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軍勢オンライン転生  作者: あの日の僕ら
スタートダッシュ
18/50

18話 巣立ち2



 薬師に別れを告げてから数日後、三人の姿は街の北にある乗り合い馬車の停留場にあった。


 下級冒険者となったことで金銭的な不安は解消し、少ないながら貯金もある。こうして糧を得るのに困らなくなったので必然的に他の欲が前に出て来た。──知識欲である。しかも"何故自分達がこの世界に居るのか"という生きるのに必須ではない答えを求めている。

 余裕が出来れば人間は更に追い求めるもの。少なくとも三人は現状に満足では無かった。



「トゥールの街行きー!特別に銀貨一枚!あと一人で締切だよ!」


「ベルヘモット帝国、帝都行きッ!大銀貨一枚でどうだ!?こんなに安いのは今だけだよッ!」


「エンブライト王のお膝元~!王都シャティヨン行きの馬車だよ!一人銀貨三枚!出発まで時間が無いよ~!」



 乗り合い馬車の停留場、というのは前の世界でいうバス乗り場のようなものだ。ただし日本のそれではなく外国の定員が集まるまで出発しない、しかも目的地に着くまで何日も掛かる代物である。ただ個人経営で馬車主の裁量に任されている部分が多々あり、交渉次第ではいかようにもなる所が利点だ。

 その馬車の中から王都へ行くものを選び声を掛ける。



「馬主よ!三人乗る!少しまけてはくれないか!?」


「へえありがとござんす。…ふぅむ。まけたいのは山々なんですがね、あっしも商売ですから。すいやせんが定価の銀貨三枚、三人なら九枚で頼んます」


「む、むぅ…」


「どれ姫様。わしが代わろう」


「…爺、頼んだ」



 やけに自信満々のマッドが鬼姫の前に出てきた。マッドはちらりと馬主の馬車を確認し、値引き交渉を始める。何故自信があるのかは定かではないが。



「馬主よ。一見した所一人も乗客が居ないようだが。それではわしらは待つことになる…そうじゃろ?」


「へえご老人、それは違いやすぜ。腕利きの冒険者が一人予約済みでやんす。それが来るのは日が中頃に登った時で、他のお客もその辺りで集まる頃…待たせはしませんぜ」


「そうか。…飯はどうなっているんじゃ?」


「へえこちらでご用意があります。それで銀貨三枚!こんな安く王都へ行けるのはウチだけですぜえ」


「ふむ飯付き。…そこに積んである木箱じゃが、もしや中身は黒パン、それか良いとこ干し肉じゃろう?王都まで少なく見積もっても一週間。その間質素な食事のみとなるなら銀貨三枚は高い。違うか?」


「…。ご老人。もしかして旅を知らないんじゃございやせんか?旅というのは皆こんなものですぜ。馬主のあっしも相応の危険がつきまとうんで旨味がなきゃやってられねえです」


「それはわしらも同じこと。その凄腕(・・)の冒険者がどの程度腕利きなのかは知らぬが、最悪自分の身は自分で守る必要があるじゃろ。何せその凄腕は一人しか居ない…どうせ非常時は馬主を守らせる。凄腕はその為の護衛といった所じゃな?」


「…へえ、違いやせん。だがあっしも危険からは遠ざかりたく…」


「わしらはなにも銅貨一枚で連れていけ、なんて無謀を吹っ掛けている訳じゃない。銀貨二枚で良い。それでも相場より高いじゃろうがその分頼みがある」


「頼み…?」


「なあに簡単なこと。危険を察した時に秘匿せず、わしらに話して欲しいということじゃ。それを他の乗客に言い触らしたりはせん」


「はあそんなことは…」


「……わしが、ただ時をやり過ごしただけの老いぼれじゃと思っておるのか?…この顔はここら辺では見ないじゃろ。実は色んな所に伝手もあっての。お主に詳しく話す気は無いが仕事に差し支えるのは困ろう?」


「…?……!そ、そういうことは勘弁して貰えやせんか。馬も養っていけねえですが…」


「ふむ?何のことやら。わしはただの下級冒険者。畏まる必要は全く無いであろう」



 銀貨三枚から銀貨二枚にまけることが出来たマッドが意気揚々と二人の元に帰って来た。浮かべているその笑みは交渉が上手くいった証である。



「凄いな爺。かなり安くなったな!」


「馬主は最初頑なに下げなかったじゃない。私には到底真似できないわ」


「いやいや、本来値切るのが正しいのじゃよ。つまりはぼったくりの値札が貼られている訳じゃの」


「…そうだったのか」


「…ついでにじゃが…。…屋台の串焼きとか…言い値で買ってはおらんか?」


「…買ってるな」


「私もよ…」


「そうか…。どうせ馬車の中は暇じゃし。そこで教えようかのう」



 交渉をしたマッドであるが、実は値切りはあまり重視していなかった。ここグラドの街から王都への道中は簡単に道が舗装されているとは言え危険度は街と比べ物にならない。魔物の数も多く、野盗に身をやつした者達もいる。そして馬主の中にはそんな野盗と結託して乗客を奴隷にしようと目論んでいる者も居る。

 マッドは嘘やハッタリまで使って、二人の身の安全を確保しようと最善の行動を意識していた。



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