42話 底力2
「……武器だ」
「……えっ?」
重い沈黙を破ったダダン・ダデュート。会話の糸口が見付からなかったコチラとしてはありがたい限りであるが、言葉が端的すぎて意味が分からない。
その鉱人の目線を追えば、キャメロットの背負う長剣に注がれているのが分かる。鉱人は冒険者であるが同時に鍛冶師でもあるのに思い当たった三人は、ようやく理解が及んだ。
「これが見たいのね?……よいしょっと」
「……借りるぞ」
「え、えぇ。どうぞ…」
鉱人はどうやら武器が気になっていたようだ。キャメロットの銀色で精鋼な長剣を鞘から抜き放ち、剣の腹を指で撫でたりいつの間にか手にしていた金属製の道具で叩いたりしていたが、眉が八の字に曲がり表情が徐々に曇っていく。
「……ミスリルではないのか」
「そんな上等な品じゃないわよ?」
「……なあ、どこでこの剣は手に入れたんだ?」
キャメロットの持つ長剣は軍勢オンライン産。すなわちゲームのシステムでガワと中身が違う、この世界に二つと無いだろう性質を持つのだ。
この剣は金属を扱う鍛冶師にとって未知の物質に映ったようで、多大な疑問を顔に浮かべてキャメロットに質問を投げ掛ける。とは言え、キャメロットが答えられることは少ない。
「それは故郷から持って来たのよ。ミスリルとかでも無いし、むしろ柔らかいから攻撃に向かないわよ」
「……製法は?」
「私が造った訳でも無いから、分からないわ」
「……そうか」
キャメロットの剣であるが神聖滅悪シリーズと言う、豪華な装飾の施された白銀の長剣である。防具もガワをこのシリーズで統一され、一式を着込んだ姿は中々に荘厳で威風のある姿であった。白銀では無い他のカラーバリエーションも存在していたが、キャメロットは好みでこの白銀の剣と鎧を選んでいたのだ。
『神聖滅悪・焔の剣』の本来の主な効果は聖属性を持ち、主に自身を強化する能力がランダムで付与されている。武器スキルは剣を白い膜のようなオーラで包み、攻撃力を増大させ一定時間耐久力の消費を無視することが出来るモノであった。
素の状態で高い攻撃力を持っており、派手な演出のスキルで人気の武器──とはいかないのが軍勢オンライン。配下を強化する能力が付きにくく、付いても強化倍率の低いこのシリーズはごく一部のプレイヤーを除いて見向きもされなかった。
このシリーズの武器防具を見掛けるようになったのは、アップデートで中身とガワを合成出来るシステムが追加されてからである。アップデート後は見た目だけは一級品、合成元にオススメという評価に落ち着いたのだ。
ちなみにこの剣に合成されている『恩呪剣』は見た目がかなり悪く、トゲトゲしていて握りにくい。更には短剣に分類され攻撃力も低い武器であったが、配下強化が付きやすく武器スキルも中々ユニークな性能をしていた。
この剣を入手出来るクエストが多少は周回しやすいと言うのも人気の一つであったのだろう。付与される能力はランダムなのだ。目的の能力を得るまで周回しなければいけない。
もっとも恩呪剣は骨製である。硬い金属の剣と骨の剣では設定された耐久力の差は言うまでもなく、見た目と実際の硬度の差が激しいと言うチグハグな物質が生まれる原因となったのだ。
「……使用した形跡がほとんど無い。柔い剣とは面白いが、戦いには向かないか……」
鉱人は鞘に剣を納めキャメロットに手渡す。そして視線は隣へとズレていきマッドと目が合い、そのまま無言で佇む。鉱人は何も言葉を発しないが流れとしてはマッドの武器を見せろ、ということであろう。
マッドは腰に差していたやや大振りのナイフを抜いて手渡した。
「……良く使い込まれているな」
「良く使うからのう」
「……手入れも適切か。……他は?」
マッドの手渡したナイフも武器ではある。狩猟をして生計を立てる狩人であるならば十分な得物だ。だがマッドは仮にも冒険者。野生動物には有効な鉄のナイフであろうと、凶悪な魔物の皮膚すら貫通しない事の方が多い。で、あるならばこのナイフ以外に武器となる何かしらを持っているはず、と言う考えからの発言であろう。
