27話 羽ばたき2
「…何だと?」
鬼姫は話を聞いている途中で眉をひそめた。
マッドは王都に来てからの経緯を話し、キャメロットがその時の印象について補足する。二人によると王都へ来たのち、目覚めない鬼姫の為にすぐに宿を探したそうだ。冒険者組合から程近く、安全で出来るだけ安い宿。その条件に引っ掛かる物件を組合職員に聞いたり商人へ聞いたりし、かなり苦労したようだがこの宿を見付けたらしい。
だがこの宿は安全性の代わりに宿泊費が安くなかったのが問題であった。鬼姫の体調が分からなかった為、環境の悪い宿には入れたくない。まずそこで宿代が高くなる。貯蓄はあるにはあるが雀の涙であり、出来れば手を付けたくないと思っていた。
宿代を稼ぐ為に二人が仕事をすれば鬼姫を見ている者が居なくなる。そうなればより安全性の高い宿が必要になる。
…そういった連鎖でやりくりはかなり苦しかったようで、これだけなら鬼姫は二人に申し訳ない気持ちで一杯だったろう。
ただ、鬼姫が眉をひそめた話はそれでは無かった。王都の冒険者に妨害を受けていると言うのだ。
「何をやられた?」
「…そんな大したことじゃない。受けようとした依頼を横からかっ去られたり、すれ違う度に肩をぶつけたり足を踏まれただけじゃ」
「わたしはグラドの街で推薦状を貰ったからここでも臨時職員扱いなんだけど…、どうにも出来なかったわ。新人のギルド職員の話なんて先輩に相談しても流されちゃって…」
「…王都の冒険者はクソ野郎共か」
「いや、別に全員がアレな性格でも無い、とは思うんじゃ」
マッド曰く、王都の冒険者組合は広い。その規模はグラドの街と比べることがおこがましい程であり、抱えている職員の数も冒険者の数も膨大である。そんな中でマッドにちょっかいを掛けているのは下級冒険者の一塊であるらしい。
マッドは単純に新入りが気に入らないから妨害をしている、と思っているようだが実際は違う。彼らは万年下級冒険者であり、中途半端に力がある一般人に過ぎない。下級で燻り続けていると一部は次第に焦りを感じ、実力も伸ばさないまま昇任欲のみ肥大していく。そんな中で邪魔になるのは何か。
答えは同じ下級冒険者である。
仕事の数は限られており、供給の数は変わらない。ならばと冒険者そのものの数が減れば需要が落ち、簡単で稼げる依頼を容易に受けることが出来る。それに自身が目に付く確率を上げることにも繋がるのだ。こんな良いことずくめなのは他にない。だからこんな事をする。
冒険者の数が減ることはギルド側にとってもよろしくない事ではあるが、基本的に王都の冒険者組合は下級冒険者のいざこざなど興味がない。ゴブリンを狩るのにいっぱいいっぱいな者が何百と居ようと、片手間にゴブリンの群れを壊滅させドラゴンでさえ対応出来る者が一人居れば事足りる。他の場所の組合も皆そうという訳では無いが、ここ王都ヴィステリヤの冒険者組合本部はそういう方針であった。
「まあそんな事があった、という事じゃな。姫様が目覚めた今は些細な問題じゃ」
「…そいつら、ぶん殴ってやる…」
「ま、待って待って!」
物騒な事をぽつりと呟いた鬼姫であるが、そこへすかさずキャメロットが止めに入った。冒険者組合に勤務している彼女である。真面目な性格をしているキャメロットは当然のように組合のルールを覚えており、ほぼ完璧だそうだ。
「冒険者同士の喧嘩はやめた方が良いわよ!?よほど片方が悪くなければ相互に罰金、最悪資格の剥奪なんだから」
「ふむ…ならバレなければいいんじゃな?」
「そうじゃないわ、よ。…そんな怖い顔しないの、姫ちゃん。…闇討ちするとしても、アイツらはギルドから離れないと思うわ」
「けどな、そういう愚鈍はお灸を据えぬまで際限がない」
「…まあ一つだけ方法があるにはある、かも…」
キャメロットはぽつりぽつりと語った。組合は私刑を良しとしないが、名目が別にあるならばその限りではない。例えば訓練がそれである。訓練ならば怪我をするのはおかしくないし、力を付ける為に必要なことだ。組合も訓練は推奨しているし、下級冒険者同士の訓練など良く見る光景だ。それが少し過激であっても。
しかし問題は。
「連中が乗ってくるか、だな…」
「そうねぇ…」
彼らは下級冒険者である。自分の力の無さは自覚しているだろうし、そもそも訓練などしないから下級などでは無いだろうか。マッドがいきなり訓練に誘ったとしてものらりくらりと回避されて終わりでは面白くない。しかしマッドの考えは違った。
「あ奴らはたまに訓練場に入っていくのを見るぞ?」
「む、そうなのか?」
「うむ。明らかに年下の、新人下級冒険者を連れ込んでたわい」
「…そうなのか」
訓練場に出入りしていると聞いて意外と向上心はあるな、と思った鬼姫だが、次のマッドの言葉でその感想を塗り替えた。年下と言うことは勝てそうな奴を選んで訓練をしているということだ。もしかしたら真面目に先輩冒険者としての指導を施しているのかも知れないが、マッドへの態度からしてその可能性は少ないだろう。
その下級冒険者達もこの私刑じみた方法を思い付いている。その可能性の方が大きい。
「マッドが誘ったら乗ってくるか?」
「間違いなく乗ってくる、じゃろうな…」
「良し、それで行こう」
「じゃがわしでは勝てるかどうか…」
「あの人達も、曲がりなりにも冒険者よ。お爺ちゃんじゃ厳しいと思うわ」
「妾が相手をする。というかそんな奴らなどぶん殴りたくて体が疼く。…だが流石にこの体調では不安でな…」
「…困っているけど別に今すぐ解決しなければ、という訳じゃないわよ。もう日が落ちているし」
「むぅ…」
マッドが受けた妨害のお返しはまた後日ということになり、更に情報を共有してから寝た。翌日からは目を付けていたという、ここより安い宿に変え、鬼姫のリハビリも行う予定だ。鬼姫にとっては初めての王都の夜である。他より幾らか騒がしい、ということを考えながら眠りに落ちていった。




