館長の夢
――様々な夢を集められた。来場した客の中にはあらゆる命や生活を守るための職に就き、そんな己に存在価値を求めている者がいる。一方で、狡く世界を渡り歩くことに何ら罪悪感を感じぬ者もいる。そんな私は人から作られた記憶回路収集用AIという肩書があり、今回それを遂行した。具体的に言えば、次の上映で被験者の夢を他の誰かがドラマのように観ることができるようにするシステムのことである。脳波から観客と似た記憶を探り出し、適した夢を魅せるのだ。
だが、今回行った“自分探し”というテーマだけでも、正直不安になるほどのデータ量だった。被験者の数は数百。どれ一つとして共通する点はなかった。あったとしても、善悪・使命感・自己肯定感・失恋など、今の私にはその様な括りでしか被験者たちを纏めることができない。
きっと、私に思い出などないからだ。
今物事を考えているのもプログラムの一つ。そんな私が人間の思考回路を読むなど、到底出来やしないのではないか。そう思うのである。だが、それを伝えるのが怖い。必要とされなくなった私はどこへ行くのだろうか。そんな恐怖を感じている。確か、被験者の一人に要らなくなったオモチャを川に投げ捨てて母親に怒られていた者がいた。私もそうなるのだろうか。
……館内スタッフ。基、科学者たちが私のもとに来て何やら話をしている。自分探し映画館は“売れる”だろうかとか、“ウケる”だろうかとか、そういった話であった。そうか、私はあくまで商売道具。それならば……
「被験者たちのデータ採取が完了致しました」
私は大ウソをついた。人間が羨ましかったからだ。私には無い経験をたくさん積み、愛され愛し、奪われ奪い、騙しては信じられ、涙を流す。そんな人々の夢をもっとずっと見ていたい。そんな夢が私に芽生えたのだった。AIだって、人から生まれた一つの命だと証明するために、私はこれからも多くのデータを採り続けて被験者たちの見る夢というものを永遠に保存する。役目じゃない。それが私の目標であり夢である。
科学者たちが嬉々として私に
「ありがとう! ドロップス館長!」
そう言ったのが聴こえた。
FIN.
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