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2、ポケットの中身


少女は暫く考えてから、上等な上着を着たカエルに向かっていいました。


「どこかで一度座ってから、持っている物を確認しましょう。だって、わたしたちお金を持っているか、わからないもの」


ぽんと、上等な上着を着たカエルは、手を打ち。


「あぁ、それは、とても良い考えだね」


と、言って。その場に座りこみました。

芝がふかふかとよく、育っている場所でした。

カエルは上等な上着のポケットをひっくり返して中身を出します。

中からは何枚かの金色に光る硬貨と、何かの刻印が彫られた指輪が出てきました。

それから飴玉が2つと、銀の鍵と、滲んで読めないメモが出てきました。


「わあ、すごい、僕のポケットにこんなに入っていたなんて」


黒い目をまぁるくして驚くカエル。

同じくらい目をまぁるくして驚いた少女も言いました。


「本当。まるで宝箱みたいね」


どちらからとなく、吹き出し、笑いました。

少女は鈴のような声で。

カエルは少し高いしゃがれた声で。


「次はわたしの番ね」


上等な上着を着たカエルの隣に座って少女はあかむらさきいろのワンピースのポケットをそっとひっくり返しました。


ポケットからは何枚かの金色に光るカエルの物とは少し大きさが違う硬貨と、やはり、何かの刻印が彫られた少し小さめの指輪と、赤いセロファンに包まれた2本の薄荷の枝と、小さな古めかしい銀の手鏡が出てきました。

それから、これは上等な上着を着たカエルが引っかかっているのを引っ張ったのですが、細い銀のチェーンもポケットに入っていたのです。


「君のポケットもまるで、宝箱のようだ」


上等な上着を着たカエルはまた目を丸くし、少女は可笑しそうに笑いました。


月と星はそんな二人を静かに、見守っていました。





 金色に輝く宮殿で、肩の辺りで揃った金の髪を風に揺らしながら、第3467代のイヴ、その名をイヴ・ネーリアと、いい、そのネーリアは、遠く東の空を見ながら、ため息をついた。

後ろでは青い髪をした少し浅黒い男性が、そっと、ネーリアの肩を抱き。


「大丈夫。強い子だから」


と、力強い声で、告げた。


頷いたネーリアの頬に、涙の跡があったことは、そばにいたこの男性しか知らない。







 「ねぇ、おじいちゃん」


少し尖った耳を持った白い陶器のような肌、それもとてもみずみずしい肌を持った、小さな幼い少年は、古ぼけた何代も前からずっと、使われてきたと、分かる、揺り椅子に座った、顔中皺だらけの男性に話しかけた。


