31話 羽ばたき6
話がうんと加速します
卑屈含めた三人は、キャメロットによって呼ばれてきたギルドの治癒術師と職員によって医務室に運ばれていった。訓練であっても熱くなりすぎる傾向にある冒険者は医務室に良く世話になるものだ。
キャメロットに訓練で真剣を使うことの良否について聞いたが、より実践向きの訓練にする為に真剣同士の訓練は珍しくないようである。ただ、今回の卑屈はそのような取り決めなどしておらず、訓練の事故を装おって有耶無耶にしようとしていた。それの目的は分からず終いになってしまったが、この事を問題に出来ないものかと鬼姫はキャメロットに聞いてみるが。
「うーん、難しいわね。互いに合意の上での訓練だもの。その中で少しだけ齟齬が生じても…。問題には出来ないと思うわ。死者が出たならともかくね?」
「そういうものなのか」
キャメロットは一応、まだ仕事中であるので直ぐに戻っていった。マッドが歩み寄ってくる。その様子はぷりぷりと憤慨している様である。理由を尋ねると。
「あの陰湿フードめ。姫様を殺す気かの。…思い出したらまた腹が立ってきたわい!」
「む、だがスッキリしたろ。殴ったのは妾だが」
「…どうにかして告発出来ないか、モヤモヤが生まれたんじゃよ。多少痛快だったのは事実だがのう」
「なら…良かった」
マッドの苛つきを代弁するための訓練──の名を借りた私刑じみた行為だったのだ。本人が満足してくれなければ目標を達成したことにはならない。ここまで痛め付ければもうマッドに仕掛けてくることは無いだろう。…また仕掛けてくるのならその時はその時である。
鬼姫はこの日、訓練で疲労を覚えたので帰宅。マッドはそのまま仕事に向かった。仕事といっても簡単な依頼を受けて、都市の外で狩りや採集をするだけである。そのルーチンワークをほぼ毎日続けているのは普通に凄い。
それから数日後、鬼姫は体力がほぼ完全に戻ったので組合で適当な依頼を選んでいた。もう朝の依頼争奪戦は過ぎ去った後なので残された依頼は少ない。その依頼掲示板の隅にふと幾つかの依頼が固まっているのに気が付く。
それはいわゆる塩漬け、塩蔵依頼、氷付け等々と呼ばれている類いであった。興味が引かれた鬼姫はその依頼を覗く。
「…ふむ。割りに合わないな」
塩漬け依頼の内容は「影竜の討伐」や「仙蕾の採取」というものであった。ゲーム内知識であるが影竜というのは暗い森に潜み、影に潜り込むことが出来る厄介な能力を持った竜だ。ゲームのフレーバーテキストによるとかなり臆病な性格で滅多に人前に出てこないらしい。軍勢オンラインのプレイヤー対戦でも戦闘力は低く、主に竜使いの偵察要員として使われていた記憶がある。
仙蕾というのも入手難易度的に厄介なアイテムだ。回復アイテムの材料であるがその辺に生えているものではない。アルラウネの一種であるモンスターの頭に稀にホップするのだ。植物使いのプレイヤーなら割りと採取出来たりするが、そうでなければ中々見掛けないアイテムである。
「ここら辺は無理だな」
そうそうに塩漬け依頼を切り上げる。元より達成されないから塩漬けなのだ。といっても残された依頼もろくな物がない。「小規模なオークの巣の破壊」であったり「ゴブリンロードの一塊残党の討伐」等、距離的に一日で終わるような依頼でないし、ゴブリンロードの残党狩りなどはかなり昔の出来事なので今でも存在しているのかすら分からない。一応見分ける特徴はあるらしいが一々ゴブリンの死体など確認して回れないだろう。
良い依頼が無いのは王都の冒険者が非常に多いのと、たまたま今日張り出される依頼が平均より少なかった為だ。もう少し早目の時間に来ればまた違った結果になったことだろう。
鬼姫は思案する。マッドが宿を出てからかなり遅めに出てきたのは失敗だった。良い依頼が無いのなら帰って体を整えよう。仕事は明日からやれば良い。──と、まるで働きたくなくて屁理屈をこねるニートのようなことを考えているが、仕事をしたくない訳ではない。効率的な仕事がしたいのだ。そう鬼姫は自分を納得させる。
「…ん?」
鬼姫がふと顔を向けた所、訓練場から出てきた人影が見えた。出てきたのは三人で一人だけやけに背が低い。一人は目立つ赤色をしており、もう一人はかなり軽装だ。背の低い者はローブで顔が見えない。
──もしかしなくても、数日前に絡んだ三人組であった。
鬼姫はただでさえ珍しい和装に角が生えたアバターをしておりかなり目立つ。当然のごとく三人組の方も鬼姫に気が付いたようで三人で少しだけ話をしていたようだが、卑屈が出口の方へ行くと、内二人は鬼姫の方へと歩いてきた。
「…何か用か」
向こうから接触してくるなら避ける必要はない。むしろ先日の訓練で体に上下関係は教えたのだ。階級は同じ下級であるが。堂々としていれば良い。
連中は突っ掛かってくるものだと思い込んでいた鬼姫。だがそうではなかった。
「先日は、すまなかった…!」
「…フン。…悪かったな」
「……………うん?」
二人の口から出てきたのは謝罪の言葉であった。湿布のようなものを頬や腕に貼り付けており、以前のような人を舐めたような表情ではない。この様な真面目な表情は見たこともない──見たのは数日前が初めてなので珍しいことなのかは分からないが。
「…意外だな」
「ハッ…、俺たちがこんな態度を取ることをか?」
「目が覚めた。俺が憧れたのはあんな事をする冒険者じゃない。…あれは、違う」
ヘラヘラ笑っていたのが嘘のようだ。どちらが本当の顔なのか分からずに困惑する鬼姫。だがこういう顔も出来る、と言うことだろう。
「…一人居ないようだが」
「ゼーゲは帰った。…アイツはそういう奴だ」
「…ハッ。そういう性格だからな。説得も無理だろう」
「…先日、奴のしたことは知っているのか?」
「うん?俺たちと同じでボコボコに負けたんだろう?隣で寝てたが酷い傷だった…」
「…フッ、アイツは搦め手だけは上手いからな。姉御相手でも相当持ち堪えていたということ。…誇らしい限りだな」
「聞かされてないのか。…いや待て誰が姉御だ」
卑屈は真剣と毒、それと奇襲の件は黙っているらしい。会話の途中で聞き捨てならないワードが聞こえた気がする。その事について二人は答えた。
「誰が姉御かって?…姉御は姉御だろ」
「…ハン。鬼の姉御は鈍いな」
「…おい。妾はまだマッドの件を完全に許した訳じゃない」
「その件は本当に住まなかった!…虫の良い話だが頼みがある」
「…。聞くだけでも、頼む」
気に入らない奴らが態度を入れ換えた。それは特に問題ないが頼みとは何なのだろうか。話をしていて取り敢えず不快ではなし、話を聞いてみることにした。




