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プロローグ『目が覚めたら黒』

天使の話

短いのでさらっと一気に読めると思います





『目が覚めたら辺り一面真っ白の銀世界だった』






 そんな事が現実に起こったりしない

 少なくともぼくの身に起こったことは

 そんなものじゃなかった



 ぼくは昨日、いつもの様に寝たはずだ

 寝付きのいいぼくは横になったら直ぐに眠りに落ちた

 そこまでは覚えている

 何の変哲もない昨日が終わり

 同じような今日が来るはずだったのに


 なぜ今日は


 目が覚めたら辺り一面真っ黒なんだ







 ○◇○◇○




 




 目が覚めたら辺り一面真っ黒だった

 けれどこの黒には見覚えがある

 そうだ

 この黒は目を閉じたときに見える暗闇だ

 ……目を開けているのに

 その暗闇は目を開けていれば見えないはず

 もしかしてぼくは目を開けているつもりで開けれていないのか

 目に手を当ててみる

 ……開いている

 この暗闇は目を閉じているからではないらしい

 という事は

 目を開けているのに暗闇が見えるのは

 きっと

 ぼくの目が見えなくなった

 という事なのだろう


 嘘だ

 なんで

 有り得ないじゃないか

 普通に寝て起きたら失明してました

 なんて

 おかしい

 認められる訳がない

 ぼくは一生この暗闇で生きていかないといけないのか


 そんなの嫌だ

 無理だ

 光のない世界で生きていくなんて

 そんなの嫌だ

 どうやって生きていけばいいと言うんだ

 神様

 助けて下さい

 神様、お願いです

 ぼくの祈りを聴いてください…………




 嗚呼

 神よ、()が神よ

 貴方はなぜぼくから光を奪われたのですか

 ぼくは貴方の言う様に生きてきた

 貴方の意志に背いたことなどなかったはず

 なのに

 なぜぼくはこのような目にあっているのか

 どうして

 どうしてですか

 ぼくはなぜ

 こんな暗闇にいるのですか────






 どれだけ神に祈っても

 神は応えてくれない

 ぼくは神に見捨てられたのか

 そんなはずは無い

 神が見捨てるなんて有り得ない

 神は罪を犯した者さえ救おうとするのだから

 神に与えられた機会さえ蹴る者は

 救われないが

 ぼくはそんな事していないのに

 どうして………………







 ○◎○◎○






 あの日

 ぼくの目が見えなくなった日から

 いったいどれだけ時が経っただろう

 何日?何週間?

 それとも何年?

 もうぼくは今までの様に規則正しい生活をしなくなった

 皆はぼくが失明したと知って初めは助けてくれようとしていたけれど

 ぼくの眼が治らないと判ると

 みんなどこかへ行ってしまった

 呼んでも誰も来てくれない

 神様ですら

 応えてくれない

 どうかお願い

 誰か応えてよ………


 なぜ神は応えてくれないんだ

 何回、何十回、何百回と祈っているのに

 どうして

 貴方が応えてくれなくても

 ぼくは貴方を信じ続けているのに

 どれだけ神を否定されても

 ぼくは貴方の存在を肯定し続けているのに

 誰に否定されても

 …………(たと)えそれがぼく自身だとしても

 ぼくは貴方を信じているのに…………








 ───神なんて居ないんじゃないか


 そんな訳ないだろう

 神はいつもぼくらの傍に()られる



 ───なら何故神は今ぼくを助けてくれないんだ


 それはきっと、

 たぶんぼくは試練を与えられてるんだ



 ───なら何故神は試練など課すんだ


 それは、ぼくには分からない

 でも神には神の御計画があるんだ……

 だから

 ぼくは耐えなければ……



 ───耐えて意味があるのか

 ───神に計画なんてないんじやないか


 そんなはずない

 神の御考えなんてぼくには分からないけど

 きっと何か意味があるはずなんだ



 ───もしかしたらぼくが信じていたのは

 ───本当の神ではなかったのでは?


 神は何時だって御一人しかいない……

 神に本物も偽物もいない

 神はこの世でただ御一人

 あの御方だけだ………

 それを疑うなんて、有り得ない………





 ───ならどうして

 ───ぼくはこんな事を問うているのか


 ……っそれは…………




 ───ぼくが神を信じれていない証拠だろう?









