44話 底力4
大変、大変に遅くなりました。
五ヶ月ぶりの更新となります。
これからも何卒、本小説『軍勢オンライン転生』をよろしくお願い致します。
翌日、鬼姫一行と鍛冶師ダダン・ダデュートは冒険者ギルドで待ち合わせをし、王都を発った。
まだ日の出前という些か早い時間帯であるが、これから他の冒険者が影の女王を抑えている最前線へと向かうのだ。馬車内で鍛冶師と鬼姫は聖炎の調整を行っている。
「……まだ糊が馴染んでない。強度は黒帯が補強してるから、このまま戦うと良い」
「ふむ、了解した」
鬼姫は昨日から聖炎を顕現させたままであった。聖炎などを出しっぱなしにしていれば、平常ならば派手に目立つこと間違いなしである。だが今は非常時ということに加え、黒帯で大部分が隠れているのでそれほど騒がれることは無かった。
「二人とも、着いたわよ」
「おお、これは…!」
馬車の帆布を上げて目に映ったのは、人間が巨大な化け物に対抗する光景。それは影の女王を討たんとする冒険者達の陣地であった。
「──ケガ人っ、一人追加!」
「大丈夫っ、だっ。まだ剣は持てる」
「ならアナタは軽い方へ!術の用意を!」
一番手前は野外病院であろうか。簡単な仕組みのテントが張られ、何人かの怪我人が寝かされていた。声を張り上げているのは魔術師然とした連中であり、世話しなくテント内を歩き回っている。
それを越えると影魔物達と、それを抑える冒険者の背中が確認出来る。冒険者達は横一直線に並び、次々と産み出される影達を討ち倒していく。怪我を負った者は下がり、控えと交代して戦線を維持しているらしい。
一部に獣らしき姿が見えるが、モンスターテイマーか何かだろうか。とても気になるが今は話を聞く余裕は無い。視線を再び全体へと戻す。
「これこそ冒険者組合の真髄よ。こうして目の前にすると迫力が違うわね」
「凄いな。一人一人が強くて連携もある」
「うーむ。だが、あれでは駄目じゃろうて」
「まぁそうね。グランドマスターには伝えたんだけど、上手く伝わらなかったみたい」
三人の不満に思っている点は影の女王へ攻撃が当たっているという点であった。昨夜、グランドマスターに最適解を伝えてはいたが、冒険者も人である。どこかしらで上手く情報が伝わらなかったのであろう。
影の女王に攻撃を当ててしまうと、女王からのヘイトが大きく高まる。女王の攻撃は攻撃範囲が広く、安全を重視するなら行動させない方が良い。倒すべきは生産された影魔物であり、それらを倒すだけならばヘイトは分散するのだ。
また、冒険者の立ち位置も余り良いとは言えない。一番良いのは影の女王を中心として円で囲む陣形であり、そうすると影の女王は進行方向を固定出来ないので、その場に女王を釘付けに出来る利点がある。
現状は良いとは言えない。しかし、現状打破できる可能性は用意してきた。キャメロットが小さな石を取り出し、声を張り上げる。
『──冒険者諸君!戦いながらで良い!私の話を聞いて欲しい!』
どういう訳かキャメロットの声が大音量で響く。
実はキャメロットが口元に近付けた石は拡声石という道具名であり、以前見たことのある魔裂晶の類似品であった。
風の魔結晶を加工したもので、魔裂晶とは違い使用者の声を拡散する効果が刻まれている。どちらも高価なものであるが、一回ポッキリの魔裂晶と違い、拡声石は限界はあれど繰り返し使用することが出来る。だからキャメロットの声が大音量で響いたのだ。
『私はキャメロット!階級は…、ギルドの臨時職員という形よ!そして、諸君らの戦っている影の巨人だが、私は過去に見たことがある!』
その言葉で控えにいた冒険者の何割かは振り返り、キャメロットの姿を探している。影の女王は歴史あるギルドの記録にも存在していない未知の魔物であり、伝えられた情報も非常に曖昧であった。故にキャメロットの声明に期待しているのだろう。
キャメロットは声明を続ける。
『…いや、語弊があった。訂正する。…既に、この巨人は、何度も、何度も、屠ったことがある。私と私の部下でなッ!』
──ザワリ、と控えの冒険者のほぼ全てと、戦っている一部の冒険者でさえ振り向いた。
現在進行形で途切れることのない物量で押されており、影の女王の配下である竜、狼、蛇の三匹は強くはないとは言え、終わりの見えない戦いにうんざりしていたのだ。
それもそのはず。忌み嫌われし影の女王はアッサリ攻略されるようにはデザインされていない。
誰が呼んだか。このモンスターのテーマは"物量"だと囁かれていたのだ。生産と吸収能力により長期戦になることはほぼ間違いない。
とは言ってもキャメロットの言は軍勢オンラインというゲーム内での話であり、現実となった今、この"忌み嫌われし影の女王"は軍勢オンラインの存在と同一である確証はない。ただ、現在まで行動パターンは推測通りであるだけだ。
キャメロットは道具袋から一枚の羊皮紙を取り出して掲げた。
『近しい者は見よ!これは冒険者組合からの指揮権の委任状である!今後、私の言葉はグランドマスターの言葉と同じと考えてくれても構わない!』
『勿論本物だ。嘘ではないかと気になる者は手が空いたら来るが良い!本物だと確認したら必ず私に従って欲しい』
キャメロットの手には委任状がある。だが恐らく冒険者の半数は従うことは無いだろうとも推測していた。他二人よりギルドで仕事をしていたので、一般的な冒険者の性根は把握しているつもりだ。
冒険者というのは基本的に自由である。自分の見た物を信じ、嫌なことはやらない。そういう意味では烏合の衆と言える。しかし、魔物の脅威が迫る場合にあっては、国もしがらみも放棄し一致団結する。そういう組織なのだ。
キャメロットは試しに一つ号令を出してみた。
『では号令を出す!──両翼の者達は少しずつ前進せよ!巨人を中心に半円を描け!』
キャメロットの号令に従って、パラパラと両脇の戦線が移動し始めた。移動したのは予想通り半数ほどだ。だがじきに残りも移動するだろうとも思う。
戦線が前に移動しているのにその場に留まってしまえば、移動した仲間の負担が増え、やがて戦線は崩壊してしまうからだ。何もキャメロットの号令に従わなかった冒険者も、魔物に負けたい訳では無い。ただ信じて良いのか迷っているだけなのだ。
ここまでは上手くいっている。そう考えたキャメロットだが。
『──全員オレの言葉を聞けぇッ!どこの誰かしらねぇが、オレの経験からすれば今が攻め時だぁ!化け物を直接叩くべきだろッ!』
突然、そのような内容が辺りに響いた。声の発生源には蒼い鎧の男と、いかにも魔術師といったとんがり帽子の女が居た。おそらく、キャメロットの持つ拡声石とは違う原理で声を飛ばしているのだろう。
その男の周囲は戦いつつも、同意するように頷いたりする者が見える。だが、その他中立の者はどちらに従うべきか困っているようにも見えた。
号令に従わない者の発生についてキャメロットが下した判断は──。




