3話 軍勢3
「取り敢えず直近の問題はロックドラゴンの群れをどうやって切り抜けるかだと思うんだけど、…自己強化に振ってる人、居る?」
「「…………………………」」
軍勢オンラインにはプレイヤー自身の能力を上げることも可能であった。だが、そのリソースを配下強化に注いだ方が単純に強い。一つの強化枠で自分一人だけ強化するのと、何百、何千といる配下を一つの強化枠を使うだけで一律に強化出来る、というのは天と地ほどの差がある。
要するに、軍勢オンラインを極めれば極めるほど自身の強化は二の次となっていくということだ。
「配下さえ召喚出来れば…」
「メニューさえ開ければ」
「ねぇ、貴方達はどんなビルドしてるの?組み合わせて何とか出来ないかしら?」
三人の防具は配下強化がほとんどであるが、一部配下とは関係ない自身の強化が含まれている。それは配下の強化を間接的に助ける為であるのだが、配下が居ない今それで乗り越えるしかない。
例えばであるが、少女の防具に付いているMP回復量微増等がそれに当たる。
「言い出しっぺの私から行くわね。私の防具は人系配下の強化で占めているわ。森人系とか鉱人系とかにも引っ掛かるから、強化倍率は低くても多様性のある戦略を取れて便利なのよ」
「配下強化以外だと…そうね、HP回復量微増を二つ積んでいるわ。二つある理由は武器の付与スキルの"殺身聖仁"…ピンポイントで前線の配下に自分のHPを贈れるスキルなんだけど、その為に積んでいるわ」
「後は…武器だけどね。ガワが神聖滅悪の長剣だからリーチはあるわね。中身が恩呪剣だから、攻撃力も高い訳じゃないし、直接攻撃は微妙ね」
鎧姿の話が終わり、視線を老人へと移した。老人は自身の杖を持ち、手で弄びながら口を開いた。
「僕のビルドは死系配下の強化ばかりだね。アンデットだから光属性が心配に思うけど、そこら辺は配下自体を調整して仮想敵に有利になるよう調整したりとかね」
「死系強化の強化を除くとMP回復量微増を三積み…。これは武器付与スキルの"一騎盗千"を回転させる為にこんなに積んでる。配下にHPドレイン特性を付与するスキルで、シンプルだけどゴリ押しが出来たりして強いよ」
「武器…杖だけど、ガワは死司祭の祈祷杖で中身は吸血鬼の怨槍。元の杖よりか攻撃力は高いけど、リーチは縮んでるね」
老人が禍々しい杖をことりと地面に置き、少女の方を見た。話を聞いていた鎧姿も一つ遅れて見詰める。
「最後にオレだな。鬼系配下強化ガン積みで、運用は基本的に大鬼を使っている。それで対応出来ない状況の時は、異形鬼を使う」
「武器スキルを回す為のMP回復量微増を一積み。で、武器スキルは"狂鬼乱舞"。効果は配下を狂化状態にしてしまう代わりに、全ステータスを大幅に増加させる。んで、これは重ねて掛けが出来るんだけど、そうすると言うこと聞かなくなるから、追い詰められても三回が限度」
「その武器だが…、元は暗黒童子の呪焔剣だけど入れ物は聖炎護手。リーチは壊滅的だけど、飛んできた流れ矢を処理するのに便利だ。今は無手にしか見えないけど、多分戦闘状態になったら炎が具現化すると思う」
少女が両手をぐっぱぐっぱとしながら、二人を見据えた。その手には何も無いように見えるが、そこには確かに装備されているはずである。
「配下強化は使えないとして…、HPとMP回復量増加のスキルが肝になるか?」
「そうね…。いえ、少し実験しても良いかしら?」
「うん?良いけども」
鎧姿が長剣の柄を握り締め、じっと少女を見詰める。その額にはうっすらと汗をかき、呼吸が荒くなり瞳孔が開く。
「ちょ、大丈夫ですか?」
「ふぅ、ふぅ、大丈夫よ。とこで姫ちゃん。何か感じないかしら?」
「え?………言われてみれば少し身体がぽかぽかしているような?」
「そう、良かったわ」
荒く息を吐いていた鎧姿であったが、少しの時間を消費して回復したようだ。
「配下に掛ける武器スキルだけどね、今は配下なんて居ないじゃない?配下かそれ以外なんてどうやって区別するのよって疑問に思ってね。だからそういう縛りからは解放されているんじゃないかって」
「じゃあ、さっきのは」
「そうよ。やってみたの。無事にスキルは発動出来たわ」
「…!」
鎧姿のその言葉に、少女と老人は早速とばかりにスキルを発動しようとした。そこに鎧姿が待ったを掛ける。
「ちょっと待ちなさい。姫ちゃんのは危ないから最後ね。まずはお爺ちゃんから」
「それじゃあ、僕からだね。…えい」
「「……………」」
老人は杖を掲げ、二人の間へ振り下ろした。一瞬怪しげな光が灯ったかのように見えたが、特に変化は感じられない。
「…あっ、ドレイン付与。攻撃しなくちゃいけないか」
「ああ、そうね」
ドレイン特性の付与は攻撃に伴う特性だ。故に片方のHPが減っていて誰かを殴らないと効果が表れているのか分からない。
「姫ちゃん。私がHP譲渡でHPを減らすから、攻撃してもいいかしら?減った分は後で贈るけど…」
「ええ、大丈夫ですよ。キャメさん。検証の為ですし、しょうがないことです」
「本当にごめんね…」
鎧姿がスキルを使用して、少女にHPを譲渡する。そして、鎧姿が拳を振りかぶり少女の頬に向けて振り抜いた。
「けぶッ!(思ったより強かった)」
「あ、なんか回復した感じする」
「では、効果ありということですね!」
すりすりと打たれた頬を擦る少女に、鎧姿がHP譲渡を行う。頬の痛みはゆっくりと引いていった。
「では最後に、行きます」
「姫ちゃんお願いね」
「スキル発動!」
少女がスキルを発動した瞬間、二人の身体からうっすらと黒い炎が湧き出でて身体を包む。薄い黒炎を纏ったその姿は若干禍々しく感じられる。
「ふぅん。なんか不思議な感覚ね」
「そうですね。気分が高揚する感じで」
見た目とは裏腹に落ち着いた様子で二人は会話をする。
こうして、全員のスキルが発動できることの確認が取れることが出来た。