取り残されニート女性の物語
――あーあ、最近の文化についていけないんですけど。昔は現金支払いだったじゃん。それが今では電子マネーよ。沢山あってどれがいいか意味わからんわ。それに今時高校出てないの私くらいじゃん。いや、一応言っとくけどビンボーなわけじゃないんよ。なんかね、みんなを見てると苦しくなるの。今はせかせか働かなくても、才能があればちょっとしたお金で物造って売れる時代なんよ。んで、私もやってみたわけ。絵・動画・ダンス・ピアノ・ギターとかとか……
見事に全部途中で放り投げちゃった。だって面倒くさいんだもん。それに私、才能ないよ。顔もスタイルも普通だって言われるし。それで気が付けば、世間で言うところの“取り残されニート”になっちゃった。今ニュースで話題になってるやつね。もういいや、働くくらいなら親のすねをかじって生きていく。だって、私クリエイター家族の末っ子だもん。私がだめでも他の誰かが物を作ってお金にしてくれる。生活には困らないよーだ。
「もう、また一日動画観てるの。いい加減働いたら?」
母からの嫌味だ。そんなときはソファに寝転がってイヤホン。動画サイトに飽きたらスマホで音楽をリピート再生。毎日これの繰り返し。とうとう見かねたお姉ちゃんたちが私のことをネタに一冊の本を出版したらしい。いや待って、そういうノリみたいな攻撃は止めろ! 猛抗議したら母や姉たちは「嫌なら働け」と言ってきた。くそぅ……悔しいぞ……ん。まてよ。今のこの感情を詩にしてみたらどうだろう。小説とかは伏線貼ったりとかして難しそうだけど、詩なら短いし簡単でしょ! よーし……
みんな怒るよ私のことを
でも悪くないもんね
自由こそ素晴らしい
最高の神様からのプレゼント
毎日動画三昧
毎日ポテチ
飽きたらうすしお
お菓子はお友達
私の心を癒してくれる
世界は繋がってる
あの空のように
大海に浮かぶ地平線
この国の自然はふつくしい
ふつくしい
出来た! これを書いたとき、ピーンとくるものを感じたの! 私“こっち系”の才能があるんだなぁって。親や姉たちは鼻でフンと笑ったけど、私この道を究めることにする!
――上映終了――
「お疲れさまでした。それでは、ヘルメットをお取りください」
ふふん♪ やっぱり私の覚悟は本物だったんだわ。あ、ヘルメット取ればいいのね。はぁ~来てよかった、自分探し映画館。なんだかすすり泣く声も聴こえるけど、どうして泣く必要があるのかな。さっぱりわかんない。自分の未来や価値観なんて自分で決めるものよね! 思わず伸びをしそうになったけどスッタフさんが口元に人差し指をやったから、深呼吸は外でやることにする。待ってろよ~、今ネタがいっぱい浮かんでるんだから! お母さんやお姉ちゃんの、あーんな恥ずかしいことやこーんな恥ずかしいこと書いちゃうもんね。早速家に帰って詩を書くぞー!!