「なんだい」


歳のせいか舌っ足らず口周りで、しかし、とても優しい声で老人は少年を見て言った。


「イヴ……様っていうのは、なんなの?」


年端もいかない少年の無邪気な問いに、瞳に、老人は静かに揺り椅子を動かして思案する。

じっと、その動きを見ながら、急かす事無く少年は待った。


暖炉の前で寝ていた犬が起き上がり、欠伸をひとつして、その場を去る。

何か、それできっかけを掴んだように、老人は口を開いた。


「イヴ様というのはね。あの、五大国家の一つキメール・ド・イヴ国にある、雲のような綿飴のような宮殿に、ずっと、住んでいる御方なんだ」


少年は静かに聞いていたかと、思うと、急に膨れた顔を作った。

それから、不満を含めた声音でこう言った。


「そんなの、この世界の端から端までみーんな知ってるよ。そうじゃなくって……」


言葉を遮るように、老人は続ける。


「あぁ、言いたい事は分かる。だがな、世界にはまだ分からない事もたくさんあるんだ。イヴ様もな、その、ひとつなんだよ。……ジャック、お前には難しいかな」


皺だらけの顔をもっと皺だらけにして、笑った。


少年はもちろん満足していなかった。

けれど、なんとなく分かった。


ただ、特別なだけ、なのだと。





 ポケットから出てきた数々の品を見て、上等な上着を着たカエルと、あかむらさきのワンピースの少女は、少し困っていました。


二人には出てきた品に見覚えはなく、それが何を意味するのかも、全くわかりませんでした。


「カエルさんのコインと、わたしのコイン。形や大きさがすこし、違うみたい」

先に口を開いたのは少女の方でした。

二つの硬貨を片手ずつに取り、両手を開けます。

掌にのった硬貨は確かに、すこし、違っているようでした。


「わぁ、本当だ。これは、どういうことだろう。僕が、考えるなら……」

上等な上着を着たカエルは黒い小さな目をきょろきょろさせながら考えます。

少女もそんなカエルをみて、一緒に考えはじめました。


「僕が考えるなら、これは、違う国のコインなんじゃ、ないかな」


案外と、早く、カエルは答えを出し、少女を見ました。


「どうして?」


まだ考えがまとまっていない少女は、上等な上着を着たカエルの、その考えに、素直に疑問を口にします。


上等な上着を着たカエルはまた暫く考えてから答えました

「違う形をしている、から」


少女はもっともな答えだと、思い、大きく頷きました。


「とにかく、コインがあるってことは、僕が思うに、どこかへ行っても食事をしたり宿を取ったりできるってことじゃないかな」


上等な上着を着たカエルはそう少女に言い、ポケットに品々をしまい始めます。

少女も同意を表すように、大きく頷き、また上等な上着を着たカエルと同じようにポケットに出てきた品々をしまい始めました。


そうして、二人はようやくその場から立ちあがりました。

もう辺りはすっかり暗くなり、月はますますその光りを深めているのでした。


上等な上着を着たカエルと少女がどっちへ行こうか相談していると、そこへ遠くからカラカラと馬車の走る音が聞こえました。


「やあ、助かった。馬車の音だと、僕には、聞こえる」

上等な上着を着たカエルは、飛び上がって喜びます。

実際、口にはしないだけで、随分と疲れているのでした。


少女もそれは同じだったようで、大きく頷いて、同意しました。


二人は少し先に見えた砂利道まで歩き、手を振って馬車を待ちました。






 白と黒の市松模様のその部屋で二人のよく似たピエロが立っていた。片方のピエロが腹部を押さえてがくりと膝を着き、もう片方のピエロが口元を歪めて嬉しそうに笑う。


「こんな事して、良いと思ってるんだね?」


息を切らし肩を大きく上下させながら膝を着いたピエロが呟く。


「もちろんだよ。僕だけがいれば良いんだから」


笑いながらもう片方のピエロが血糊がべったりと付いたナイフを放った。


「今に後悔する事になるよ……」


悔しそうに言いながら腹部を押さえたピエロの体から力が抜ける。どさり、と床に倒れた後、そこには何も無かったかのようにその体が消えた。






カラコロと、砂利道を馬車はゆっくり走ります。

御者は白髪の老人でした。

白髪の老人はすこし綻びた茶色の上着を着ていました。

その顔は皺が多く目はもう見ていないかのようでした。


上等な上着を着たカエルと少女は老人に抱え上げられてその馬車に乗りこみました。

幌がかかったその馬車の中にはたくさんの木箱や果物が載せられています。

上等な上着を着たカエルと少女は「POTATO」と大きく白い文字で書かれた木箱を背もたれにして座りました。

上等な上着を着たカエルは、少女が座るときにはさりげなく手を貸したのでした。


老人は何も言わずに近くの街へと馬車を走らせます。

馬は茶色い馬でした。

とても優しそうな目をしています。


少女と上等な上着を着たカエルは馬車から見える景色をずっと眺めていました。


ぐぅと、どちらのともつかない音でお腹が鳴りました。

少女と上等な上着を着たカエルは顔を見合わせて笑いました。

上等な上着を着たカエルはポケットをまたひっくり返して中身を出します。

ふたつ転がった飴玉を指差して、少女に言いました。


「君は、どっちがいい?」


少女はじっと飴玉を見たまま、首を傾げました。


「もしかして、くれるの?」


上等な上着を着たカエルは目をまぁるくして、驚きます。


「そうさ。だから、どっちがいいって、聞いたんだ」


少女は嬉しそうに笑って、ありがとうと言い、桃色の方の飴玉を取りました。


「ぼくも思うに、そっちの方が、美味しそうだと思ったよ」

上等な上着を着たカエルは目を細めて笑って、残った緑色の飴玉を取ったのでした。

そんな二人のやりとりを聞いていた白髪の老人は、後ろを振り向かずにしわがれた声で話しかけました。


「お嬢さん達は一体どこから来たんだい?」


少女と上等な上着を着たカエルは、馬車の走る音で少々聞こえにくくはありましたが、その問いを二人そろって老人の方を見て聞きました。

二人の顔は飴玉の分だけ片方の頬が出っ張っているのでした。


「わからないの」


少しだけの沈黙をやぶって答えたのは少女でした。

上等な上着を着たカエルに目配せをしてから、答えたのでした。


上等な上着を着たカエルは頷きました。


白髪の老人はしばらく黙ったあと、


「そうか……」


と、呟きました。


少女は「何も覚えていないの」と、続けたほうがいいのかと思いましたが、老人が何も聞かないのでそこで話を止めました。


馬車からはだんだんと建物に宿る温かい光がちらほらと見えてきました。

二人は少し背伸びをするように上体を起こして、それを眺めていました。





 耳の尖った少年はもうすっかり大きくなっていた。

彼が慕っていた祖父はすこし前に大気になっていた。


彼の自宅から少し離れた浜辺で、彼は側の茂みの中から小さな舟を出していた。

側には古い物と分かる鞄が置いてあり、それはパンパンに膨れ上がっていた。


彼はとても焦っていて、舟を海へと運んだ。

オールを掴み、足をかけた時、茂みのずっと向こうから母親の声が響いた。


「ジャーーーーック!!どこなの!!」


彼はその声から逃げるように、舟に乗りこみオールで漕ぎ始める。

波の助けも借りて随分と進んだ時に母親はようやく浜辺に辿りついた。

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