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仮想世界の彼方  作者: 栗戸
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01話:地下世界の彼方

ジャンル選択=ネタバレ

とか言う恐ろしい罠に気が付いて、一応それらしいジャンルに編集しなおしました。

文体の問題で、『縦書きPDF』の利用を推奨しています。

 風夢ふうむとおるとしては、自分の目の前にいる、拘束された少女が一切の抵抗を示さない事が少し不気味に感じられた。少女は目隠しをしていたので、視線を感じることもなかったが、なんとなく気まずかったので徹は窓の外を見た。まだ4月の中旬ということもあって、桜が美しく咲いているのが見えた。ただ、ある程度、散ってしまっていたようだが。こうして見ると、ここは本当に地下世界なのかと疑いたくなる。


 徹は、窓から視線を戻し、改めて状況を整理する。


 現在、討伐部の部室には、三人の人間がいる。


 一人は、徹の目の前で拘束されている少女。目隠しがされていて、その容姿の全貌を見ることは出来ないが、美しく一つにまとめられた長髪、白くきめ細かい肌、スラリとした輪郭からそこそこの美人であると徹は予想している。制服姿のままここに拘束されているということは、やはり学校の敷地内で攫われたのだろう。徹はまだ、この少女についてよく知らない。


 二人目は、少女を誘拐してきた少女。名前は亜夢叶あむと梨絵。この少女について、徹はよく知っている。容姿だけで言えば、徹の趣味に合わせている茶縁眼鏡がよく似合う事。一見しておとなしそうな表情でいるということが言えるだろう。ただ、それは良い意味でも、悪い意味でも間違った印象といえる。これは徹がこの少女と十年近く、同じ屋根の下で過ごした結果に得た結論だ。


 そして、三人目は風夢徹と言う少年だ。と、言っても彼について語るべきことは少ない。身長は175センチと比較的高い。しかし、体重は55キロ程度である。つまり、痩せ型だ。好きなタイプは、眼鏡を掛けている女子だ。学力は極めて平凡で、取り柄は特に無い。敢えて言えば、不死身であることか。


「それで、亜夢叶先輩。これはどういうつもりですか?」徹が拘束された少女から、梨絵に視線を移しながら言う。ただ、徹はある程度の事情は把握している。これはあくまでも、確認の工程だ。


「今日、我が討伐部にお越しいただいたのは、新入部員になる須田朱音さんよ」梨絵はそう言うと、眼鏡を右手薬指で持ち上げ、左手でショートヘアをかき上げた。


「なるほど。新入部員が見つかったのですね。良かった。僕の代で部が終わってしまうんじゃないかと不安でしたしね」


 ただ、と徹は声色を少し重くして付け加えた。


「こういう過激な招待はやめて欲しかったです。先輩は後すこしで引退ですけど、僕はその後、この人と二人きりで部活動を回すんですよ」


「ええ。ただ……私が徹の為に一刻も早い報告をしたかった気持ちも理解してほしいわ。じゃなかったら、私だってきちんと手続きを踏むわ」


 徹は返事をせずに、立ち上がった。「ええ、そうね。悪かったとは思うわ」と梨絵は慌てて付け加えたが、徹はそれも無視して須田朱音と呼ばれた少女に近づく。


「ウチの部長が失礼しました。今、目隠しを外しますね」


 徹はそう言うと、須田朱音の手を拘束していた縄をハサミで切断し、目隠しを優しく外した。拘束が解かれた瞬間、朱音は驚いた様な表情をした。


「えっと……話を聞くに、ここはどこ?」小さな声で朱音が言った。


「話、聞こえていなかったわけじゃ無いんでしょ?」


 梨絵の億劫そうな声に、朱音は小さい声で「ええ」と答えた。


「ここは討伐部で、その部室だってのはおおよそ分かるんです。ええ、私は目隠しをされていましたけど、耳栓はされていませんでしたから……だけど――」


「討伐部が何か分からない?」徹が朱音の声を引き継いだ。


「えぇ……そうなんです。そんな部活、聞いたこと無いんです」


「聞いたこと無い?」梨絵の表情が強張った。何かの間違えで有って欲しいと思ったのだろう。徹もそう思った。無関係な人間にこの部の存在を知られるのは困るのだ。


「ええ、討伐部なんて部活、聞いたことありません」


 徹は梨絵を睨んだ。


「亜夢叶先輩。どういう事ですか?」


「え? いや、だって。その子、確かに奇跡プローディギウムを操れるはずなのよ。遠藤さんが言ってたんだから間違え無いわ」


奇跡プローディギウム?」朱音は梨絵の言葉を繰り返して、首をかしげた。それから少し考えるような素振りをして、


「確かに私、それっぽい超能力みたいなのは使えますけど」


 そう言うと、朱音は胸ポケットからペンを取り出して、机に直線を引いた。それから、手に持っているペンを、その直線を超えるように放り投げた。すると、本来なら直線の真上を超えて机の上に落ちるはずのペンは、見えない壁に衝突したかのように直線の真上で弾かれた。


