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軍勢オンライン転生  作者: あの日の僕ら
スタートダッシュ
19/50

19話 巣立ち3



 がらがら、がらがらと音を立て馬車は進む。地面に出来たわだちに木製の車輪が食い込み、馬が力強く踏み込んで重い車輪を回している。

 三人の乗る王都行きの馬車は日が中天を越えた頃にグラドの街を出発し、街道を移動していた。


 移動の所要日数は遅くても十日間掛かる、とは馬主の言だ。この馬車を牽く馬が余り速くないのもその要因の一つであるが、これ以上速くするには馬をより良い馬に換えたりする必要が出てくるだろう。



「この馬はかなり老いておるからスピードは出ん。じゃが栄養状態は悪い訳ではない。というか若い馬を使う乗り合い馬車はそうそう無いからのう。…停留場では見なかったが魔物に牽かせる馬車もあるらしいが、それは高いから無理じゃな。金貨が飛ぶぞ」


「ユニコーンっぽい奴とか六脚の馬とかは見たことがあるな」


「というか詳しいわねお爺ちゃん」


「まあ調べたからの」


「妾だって調べてない訳じゃないが…凄いな」



 馬車には三人の他に凄腕と呼ばれていた冒険者一人と若い男女のカップルが一組、馬主を除いて計六名が同乗していた。馬車の先頭付近と側面には小窓があり、木箱、鬼姫一行、カップル、冒険者の順番で座っている。当然だが馬車にサスペンション等無く振動が直に伝わってしまう。

 鬼姫は既におしりが痛くなっていた。



「見てくれナニー。小鬼の狩りだよ」


「わあ凄い。初めて見た」


「…」



 カップルは隣り合って座っており、窓の外に意識を向けている。そんな中唯一の一人である冒険者は剣を抱えて座り、流れる風景をじっと見詰めていた。乗り込んだ時から馬主以外と会話していないことから寡黙な男なのだろうと予想出来る。


 異世界の馬車の旅であるが──正直暇との戦いであった。馬車の激しい揺れによる臀部の痛みと馬車酔い。それすら鈍く感じにくくなり、会話のネタも尽きる。やがてただただ無言で馬車に揺らされるだけになっていた。

 そんな苦痛の終わりが来たのは、日が落ち掛け空が橙色に染まった頃合である。夜を明かす為に馬車を停めるからだ。



「ケツが痛い」


「うう…酔いましたわ」


「…馬車酔いは慣れるしかあるまい」



 各自が馬車を降りて寝床の準備をする。昼間は馬車が移動しており視界も利くので危険は少ないが、夜間は違う。無防備に寝ていようものならあっという間に魔物の胃袋の中か、野盗に身ぐるみ剥がされて奴隷落ちだ。それを防止する為に全員が寝ること無く起きている者、見張り番が必要になってくる。馬車の乗客で持ち回りを決めることもあるが、この馬車は個人でやってくれというスタンスだ。

 固い黒パンを水で流し込んだ後、馬主が火を起こして配り就寝となる。水は馬車に樽で積んであるが、量は無いのでコップ一杯しか配られない。


 他の乗客も準備を整え終わったようだ。馬主は冒険者に火の番を任せて早々に眠り、冒険者は座って剣を抱えたままうつらうつらしていた。定期的に目覚めて焚き火に枯れ枝をくべた後にまた眠るという特殊な睡眠の方法を取っている。

 カップルは片方ずつ寝ることにしたようだ。女が男の膝に頭を置き、男は女の寝顔を見詰めている。


 三人はローテーションを組んで交代で寝ると決めた。交代のタイミングだが、少しでも眠いヤバいと感じた時や魔物の接近など異常を感じられた時に起こすと取り決める。

 明かりが焚き火以外には存在しない、故に天空に瞬く星々が美しくまた暗闇が恐ろしくもある。虫の鳴き声が辺りに響くのみで各見張り番の間には会話はない。



「…」



 鬼姫は焚き火に枝を放り込み、火の揺らめきを観察していた。一人でじっと考え込んでしまえば、途端に望郷の思いに襲われてしまう。この世界の雄大な自然を前にすると現代の生活というのは豊かであったが息苦しいと感じる。自分の意見も面と向かってぶつけることは少なく、相手が目の前に居るというのにインターネットに書き込んで満足する。──なんと回りくどいことか。

 だがここにはそんな便利な道具はない。自分の意見は言わなければ伝わらないし、容易に遠くの人と会話も出来ない。より他人の存在を身近に感じることが出来る、という点では良い世界なのだろう。


 鬼姫は隣で寝ているキャメロットを見る。包容力のある姉のような─実際の中身は兄貴であるが─大切な存在である。

 鎧を着たまま寝るのはどうかと思うが色々な要素が怖いのだろう。警戒するのは魔物、それと人間にもかなり警戒していると感じる。キャメロットは鎧を纏っているがアバター作成に時間を掛けた、要するに美人だ。倫理観など羽のように軽いこの世界で自分の容姿に興味を持たれるということに警戒している、ということである。


 そのまま視線をズラすとうつ伏せで寝ているマッドが居る。年季の刻まれたシワだらけの顔であるが、それは本来の姿ではない。渋くて老練な雰囲気を感じられても中身の年齢は自分達とそう違いはないのだ。

 マッドは頼りになる。常に警戒して鬼姫とキャメロットの安全を優先した行動を取り、交渉術にも長けている。マッドが居なければスムーズに馬車にも乗れなかっただろう。


 前の世界に友人も家族も、恋人──は居なかったが、色んなものを置いてきてしまった。血の繋がりという意味では天涯孤独の身であると言える。

 だが同郷という繋がりがこの二人にはあった。少なくとも一人になることは無い。鬼姫にとって家族に近い関係を二人に感じていた。この二人に悲しい思いをさせないよう、護る。戦いが不得手な二人に代わって、自分が矢面に立とう。そう決意した。

黒パン=銅貨一枚

※黒パン…大きくて固くて不味いパン

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