表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
軍勢オンライン転生  作者: あの日の僕ら
始まりの地
9/50

9話 軍勢9



「それにしても酷い奴等だよねぇ」



 風通しが良くなった馬車で冒険者の男が言う。襲ってきたから撃退した。文字にするとそれだけの事なのだが、なんとも後味が悪い。



「そうだな。多人数で暗殺しようとする連中は卑怯に違いない」


「ああ、いや。そっちじゃなくて」


「ん?連中を使う商会主の方か?雇われる方も雇われる方だと思うがな」



 少女は一体何が違うのだろうか、と思考を巡らせたが答えは出てきそうにない。冒険者の男は少し考え、口を開く。



「連中の背中に模様が入っていたの、分かる?」


「…模様?」


「模様は服従の証。実はね彼ら、奴隷なんだよ」


「!奴隷…」



 奴隷。三人にも当然その知識はある。地球でも少し前までは人を資源として利用していたのだ。今は歓迎されない考えではあるが、残っている所には残っている。



「…鬼姫さん達の故郷では、奴隷って無かった?」


「………昔はあった。だが妾達の国は今では禁止されている」


「へぇそうなんだ。いい国だね。それでね、エンブライト王国には奴隷制度がまだあるんだよ。けど無くなるのは時間の問題じゃないかなぁ」


「…それは、なぜ?」


「解放軍がいるんだよ。世界各国にね」



 男の話によると、解放軍は長らく虐げられてきた獣人族が中心となって出来た組織で、今では森人族から海人族まで参加している。純粋な人族であってもほぼ全ての教会や植民地として扱われてきた小国が協力しあっており、その波は既に大国も無視出来なくなっているそうだ。エンブライト王国もその波をもろに受け、評判の悪い貴族であったり商会が解放軍による被害を受けたとしても何の補填もしないことが多いらしい。



「あの盗賊団、弱かったでしょ?」


「え?…そう言われれば妾でさえ傷を負わなかったしな」



 少女はゲームの装備があったとはいえ、そのビルド(構築)は配下が居なくては話にならないし、何よりステータスが高くない。ゲームであった時を思い出して動いていたとしても現実となった今、五感の違いが大きな差を生んでしまう。そんな環境で最適な動きが出来る訳がない。



「多分、無理矢理技術を仕込んだ奴等じゃないかな。見張りも付いてたし、逃げるに逃げれなかったからやる気も無かったし」


「なんと。見張りじゃと?」


「うん。あ、安心してね。殺したから皆の情報が漏れることはないと思うよ」



 何のこともないように言ってのける男。世界が違えば当然暮らす人の感性も違うとは分かっていたが、こうも命が軽いとは。



「皆さーん!街が見えてきましたよー!」



 御者をしている商人が叫ぶ。前方を見れば、森が拓けて大きな柵が広がり上部からはちらりと建物が覗く。柵は木製ではあるが規模が大きすぎて壁というのが相応しい。大きな生物が口を開けて獲物を待ち構えているように、道の先には確認出来る限り唯一の出入り口である門が開け放たれており、その周辺には他の馬車であったり、人らしき影も何粒か動いているのが見える。



「おいっ!オメーどうしたんだよっ!その馬車!」


「スパイアさん!安心したッスよ!ケガしてねーッスか!?」


「ばぁか!神眼が居て遅れを取るわけねーだろーよ!」



 門付近へ到達すれば周囲から声が投げ掛けられる。その声からは商人へ対する信用と、冒険者へ対する信頼が感じられる。実力からしてやはり高名な冒険者であったようだ。



「なあ、あの三人。誰だ?」


「知らね。ジェレミの仲間じゃね?」


「はん。ジェレミがパーティ組むわけねーだろ」



 目立つ二人の馬車に乗る見知らぬ三人。周囲の興味は次第にそちらに移っていく。ざわざわとアレでもない、コレでもないと噂を立てている。当然少し前まではこの世界に居なかった人間の答えなど出るはずがなく、話題は三人の容姿に移る。



「爺さんと鎧と子供か。高そうな鎧だなぁ」


「杖…老人は魔法使いか。どんな魔法を使うのか興味があるな」


「…あの子、かわいいなぁ。付き合いたい」


「お前…」


「鬼人族の子供?また珍しい」



 少女は向けられる視線の中に薄気味悪い物を感じ、背筋が凍える。少女は努めて悪寒の発生源から視線を反らした。

 やがて馬車は門の内部へ侵入し、止まる。検問所では革と鉄の組合せで造られた複雑な鎧の兵士が四人程居た。皆、友好的な雰囲気を漂せながら冒険者の男とやり取りをしている。



「ジェレミさん。この方達は…?」


「拾ったんだ。身分証とかないけど、エミュさんの許可も出てるよ」


「…そうですか。では一応特徴を控えさせて頂きます」


「良いけど、何にも出ないんじゃないかな?」


「それはどういう…?」


「彼ら例外の転移に引っ掛かったみたいで、ね」


「?何です?それ」


「あれぇ?聞いたことない?」



 何だかんだ検問所を抜けた。検問所は人の出入りを見張り、犯罪者や危険な思想を持つ人間を入れない為にあるらしい。あとは一定量の商業用品を通す際に税が掛かるようで、人の出入りだけで税は取られない。その理由は、根本的に人手が足りないという考えの元にあるようである。


