26話 羽ばたき1
長らくお待たせしました
主人公の活躍も増えます(当社比)
「………………。…ぅぁ?」
柔らかな日差しの差し込む、見慣れない部屋。少女は寝台から身を起こし、それによって日に照らされた小さなホコリが部屋を舞う。少女はぐっと背伸びをして大きな欠伸を漏らした。
「ぅんっ…、くぁぁ…。良く寝……どこだ?ここ」
少女の頭部からは黒く立派な角が伸びている。その少女は鬼姫であった。気が付けば全く見覚えの無い場所だ。鬼姫は必死に頭を捻るが、最後の記憶は赤いゴブリンを倒した後の馬車内でありそれ以降の記憶はぽっかりと抜け落ちてしまっている。
掛けてあった毛布を退かし、寝台から体を起こそうとすれば体のあちこちからパキパキと音が鳴った。
「いつつ…。どれだけ寝てたんだ…」
なんとかベッドから這い出て、頼りない足取りで窓枠へとすがり付く。窓ではあるがガラスは付いておらず木の板で蓋をされているタイプの窓だ。ガラス窓というのはこの世界に無い訳ではないが、貴族や商会主などの金持ちしか持つことが出来ない。なのでこの部屋は間違っても貴族の屋敷などでは無いことは分かる。
鬼姫は木の板に手を掛け、そっと板を押して外を覗き見た。刺すような光が目をつついた後騒がしい人の声や生活音が耳に入ってくる。やがて目が光に慣れ、徐々に景色がはっきりとしてきた。
──目に入ったのは、焼きレンガ、石レンガ、木造、コンクリート…?の多種多様な建築物。そして鎧やローブ姿の人間が目に付く中、獣のような者や異様に背の高い者が目に入る。グラドの街でもこのような人種は居たが、こんなに数は居なかった。通常の人間の母数も多いように見える。
「ぁー…。王都っぽいな…」
窓の外の光景と記憶を頼りに推理した所、そのような結論に至った。最後の記憶が六日目の夜までしか無い。予定では十日間掛かるので四日は寝ていたことになる…が、所詮予定は予定なので何日かはブレているだろう。そう考えても二日間から六日間、もしくはそれ以上経過しているかもしれない。
鬼姫は窓と反対方向を見やる、と出入口となる扉が鎮座していた。今の自分の置かれている状況が分からない。そこから飛び出して暫定王都を調べて回るのも良い。
…だが、と鬼姫は思い直した。部屋には長閑な空気が流れている。頭が痛くなったのは覚えているが、何が原因で寝込んでいたのか分からない。体も本調子とは言い難い。ここは下手に動くよりも信頼する二人を待つべきだ。あの二人ならなんとかするだろうという信頼があった。
しばらくの間、ベッドの縁に腰掛けて柔軟をして待機していた鬼姫。ぐぅっと腹の虫が鳴いたりして極度の空腹を押し殺して待つ時間はかなり長く感じていたが、そんな中ゴンゴンと誰かの足音が室内に響きある地点で止まる。その足音はどうやら体重の重い人間が部屋の外…恐らく廊下、を歩く音だろう。少し軋むような音であった。
そして、カチャリという音と共に扉が開かれる。
「…!」
「おおっ、キャメロット!妾は──」
「姫ちゃん!良かったぁ!」
「ぐぇ」
姿を見せたキャメロットに鬼姫が声を掛ける。すると持っていた荷物を放り出して突進してくるキャメロットは、鬼姫を胸にかき抱いてきつく締める。鎧の中身は美人なアバターであるキャメロットは胸も豊満…であるが頬に当たるのは硬い胸甲のみだ。ごりごりと硬く冷たい感触のみ返ってくる。
されるがままになっていた鬼姫であるが、聞きたいことは沢山あるのだ。鬼姫は胸甲から顔を上げてキャメロットへと問う。
「キャメロットよ。ここは王都…でいいのか?」
「そうよ。王都ヴィステリヤ。すごい人だったわ」
「妾も窓から見たから分かるが…。というかどれだけ寝ていたのだ?」
「えっと今日もう夕方だし…。大体六日間くらいかしら?うんそれくらいね」
「ぇ?」
自分は六日間も寝ていた。その事実に驚愕を隠せない鬼姫。予想はしていたことであるが、面と向かって言われるとやはり信じがたい。もっともキャメロットが嘘を付く理由も無いので受け入れる必要はあるが、時間を掛けて咀嚼していけば良いだろう。
「王都に着いたのが四日前よ。あっ、お爺ちゃんはもうすぐ帰ってくると思うわ」
「そ、そうか…。六日か…」
「ここも探し回って見つけてね?…そうだわ、体調とか大丈夫?」
「うむ、若干筋肉が落ちてはいるが…少し怠いくらいだ。他も問題無い。頭も痛くないし」
「そう!良かったわ…。…喉渇いてないかしら?」
「…言われてみれば。水を貰えるか?」
「はいっ、どうぞ」
にこにことしたキャメロットに見守られながら水筒へ口を付ける。少しだけ塩辛い水は乾いた喉を潤していく。水を飲んでふぅと一息ついた鬼姫、そこへ部屋がノックされる。
「あ、お爺ちゃんだわ。今出るわねー」
キャメロットが扉を引くとぬぅっとマッドが姿を現す。その背には背負子のような物があり、それなりに荷物が積まれている。顔をなぜかしかめっ面であったが鬼姫の方へ顔を向けた瞬間、それは驚嘆、笑顔、泣き顔へころころと変化した。マッドは頼りない足取りで鬼姫へと近付き。
「ひ、姫様…!」
「おうおう爺よ。心配掛けさせたな」
「うむ…!良かった…良かったわい」
鬼姫とキャメロットは鬼姫が寝ていた寝台へ座り、マッドは荷物を解体している。そんな二人は鬼姫の為に近況報告をしようと口を開けた。