それに対してのマッドの返答は。
「背中に括り着けているのが見えんか?そういうことじゃよ」
「……魔術師、か」
「まあ見たまんまじゃな。それで、お主は木製の杖も見てくれるのかの?」
「……不要だ」
マッドは鉱人に杖を渡したく無いようである。鉄を扱う鍛冶師にとって純木製の杖は専門外で、魔術を増幅する仕組みなどは錬金術師等の連中が得意とする技術だ。一応先端部分に大振りの宝石が幾つか埋め込まれているが、その部分は厚い布で覆い隠され伺えない。
軍勢産の中身が違うという要素も含まれたこの武器は鉱人に修理も改造も出来ないであろう。純粋に性質的に不自然な杖を見られ、深く聞かれる面倒を嫌っただけでもとも言えるが。
「……最後」
「……ああ、妾のか」
キャメロットの長剣は興味無さげにされ、マッドは杖すら見せなかった。──自分はどうするか。
持っていないと言うのは簡単である。聖炎装備は戦闘時にしか顕現しない。現実となってその法則は少しズレて、念じさえしなければ顕れないので隠蔽は完璧。冒険者として武器が無いのは不自然かもしれないが素手で戦う者もそれなりに存在している。
だが、である。今まで聖炎を鍛冶師の元に持っていかなかったのは修理出来るとも思わないし、その必要も無かったからだ。それに聖炎の存在は可能な限り伏せて起きたかった。その理由としては、面倒を呼び寄せるかもしれない、というグラドの街で出会った冒険者と商人の助言があったからである。
されど今は隠蔽の必要はない。力のある冒険者にこの聖炎を晒したがその時点では何も干渉は無かった。今現在も大丈夫であろう。影魔物の脅威に晒されているこの状況では人同士で細かい争いなどしていられない。
問題はその後、脅威の去ってからだ。聖紋教会など今まで見たことが無いがどこかに存在はしているらしい。そういった連中に目を付けられては自由に動けなくなるであろうし、それを受け入れて一生飼い殺しにされるなど真っ平御免な話だ。
ならどうすべきか。それは簡単だ。実績を挙げれば良い。
力を示せば安易に干渉はされないと思う。その教会の連中どころかこの世界の教会事情すら知らない鬼姫では希望的観測の域を出ないが。それに冒険者組合も勢力の一つではある。強い魔物を止められる冒険者は手離したくないだろう。組合に守ってもらい、プラス自衛するのだ。
考えすぎかもしれないが、権力が絡む問題からは遠ざかるに越したことはない。場合によってはいつまでも尾を引くことになる。
力を示すのに問題が一つ。聖炎護腕の現在の状態である。影の女王により耐久力が限界ギリギリの今攻撃を受ければ一撃で破損、ロストしてしまうだろう。肩口など当たり判定が無くなってスカスカ。壊れてしまっても防具の能力はゲームの仕様そのままならば残るだろうが防具そのものは永遠に戻ってこない。ゲームの世界ならば破損状態から直すすべはあるが、この世界ではそれは期待出来ないのだ。
幸い聖炎護腕は魔力由来ではなく完全な物質である。消える原理はよく分からないがそれならば完全な修復とまではいかなくても、何かしらで保護くらいは出来るだろう。良い機会である。
「──武器は、これだ」
「……!?」
「姫様……良いのですか?」
「そろそろ潮時だからな。それに…」
突然顕れた白い炎に目を剥く鉱人。静かに、というか無音で燃え盛る炎は美しく見えるが、よく見るとヒビ割れだらけで今にも壊れてしまいそうな脆さを感じさせる。手首からヒビは発生しており肩に掛けて数が増えていく。肩口の部分は明度の薄い炎が揺らぎデザインの違いから元々の姿では無い事が予測出来た。
「これを直せるか?」
その問に対し冒険者兼鍛冶師の鉱人、ダダン・ダデュートが口を開く。