 街の中は、案外綺麗なものであった。中世ヨーロッパのイメージをしていた三人。ぱっとみ下水設備も整っていそうである。

 馬車は門からしばらくした所で再び止まり、馬車から降ろされる。馬と馬車は近くの建物から出て来た人物が引いていき、商人の男は言った。



「では、私はここで。…はい、ジェレミくん」


「お、ありがとうございますー」



 商人が冒険者の男に何か紙のようなものを手渡した。男はその紙を懐へ仕舞いながら、くるりと反転し三人の元へと歩いてくる。



「じゃ、いこうか」


「あの…どこへ?」


「冒険者組合だよ。身分証を貰いに。冒険者になればどこでも基本的に歓迎されるからね」



 三人は冒険者の後ろを歩く。人はまばらにすれ違い、活気のある場所も影のある場所も見える。やがて一際大きく頑丈そうな建物の前で冒険者の足が止まる。どうやら目的地に着いたようだ。

 建物内は質実剛健といった様であり、受付らしきカウンターや掲示板らしき物、酒場まで併設されている。人はちらほらと居るが、そのほとんどが酒場のテーブルで酔い潰れているか宛もなくうろうろしているだけだ。冒険者につれられ受付のカウンターの前へ行き、先程商人から手渡された紙を渡しながらなにやら会話をしている。やがて話は三人のことへと移っていった。



「じゃあオリヴィア頼んだよ」


「ええ。…ようこそ冒険者組合へ。私は受付嬢のオリヴィアと申します。以後お見知りおきを」



 受付嬢はそう言って一礼する。服装は胸元を強調するような、しかし機能美を感じさせる服装だ。藍色の落ち着いた色調がよく映えている。



「冒険者登録をする予定ということなので、ご説明させて頂きます」


「ああ、頼む」


「冒険者組合は身分証を発行しますが、基本前歴は問いません。ただし組合のルールは守って頂きます」


「ルール、というと?」


「殺すな、犯すな、盗むな。基本的にはコレを守っていただければ大丈夫です。あとは組合のある国によって多少変化はありますが、このグラドの街支部では特殊な決まりごとはありません」



 殺人、強姦、窃盗。この三つは日本で生きていても禁忌であり、犯せば罰せられる。三人に関してもそういった行為に対しては嫌悪感が強いので、これについては問題はない。三人は頷いた。



「それと、緊急時には組合が召集を掛けます。その際に参加せずに逃げ出すといった行為をした場合には、罰金や降格などのペナルティが科せられてしまいます。実力によって適正な仕事を割り振りますので、必ず協力してください」


「次に依頼についてです。冒険者組合はそちらにある掲示板に貼り出された依頼用紙を剥がしてこちらに持ってきて依頼を受けます。依頼には様々な条件が付与されている場合が多く、条件をクリア出来ない方に依頼を受けさせることは出来ません。あらかじめご了承ください」


「続いて階級についてです。階級は下から初級、下級、中級、上級、最後に特級と分けられています。冒険者組合に登録されると自動的に一番下の初級冒険者として活動して頂きます。数日は初級から上がることが出来ませんが、その期間は問題がなければ上がることが出来ますので安心してください」


「階級が意味するのは腕っぷしの強さです。知識も多少は考慮されますが、知識だけでは階級が上がりません。こう言うと知識など必要なく思われますが、依頼の中には薬草の知識を求められたり特殊な魔物の知識を求められたりする場合もございますので、学ぶことに損はありません」


「以上が組合の基本的なルールとなります。更に詳しいことを知りたければそのつど聞いてください。では登録に移行します。よろしいですか?」



 ぺらぺらと早口で説明されたが、理解は出来たと頷く三人。受付嬢が紙と鉛筆のような見た目の棒を手渡し、名前等を記入するよう求められた。

 そこには名前、武器及び戦法、主な拠点、組合職員内に血縁者の有無、最後に備考と五つの欄があった。書かれている文字が日本語なのでしげしげと異世界でも現役な日本語を見詰める。ファンタジーな世界に日本語というのは非常に助かるのだが、どうにも違和感が拭えない。



「…文字が書けないのでしたら、代筆も可能です。如何いたしますか?」


「…いえ、大丈夫ですわ」



 用紙の各欄を埋めていき、受付嬢に記載済みの用紙を手渡した。内容を確認する受付嬢は途中で眉をひそめていたが、大きな問題は無いようだ。



「…はい、問題ないですね。それでは身分証を発行しますので、手数料として一人につき銀貨一枚必要です」


「あっ、これで!」


「!ジェレミ殿、それは」


「エミュさんの護衛料だよ。あと数日の宿代くらいはあるかな?」


「…悪いな」


「いやいや。正当な対価だって」



 冒険者の男が銀貨を手渡す。受付嬢はそれを受け取り、変わりに三枚の木札を返した。



「正式な物はまた後日となります。それは仮の身分証ですのでお待ち下さい。登録は以上となります」



 登録が終わり、男と共に組合の建物から出る。そこで三人に木札三枚と銀貨が六枚手渡される。この男いわく正当な対価らしいので、ありがたく受けとる。無一文では困ることしかないので、商人には感謝しかない。

 少女はここまでしてくれることに疑問を持ち、男に聞いてみた。



「なあ、なぜ妾達にここまで良くしてくれるのだ?」


「え?……簡単だよ。エミュさんもぼくも、君たちに可能性を見出だしたんだ。きっとすぐに有名になる。だから今のうちに唾つけとこうって魂胆なんだよねぇ」



 そう言った冒険者の男は歩き出す。これから安くて安全な宿を紹介してくれるらしい。三人は先が見えなかった頃と比べるとどうにかなりそうだと安心し、男に続いて歩き出した。

ひとまず一区切り

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