「確かに、これは奇跡プローディギウムだわ。ならば、本来知っているべき情報を今、伝えるだけだわ。何の問題もない。そうよね? 徹」


「ええ。確かに僕もこの目で確認しましたし、問題無いと思いますよ」


 朱音はこの話についていけていないのか、「えっと……」と小さな声で言う。


「ええ、じゃあ、私から説明するわ。一般常識として、人類は化物から逃れて地下世界に逃げてきたと言われているわね。そして、その地下世界……つまりココだけど、それはほとんど地上と変わらない。四季もあれば、雨もあり、風もある」


「そして、化物だけが存在しない」徹が相槌を打つ。


「そう。地下の楽園は地上と変わらない環境ばかりか、化物の脅威からも開放された空間だというのが、一般常識。だけど、それは間違えなの。化物は常に、地下世界のどこかに出来てしまった抜け道から、侵入してきているわ」


「どうして、それは知らされていないんですか?」朱音が聞いた。徹は冷静な子だな、という印象を抱いた。普通、コレを聞かされた人間はそれなりに動揺するものだ。


「考えてみてちょうだい。完璧な楽園だと考えている人々に、未だに地下都市に侵入する化物の存在が知れる未来を。恐らく、ものすごい混乱が発生するわ。だから隠されているの」


「でも、おかしいです。もし、化物が侵入しているならば、どうして私たちはそれを見る機会がないんですか?」


「第一に、化物は南部の森から侵入してる。だから市街地からは離れていて、一般人がその存在に気が付きにくいようになっているの。

 第二に、私達、討伐部を始めとした対化物組織の活躍があるわ。私たちは南部の森に侵入した化物が、森の外に出る前に駆除する仕事をしているわ」


「それに、私の持つ能力が関係しているんですか?」


「そうよ。討伐に携わるのは、私達、奇跡プローディギウムを操る人たちなのよ」


「一応、事情は分かりました……いや、だからといってなんで私がこんな目にあってるとか、そう言うのは分からないんですけど。とりあえず、あなた達の立場は分かりました」


「物分りが良くて助かるわ。なら、入部してくれるかしら?」梨絵はそう言うと、出窓に置かれた如雨露じょうろを手にとって、部室に設置されている水道へと歩く。


「それはちょっと……」朱音が、梨絵の後ろ姿に言う。「私、化物とか怖いですし、危なそうですし、おっかないですし。それに誘拐みたいなことされて……とても、入部したいとは思えないんです。そりゃあ、そうだと思いませんか?」


 朱音は力を込めてそう言った後、「この学校生活は私にとってすごく意味の有ることでもあるんだから」と付け足したと言うには、小さすぎる声で呟いた。


「まぁ、そりゃあ、そうだよね」徹は、朱音の呟きには気づかない振りをした。


 それからしばらく、誰も口を開かなかった。朱音は退屈そうな表情をしていたが、帰りたいと素直に言う勇気がないのだろう。徹が梨絵の方を見れば、梨絵は出窓に置かれた鉢植えに水をやっていた。真っ白な花だ。確か、ブバルディアという名前だったはずだ。


 徹はこれからどうすればいのか、と考えを巡らせていたが良い案は一つも出てこなかった。本来なら、朱音に対して入部を勧めるべきなのだろう。しかし、気の乗らない朱音の気持ちもわかる。


 朱音さん、と呼びかけたのは梨絵だった。


「朱音さんの気持ちもわかるけど、どうしても入部してくれなきゃ困るのよ。部員は今、二人だけだし、少なくとも今年はこれ以上増えることはないの……奇跡プローディギウムを操れる人は少ないのよ」