 止めてくれ

 もう何も考えたくない

 どれだけ叫んでも

 誰も応えてくれやしないんだ

 もしかしてぼくは堕ちてしまったのか

 そう考えたこともあった

 

 でも

 もう嫌なんだ

 考えることすらしたくない


 もし本当にぼくが信じていた御方が

 本当の神じゃなかったら


 もし本当に神など居なかったら


 もし本当にぼくが堕ちてしまっていたら


 そんなの嫌だ

 想像もしたくない

 信じたくない

 そんな事ありえて欲しくない


 そんな不信仰なことを考える自分も

 嫌だ


 ぼくが考えること全てが嫌だ


 だからもう

 何も考えたくない


 誰か

 ぼくをもう何も考えられなくして欲しい



 十分ぼくは地獄を見た


 それでもぼくは


 まだ苦しまないといけないのか?














 今なら


 今、助けてくれると言うなら


 ぼくは


 悪魔でも信じられるかもしれない


 信じてしまうかもしれないな……












 ○▽○△○










 ………───、



 ………───み、



 ……………君、起きて




 ……………私の声が聴こえるかい?………








 誰、だろう…………




 知らない間に寝てたみたいだ


 誰かが起こしてくれた



 そう、誰かが



 ぼくが待ち焦がれていた誰かが






「……──ぁ、ぁの、誰、ですか……?」





「……良かった。死んでなかったんだね」





「……ぼ、ぼくを、助けて、くれる、ヒト…?」






 そのヒトの顔こそは見えないけれど


 きっと優しく笑いかけてくれたに違いない







「……君は私に助けを求むのかい?」





「……助けて、くれないのですか…?」




 このヒトが神様ならば

 助けてくれるだろうか

 いや、

 助けてくれるから

 神様なのか?


 どちらが正しいのか

 それとも

 どちらも正しいのか

 どちらも正しくないのか




 もう

 そんなものですら

 どちらでもいい

 助けてくれるのなら

 神だろうが悪魔だろうが

 誰でもいいから

 何でもいいから

 蜘蛛の糸でも

 どんなモノにも

 縋ろう


 そう決めたから

 ぼくは


 見えない眼で

 貴方が居るであろう方を

 真っ直ぐ

 見つめながら

 伝えるんだ





「………君は、私が誰か、解るか?」



「………解らない……でも、助けてくれるのなら貴方は……神様、だろか……?…」





 解らない

 このヒトが

 同胞(てんし)なのか

 神なのか

 悪魔なのか

 全く別のモノなのか



 なにせ

 ぼくは目が見えないのだから

 仕方ないだろう……






「そうか。君は……いや、態々(わざわざ)口にする必要も無いかな。君が一番分かっているだろうね」






 あ……

 このヒトはぼくの眼が見えない事を知らなかったのか

 意外だな

 知らないヒトが居るなんて






「それで、君は()()助けて欲しいのだったかな?」





 このヒトの口調に少し疑問を抱きつつも頷いた


 ぼくはこのヒトに救われるのだ


 と言う根拠の無い確かな確信をこの手に持って







「ならばその眼をどうにかしないとね」






 どういう事、だろう……


 まさか、眼が見えなければ


 助けてくれない、と………?









