栗毛の少女と狼さん
舞台に使われた家を出た狼役のウル、隣に少女、エミリーが並んで歩いている。周りには沢山の機材、ならびに沢山のスタッフがいる。
その中の群衆から監督のブタ(比喩じゃなくてガチ)が駆け寄って来た。
「お疲れ様、と言いたいところだけど、なんかなぁ、エミリーは演技はいいけど、個性が見れないんだよなぁ…」
この世界における重要な要素、それはキャラクターをその登場人物たらしめるオリジナリティとその出自を支える確固たるアイデンティティ。それは美貌であったり、生まれが貧しい双子の兄妹だったり、どんなものでも切り裂く魔法の剣の持ち主だったり、逆にやられ役だったりもする。
「すみません…頑張ります。」
顔、性格、体格、全てにおいてフツウ少女、エミリー。その不幸が進んでやってきそうなほど弱々しい言葉は、周りのスタッフを心配させる。監督は訝しげな表情を作る。
「なんだかなぁ、もっとこう…何も知らない純粋無垢な少女演じれない?」
「はあ…」
無理だ……私ができるわけ無い、いや、できるかもしれないけれど、有名になるはずない。なるわけが無い。
典型的なネガティブ女子の思考をするエミリーの顔は、曇る。どんどん曇る。はて、この先どうなってしまうのやら…