 でも、と朱音は小声で抗議を試みた。しかし、梨絵が話を続ける。


「それに、これは意味ある活動なのよ。ええ、地下都市の安定に不可欠な仕事ですもの」


亜夢叶あむと先輩。そういう強引なのはダメですよ。今日の所は一回帰ってもらって、話は明日に持ち越しでいいじゃないですか」


 梨絵は如雨露じょうろを少し乱暴に出窓に片付けると、そのまま徹の隣りに座った。それからしばらく考えこむような様子を見せて、


「仕方ないわ。あんまりこういうことは言いたくないのだけど、中山さんって知ってるわよね?」


 徹の知らない名前だった。ただ、聞かれているのは朱音だったので「誰ですか?」と聞くような真似はしなかった。朱音はうんともすんとも言わずに俯いた。


「中山千紘さん。私はよく知らないんだけど、その人から頼まれたのよ。あなたを討伐部に入れる様にって」


 どうして、と朱音は言った。何やら動揺しているようだった。


「どうして中山さんを知っているんですか? 中山さんは――」


 梨絵が朱音の言葉を遮った。


「どうしてって言われてもね。私の育ての親曰く、大学時代の友人らしくてね。その繋がりで、入れてやってくれって。遠藤さん経由で頼まれたのよ。だから、私は直接的に、その中山千紘と言う男を知っているわけではないのよ」


 そう、ですか。と朱音は小さな声で言った。それから、右手拳を握って、


「分かりました。入部します」と、入部を宣言した。


「ありがとう。納得してくれて、助かるわ。それで、部活動についての説明なんだけど」梨絵は隣りに座る徹の方に顔を向けた。「徹からお願いできるかしら?」


「まあ、構いませんけど……。朱音さんはどこまで、この界隈かいわいについて知っているんでしたっけ」


「この地下都市に化物が侵入し続けていて、討伐部がその駆除にあたっていると言うところまでは聞きました」


「あぁ、そうだった。侵入した化物は、全て南部の森に現れる。だから、僕らは定期的に南部の森に遠征に行くんだ。それで、倒した化物の目を回収して帰還する。そして、鑑定士に依頼して、倒した化物の特徴を割り出して報酬が確定するんだ。ちなみに報酬は税金から出ている。地下都市のお偉いさんも、この事について知っているし、相応の予算を出してくれているんだ」


「えっと……化物はどうやって倒すんですか?」朱音が不安そうに言う。実際不安なのだろう。


 徹が答えようとしたが、朱音が先に解説する。


「何って、奇跡プローディギウムに決まってるじゃない。別に火器で倒すことだって出来るわ。だけど、それじゃあ、一般市民に知られるリスクが有るでしょう? だから、私達の出番なのよ」


「じゃあ、普段の活動……ええと、南部の森に行かない日はどうしているんですか?」


「そういう日は、部活はナシよ。と、言うか遠征自体が週に一回程度だから、大抵はオフだわ。まぁ、私と徹は同じ家で暮らしているから、話し合う事があっても家で過ごしてしまうのよ。そういうのも含めると、週に三日程度かしら……どうしたの?」


 朱音の表情が少し強張った事に気がついたのか、梨絵が聞いた。


「いや……お二人は同じ家で暮らしているのですか」


 そうよ、と梨絵は少し胸を張ったように言う。


「育ての親が同じなのよ。だから育った家も同じ。もっとも、私がその家で暮らし始めたのは七歳の時からだったけど」


 朱音は「そうなんですか」という風に口を動かした。梨絵はそれを気にすること無く、


「まぁ、おおよその活動についてはこんなもんかしら。ちょうど明日が遠征の日なのよ。あなたも来るのが良いわ」


 梨絵は話が一段落着くと、壁にかけられた時計を見た。つられて徹も時計を見ると、五時半だった。


「まだ少し早いけど、今日は解散でいいかしら。あぁ、そういえば、朱音さん」梨絵は鞄の中からクリアファイルを取り出して、朱音に渡した。「この中に入部届とかが入っているから、書くべきことを書いて明日渡して」


「了解です」朱音がクリアファイルを受け取った。


「それじゃあ、帰りましょ。朱音さんは家、どっち方向?」


 駅の方ですね、と朱音が答えると、梨絵は残念そうな表情をした。


 それから、校門まで三人で歩き、そこで朱音と別れた。徹と梨絵はすこしばかり薄暗くなり始めた通学路を並んであるいている。大した話題があるでもなく、二人はただ黙々と家に進んでいた。


 そういえば、と梨絵が切り出した。


「朱音さん、どう思う?」


「どう思うって?」徹は反射的にそう聞き返した。


「部員がひとり増えるわけでしょう? それについて徹はどう思うのかなって」


 ああ、と徹は頷いた。


「いいことだと思うよ。僕ひとりじゃ、ろくに遠征もいけないからね」


 梨絵は神妙な面持ちで何かしばらく考え始めた。


「徹は私達が出会った時のことを覚えてる?」


 忘れるはずが無いじゃないか、徹はそう答えた。

 感想、ブックマーク等よろしくお願いします。

 次話『追憶の彼方』は十月二日午後十時に投稿される予定です。

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