球が俺に打てるものか?」と思いつつ、バットを構え打席に立つ。。

今日の試合の一打席目と同じ感覚だ。

これは行けるかもしれない。

バッティングマシンから一五〇キロの豪速球が放たれた。

――見える!

淳哉はそれを見事に真芯で捉え、長打を放つ。

球場で打っていたら間違いなく柵を越える当たりだった。

「マジかよ……」

淳哉自身驚いていた。

ゆきまるはそれを見て淳哉以上に喜んでいた。

「やっぱりだ、青木はあたしとキスをすると打てるようになるんだ!」

「いや、でもそんなマンガみたいなことがあるのか!?」

「そんなことを言うかお前は、じゃあもう一回するか?」

ゆきまるは淳哉に軽くフレンチキスをし、淳哉はされるがままだった。

見つめ合う二人。

ゆきまるはもう一度、淳哉にキスをしにいった。

さっきよりも少し長めのキスだった。

「もう……もう良いだろ」

客は淳哉達以外いない状況で店員からも視角になって見えないとは言え、公共の場でキスをするのはいかがなものだろうか。

「…‥」

頬を赤らめたゆきまるは本気になってしまったのか、そのまま淳哉を押し倒して無理やり何度も唇を重ねる。

「ちょっ、おま…!?」

ゆきまるはさらに激しく舌を入れはじめ、淳哉は恥ずかしさから、ゆきまるを軽く払い除けて、距離をとる。

「ゴメン、もう一回、もう一回お願い! 今度は優しくするから」

「あのなー……」

そう言いつつも、淳哉は内心まんざらでもなかった。

キス魔と化したゆきまるを落ち着かせた後、淳哉はもう一度バッティングに挑むと、これが面白いぐらいに打ち返せるのである。

バッティングの途中、ホームランと書かれたボードにも当たったため、二人はホームラン賞の写真を撮ることになった。

店員が来て、カメラで写真を撮る。

「じゃあ行きますよ。ハイ、チーズ」

そのとき、ゆきまるは隙をついて淳哉のほっぺたにキスをした。

――パシャ

その日、淳哉に彼女ができた。


次の日の朝。

「やあ、おはよー」

その日、淳哉とゆきまるは駅前で待ち合わせをして一緒に登校することにしていた。

時刻は五時二〇分、朝練のために早めに登校するが、ちょっと早すぎるのではないかと淳哉は思ったが、ゆきまるはいつも朝練のためにこのぐらいの時間に学校に行くそうだ。

「それじゃあ行こうぜ、淳哉」

「ちょっと腕を絡ませないで、はずい……」

ゆきまるは今まで淳哉のことを「青木」と呼んでいたが、今日から呼び方を変えてみたようだ。

ニコニコしながら淳哉の隣を歩くゆきまると、照れながら俯く淳哉の二人は学校に向かう。

「なぁなぁ、朝練の前にキスしようぜ。淳哉がめちゃくちゃ打つようになったらみんなきっと驚くぜー」

「えぇー……いいよ、練習だし、それになんか反則してるみたいで後ろめたいよ……それよりもだってほら……(ぼそっ)」

「え? 今なんて?」

「は、恥ずかしい……」

顔を真っ赤にする淳哉に対してゆきまるは「照れるな照れるな」っと肩をぽんっと叩く。

「別に反則とかそんなこと考える必要ないんじゃねーか? なぁ、いいだろ……なぁ……ハァハァ」

と息を荒げながら淳哉に迫ろうとしているゆきまるはエロおやじそのものだ。

昨日淳哉とキスをしたことで何か新しい扉を開いてしまったようで、ただキスがしたくてしたくてしょうがないだけであった。

身の危険を感じた淳哉。

学校の門が見えたので、ゆきまるを置いて小走りで駆けて行った。

「ちょっと、淳哉待ってってばー」

淳哉を追っかけて走るゆきまる。今日も馬場高校硬式野球倶楽部の朝練が始まる。


「おっはー、栗本アーンド四街道!」

驚きを隠せない驚愕の表情の良平といつものようにさえない顔でぼーっとしてる四街道にゆきまるは挨拶した。

良平が驚くのも無理はない。ゆきまるは淳哉の腕にしがみついていつも以上にウキウキとしているのだ。誰がどうみたって付き合いたてのアツアツカップルである。

「なんだ。お前ら付き合い始めたのか」

四街道が何食わぬ顔で言うと「ふっふっふー、実はそうなのさー!」とハイテンションのゆきまる。

淳哉は「みっともないから離れてくれ」と照れながら腕に絡みつくゆきまるを振りほどいた。

四街道とゆきまるが朝練のメニューを話し合っている間に、良平は淳哉の肩に手を回し、後ろにコソコソと回って、「おい、いつの間にフラグを立てたんだ?」と訪ねた。

「フラグって……強いて言うなら昨日の試合前?」

「コノヤロー! クッソ羨ましい! なんで俺はモテねぇーんだ。日本記録保持者だぞ俺は」

悔しがる良平は淳哉の頭を拳でグリグリする。

「痛ててて、やめろって」

新しい彼女と仲間との何気ない日常に淳哉は幸せの絶頂期を味わっていることを噛みしめていた。

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