 「ふふっ。さあ立ち上がりなさい」








 ぼくは質問する暇も与えられずに腕を引かれた







 「立って、私の手を取りなさい」







 誰かに触れるなんて、いつぶりだろう


 ぼくに手を差し伸べてくれるなんて


 立て、と言ってくれるヒトが居る


 救いを与えてくれるヒトが居る


 ただそれだけ


 でもそれが嬉しくて


 ただそれだけを求めていたから


 それだけで良かったんだ


 それを手に入れる為なら


 ぼくは


 神だって捨てる


 新たな神(あなた)を選ぶ


 もう


 全て要らない






 こんな風に


 立ち上がって、


 新たな神(あなた)の手をとる


 新たな神を据えるその時を


 ぼくが


 どれほど待ち望んでいたか




 誰も知らないだろう


 でも


 もういいんだ


 それが叶ったから


 もう


 立ち上がったから


 後は


 新たな神(あなた)の手を取るだけ───










「ああ、君が無事に試練(それ)を乗り越えられることを願うよ」










 「     え      」













 何を言われたのか


 その言葉が脳に認知される前に


 頭が不可解な()で押し潰された















 『 (なんじ)は、()れを神と崇めるか 』













 誰の声か


 そもそも(これ)は声なのか


 脳の処理速度が追いつく前に


 また、圧がかけられる













『 幾度も問おう。汝は其れを神と崇めるのか 』










『 幾度も問おう。汝は其れを神と崇めた 』










『 幾度も問おう。汝は(あがな)う意志があるか 』











『 幾度も問おう。汝には悔い改める意があるか 』










『 幾度も問おう。汝に懺悔(ざんげ)の心があるならば、示して見せよ 』











『 幾度も問おう。汝の心の深淵を示して見せろ 』












『 幾度も問おう。汝が償うならば、わたしも赦そう 』












 『 幾度も問おう! 』











 『 今、汝の贖罪の心を示せ! 』












 違う、違うんだ


 ぼくの神は、


 ぼくの新たな神(かみさま)


 貴方じゃない


 本当の神(あなた)じゃない


 このヒトなんだ


 偽物の神(このヒト)こそが


 ぼくのかみさまなんだ


 貴方は


 本当の神(かみさま)だけど


 そうじゃない


 そうじゃないんだ


 ぼくの


 ぼくの神様じゃないんだ──












 『 幾度も問おう! 』











 『 汝はわたしの(しもべ) 』












 『 わたしは汝の(しゅ)、全ての神だ 』












『 他のモノを神と崇めるならば、汝は罪人 』











 『 わたしに赦しを求めなさい 』












『 汝は赦しを乞わなければならない 』












 違う、違う、ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうチがうちがうちガうちがウちガうチガうチガウちがうチガウチガウチがうちガウチがうちがうチガウ



 貴方ジャナインダ───!!












 『 汝は赦しを乞うか? 』












 赦し?


 どうして


 ぼくは罪を侵した?


 そんな筈ない


 ただ神を信じただけじゃないか



 神を信じただけだ


 偽物の神(かみさま)を───














 『 嗚呼、哀れな仔羊よ 』











 『 汝はわたしの僕だ 』












 『 汝はわたしの仔だ 』











『 汝の父はわたしであり、汝の家はわたしのもと(てんごく)にある 』












 『 汝はわたしの手から生まれた 』












『 汝が生き、その肉体が死んでも生きる場所は、わたしのもと(ここ)だ 』











『 汝が新たな命を得て、永遠(とわ)に生きる場所はわたしのもと(ここ)だ 』












『 汝が他のモノを神と崇めてたとしても 』











 『 其れは変わらぬ 』






















  う、ううぅ、うあああぁ──





 うわあああああああああああぁぁぁあああああぁぁぁあああああぁぁぁあああああぁぁぁあああああぁぁぁあああああぁぁぁあああああぁぁぁあああアあぁぁぁああアあアぁァァァぁあああああぁぁぁあああああぁぁぁあああああぁぁぁあああああぁぁぁァぁァあアアアあぁぁぁァァァ───



















 ──これが、罰?──


 ──これが、試練?──


 ──これは、新たな神(あなた)と居る為に必要なこと?──


 ──この、今迄の苦痛を全て凝縮した様な重圧は──



 ──耐えなければいけないのか──





 ── 嗚呼 ──





 ──今迄の苦労はこれを耐える為にあったのか──









 ──ならば──





 ──耐えられる筈だ───















 『 汝はそれでも否定するか 』












 ── 煩い ──




 ──ぼくはもうこのヒト以外何も無い──




 ──何も無くなってしまったんだ──













 『 哀れな仔羊よ 』










『 己が自ずと手放したモノにすら気付かぬのか 』











 『 汝が堕ちたいと言うのならば 』












 『 堕ちるだけ堕ちれば()い! 』












 『 地獄(やみ)の底が見えるまで── 』


















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