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軍勢オンライン転生  作者: あの日の僕ら
スタートダッシュ
24/50

24話 巣立ち8



 王都へと続く道中。鬼姫は熱を出して寝込んでいた。うんうんとうなされている様子でかなり辛そうである。



「ぬう…。解毒剤も効かぬか…」


「最初は疲れただけかと思ったけど、もう違うわね…」



 鬼姫は赤ゴブリンに腕を刺された。毒を塗ってあったか定かではないが、現時点では回復させる手段は取ってある。持っていたポーションから万能解毒薬 (万能と言ってもあらゆる毒の害を僅かに小さくするだけ。完治しない) を飲ませた。今夜鬼姫の拾っていた刀を調べてみるつもりではあるが、調べた所で解決するかは分からない。普通の体力回復のポーションや水は飲んでくれることが救いであった。


 その日の夜。焚き火の前でマッドとキャメロットは袋の検分をすることにした。ズタ袋には刀だけではなく赤ゴブリンの死体も入っている。日を置きすぎると腐って悪臭を放つことになってしまう。そんなものが近くにあったら鬼姫の体調も良くならない。



「準備は良いかの?」


「水もたっぷり用意したわよ。大丈夫」



 マッドが袋の口を下にして高く持ち上げる。そうなれば当然、重力に従って中身は落ちてくるもの。どさどさと音を立てて雑草を汚しながら肉の小山が出来た。



「…ふむ。まだ匂いは立ってないのう」


「うへえ…。目が合っちゃったわ」


「…さて、やるかの」


「うん…」



 鬼姫は武具の素材にしようと赤ゴブリンの死体を回収してきたのだ。肉も本当は使えるのかもしれないが、保存しておくこともこの場で加工することも出来ない。良いとこ骨や皮膚くらいしか持ち歩けないであろう。

 マッドとキャメロットは肉片を観察しながら、使えそうにない部分に分別していく。



「…のう、キャメロット」


「うん?どうしたの?」


「なんというか…。普通のゴブリンと変わらない気がするんじゃが」


「えっ!?そうなの?」


「狩りに出たときゴブリンを解体したことがあっての、この骨も…特に硬い訳ではないぞ」


「…え。ちょっと待ってお爺ちゃん。ゴブリンを…解体?したことあるんだ…。マッドサイエンティスト?」


「……違うぞ!?わしはただゴブリンの骨や角が何かに使えないか調べただけじゃ。一般的に肥料にしかならないと言われておるが、実際には分からないじゃろう?!」


「あ、そっかぁ…。やっぱり凄いわねお爺ちゃん。私はそんなこと考えつかなかったわよ」


「…それよりも早く済ませようぞ」



 赤いゴブリンを解体していく二人。死骸は大きく二つに分けていく。内臓は言わずもがな。筋肉や脂肪も保存出来ないので処分。骨は武具に出来そうなほど硬くはないが、保存は可能なので保持。爪は腐らないので保持。皮膚は強靭なのかと思ったがそんなに厚くなく簡単に破けてしまう。なめす技術も材料もないので処分。腰布らしきものは匂うので処分。頭蓋骨なんかも保持しておく。

 そうして分別していくと血にまみれた日本刀が顔を覗かせた。



「…血塗れじゃの」


「姫ちゃんも分けて運べば良かったのに…」



 キャメロットが刀の鞘を掴んで引っ張り出した。よくよく見れば鞘は真っ黒で、漆塗りのようだ。そこには下緒まで付いている。鞘も日本刀のイメージにある菱形模様が出来る柄巻だ。これがこの世界で造られた模造品であったとしても、ここまで似ているのはあり得ない。何かしら日本との関わりがあることを思わせる。



「こんな刀は見たこと無いか冒険者に聞いてみる?」


「…そうじゃな。…でも今は止しとこう。いつもの半寝じゃ」


「…いつもの半寝ですわね」



 冒険者の独特な寝方に、勝手に名前を付けていたようだ。日本刀というのは一種のロマンを感じさせる。他の国には少ない、引いて斬るという不思議な発展を遂げたからだ。それだけに血塗れで臓物塗れなのは実に残念である。



「ふむ…。キャメロット少し貸してくれぬか?」


「良いわよ。…はい」


「昨日は良く見えんかったが、綺麗な波紋も入っていたように見える。抜いてみるぞ」



 マッドは柄に手を掛けて日本刀を抜いた。



「…む?抜けぬのう。何か詰まっているような…」



 マッドが日本刀の刃と鞘の間をよく見ようと顔を近付けた時、変化が起きた。赤い帯が柄から飛び出してきて手に張り付く。マッドは素手であったのでぺたりという冷たい感触を受けた。

 これは鬼姫も受けたものであるが、当時マッドからは見えていない。そして鬼姫も伝えることが出来ていなかったのだ。



「何じゃ!?………ぐぅっ!?」



 赤い帯は皮膚に染み込み、皮の下を侵食しているようでじくじくの痛む。その真っ赤な手はすぐ近くに落ちている赤ゴブリンの皮膚と同じ色であった。



「い…がぁ…痛だだだっ!」


「お爺ちゃん!?大丈夫!?」


「大丈夫じゃ…っ!…ない、な…」



 手の神経が侵され書き変えられていく。自分の指が欠片も動かない。そして赤い領域は未だ侵食を続けており、手首からじわじわと上がってきている。赤いゴブリンは全身が真っ赤であった。もしかしなくてもそういうことであろう。赤ゴブリンは特異な個体ではなく、刀の方が特異であったと言うことだ。

 このまま何もしなければマッドも赤ゴブリンのように全身深紅に染まり、恐らく自由意思も奪われてしまうだろう。何かしら対応が必要だ。



「ぐぅ…。………………キャメロットや。頼みがある」


「何だ?私に出来ることなら何でも言ってくれ!」


「………とりあえず、紐で腕を縛ってはくれぬか?…そこじゃよそこ。赤色の部分の境目じゃ」


「分かったわ!」



 マッドはキャメロットに麻紐で腕を縛るように指示をした。ちょうど赤色を、血流を食い止めるようにきつく絞める。これで止められるか分からないが思い付くだけやらなければいけない。

 赤色が紐へとたどり着く。──そこで赤色は塞き止められた…と思いきやじわりと奥へ抜けてしまう。



「クソっ。効果無しじゃ」


「でも速度はかなり落ちているわよ!このまま止められるかも!」


「…うむ」



 マッドは覚悟を決める。恐らく赤色が全身、あるいは脳にまで達すると体を支配されてしまう。そんな効果の剣であると予想した。まだ腕以外に広がっていない今ならば、取れる手段はあるだろう。



「…キャメロットや。よく聞いておくれ…」


「!?何?お爺ちゃん!?」


「……………剣で腕を切り落として、くれぬか?」


「…えっ?」



 腕を切り落とす。これがマッドの出した結論であった。少々短絡的な思考ではあるが、赤いゴブリンは仲間であるはずのゴブリンを襲っていたのだ。自分が意識を無くされ仲間を襲うくらいなら腕など切り落とす。それで止まらなければ自分の命さえも…。



「…いやっ!いやですわ!」


「キャメロット!もう手は無いんじゃ!」


「お爺ちゃんを…切れっこなんて無いわよ!」


「……キャメロット…」



 決断の時は迫る。

鬼姫の症状は軽い破傷風みたいなもんです

厳密には違いますが

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