32話 暗雲1
「稽古を…つけて欲しい、だと?」
二人の言うところはそれであった。だが分からない。稽古を付けてくれそうな冒険者などこの都市には腐るほどいるし、引退した冒険者が後続の為に道場を開いている場合もある。王都など居ない方が不自然であろう。何故だか分からない。
「それはだな…」
「…俺たちには才能が無い。ついでに金もな」
「姉御は体の動かし方を知ってる。それもうんと効率的な動きをだ。…姉御も冒険者の資質は低いんじゃないか?だから姉御ほどの実力者が下級に居る」
「…いや、妾は冒険者になったばかりだし。…階級も直ぐに上げてやる」
冒険者の資質がないというのは事実だ。マッドもキャメロットも。
もちろん自分自身もステータス自体はかなり低い。冒険者として大成したと言える上級冒険者の連中など化け物ばかりだ。矢を通さないくらい硬い皮膚を生まれ持った者や、丸一日走り通していてもピンピンしている者。物理的に見えない物を見る技術のある者。魔物と十全に渡り合うなど一般人には出来ない。
鬼姫のステータス、言い替えれば才能は一般人並であり、特殊な武器種である聖炎やMP回復量微増の防具を持ち込めたこと以外は普通の人間と変わらない。…一応若干HPとMPにステータスを振り、敏捷性を多少抑えた配分にはしている。だから生命力と魔力量、魔力の回復速度は高いが走りは余り早くないだけの一般人、となるのだ。
ちなみにだが、マッドは防具にMP回復量微増を三つ付けている。ステータスは鬼姫と同じく敏捷性は抑えており、これはキャメロットも変わらない。防御力とHP、MPに多く振ったステータスとなる。その点を踏まえるとマッドは一般の魔術が使うことが出来れば大魔法使いと成れるのではないか。魔術などおいそれと教えてはもらえないのが問題点であるが。
キャメロットは他の二人には無いHP回復力微増を二つ積んでいる。軍勢オンラインでのHPの自然回復の仕様が中々厄介な計算であったからこの世界に来てどうなったかは分からないが、実際回復速度は早くなっているのだろう。HPと防御力、それと持久走にステータスを振っている為攻撃を受けるタンクなど良いのかも知れない。
…大幅に話が逸れた。本題に戻る。
「…稽古なら、他を当たってくれ」
「頼む!姉御しかもう居ないんだ!」
「…金が無い、というのも姉御に頼む理由の一つだが」
「あん?どういうことだ?」
「他の冒険者に頼むにも実力者は皆上級。良くて中級だ。…稽古を付けている間は当然依頼を受ける事が出来ないので、その間代わりの金を出す」
「ふむ。授業料…みたいなものか」
「そんな所だ。…姉御は俺たちと同じ下級だし、払う金額は少なくて済む」
「…はぁ、そうか」
「…むぅ。…俺たちも昔だが道場に通っていたこともあるんだ。だが月謝が出せなくなり辞めた。…才能があればまた違ったんだろうが呼び止められることは無かった、な」
「…体を上手く動かしたいだけなら妾の所に来ないで自主的に訓練しておけば良いだろう?」
「…いや。ファッシュはともかく俺には後がない。直ぐに強くなれそうな最適解が、姉御に教わることなんだ。…これを見てくれ」
軽装で猫耳の方の男が、突然衣服を捲り出した。何事かと目を丸くした鬼姫であるが下に現れたものを見て表情を変える。猫耳の地肌、右胸から右脇にかけて大きな傷痕が出てきたからだ。
「…これは俺が物心付く前に病気でこうなったとお袋は言っていた。このお陰で俺は息が続かない。…戦いに、向かない体だ。…同情を引くようなやり方だと理解している。…それでも、冒険者として大成したいんだ…!」
「…そうか」
数日前の訓練でやけに呆気なく沈んだことに得心がいった。技術はあるのに体はついて行かない。そんな体で上を目指す為に鬼姫の持つ技術を乞うているのだ。VRの世界で文字通り何度も死に、培った知識を。
どれくらいの攻撃なら当たっても問題ない。ここで避ければ大丈夫。ここに攻撃を受けたら死ぬ。…そういう知識ならある。ゲームのであるが。
「ちなみに俺は純粋に才能が無い。根性だけはあるから技術を教えて欲しい」
「はぁ。稽古、ねぇ…」
鬼姫自身人に軽く助言することはあっても、一から十まで人に教えたことは無い。というか視覚で感知した情報を脊髄反射の如く体を動かすだけの技術なのだ。大前提として目が良いことが条件になるが…。と考えたところで目の前の二人が獣人種であることに思い当たる。
獣人種は身体能力が高く、五感も鋭い者が多い。ならば行けるのではないか。ともすれば自分より填まるのではないか。その考えに至った。
「教えても良い」
「!やっ…」
「だが、お前達は何年も訓練していてその程度、でいいんだよな?」
「…ああ、そうだ」
「…なら今さら基礎体力訓練など必要無いだろうから、妾には技術しか教えられない。口頭で伝えて、いかにそれが再現出来るかに掛かってる、と思う」
「自信なさげだな姉御…」
「教師などやったこともないのでな。…ほら行くぞ」
「行く?どこかに行くのか?」
「訓練場へだよ。訓練場。今日は予定が無いのでな。早速といこうか」
「!ありがとう姉御!」
「…ありがたい!」
数日前まで死ぬほど恨んでいた相手ではあるが、ぶん殴ってしまえば意外と憎くはない。不思議な感覚ではある。
三人は地下の訓練場へと降りていった。
なんか駄文ですね
風邪引いたからでしょうか?




