怖い女の物語
――私は昔から特徴が無い女だった。言ってしまえば地味な女ね。けれど、高校生あたりから“化粧”という魔法を覚えたの。それは私を激変させてくれたわ。最初こそは似合わない眉の形をしたりなんかして笑われたこともあるけど、大人になった今は完璧。だって、私すごく有名な芸能人の男を引っかけてるんだもの。どういうことかって? ふふふ、良いでしょう教えてあげるわ。どうせはお茶の間で騒がれることになるんだから。
実は私、パパラッチから雇われた“愛人”なの。今私の横を歩いている男には家族がある。そういえば、こいつテレビでよく言ってたわ、
「家族のために頑張れるんです」
って。世の中嘘だらけよねぇ。まぁ私の魅力に負けたのかしら。ビジュアル系バンドのボーカルだけど、素顔は冴えない格好をしている男。似合わない遊びなんかするから罠にはめられるのよ。そこへ、似合わないサングラスをした田舎クサい女がぶつかってきた。もう、ちゃんと前を見て歩きなさいよ。こんな街中で不倫がバレたら面倒くさいことになるじゃないの。それより、私を雇ったパパラッチは良い写真を撮っているかしら。あぁ、あそこの路地裏に居るわね。一枚撮ったみたい。カメラを確認しているわ。
「あ、すみません……」
……なによあの女。男が謝ってるのに何も言わずに去っていったわ。まぁひとまず、
「……バレなくてよかったわね……」
そう言っておいたわ。そうしたら何を血迷ったのか急に私をホテルに連れて行こうとするから、こういう時はカジノに行くのが良いのよと教えると情けなくうなずいた。ほんとかわいそうな男。まぁでも関係ないわ。家族を見捨てたあんたが悪いのよ。私は悪くないわ。カジノの化粧室に行っている間にSNSでパパラッチの男と連絡をして彼を同じカジノに潜伏させたわ。これで完璧♪ 素顔がわからないように、ちょっと濃いめにメイクをしておいたわ。良い写真を撮ってちょうだいよ。
……って、今度はなに? 安物の大きな毛皮をした女が男にぶつかってきた。
「すみません」
今日で二度目ね。どこかで見覚えがあるような気が……まぁそんなのどうでもいいわ。しっかり男と腕を組んで寄り添っているフリ。カシャッというカメラ音。完璧。どんなに才能があっても、ちょっとしたことで地に堕ちるのが芸能界よ。そしてそんな闇の芸能界を動かしている一人の私。スリリングじゃない! “ニュースは作れる”これ私の中の流行語よ♪
――上映終了――
「お疲れさまでした。それでは、ヘルメットをお取りください」
男はまだ夢見ているようね。いいわ。“まだ”付き合ってあげる。でも、あなたが目を醒ましてからが地獄の始まりよ。自分探し映画館の外にはパパラッチの男があなたと私のスキャンダルを狙って待ってるんだから。あぁかわいそうなバンドメンバー。解散かもね。でも自業自得よ。私は悪くないわ。はぁ~人の人生を壊すのって気持ちいい~♪ どうしてこんなことをするのかって? だって、面白いんだもの。ワイドショーを見る側か作る側かの違い。それだけよ。ふふふ♪