エピローグ:光の王子と怒れる妖精3
だいぶあいちゃってすみません。
僕とサイードが学園の廊下に戻ると、そこにはリードが僕らを待っていた。
リードは僕らが現れると慌てて物陰から駆け寄って来た。
それを見てサイードは小さく笑う。
「忠犬殿がお出迎えだな。俺は先に寮に戻るぞ」
「ええ。また後で」
サイードの背中を見送り、入れ違いにリードが僕の横へやって来る。見れば彼があまりに心配そうに眉根を寄せているので、僕は安心させるためいつも通り柔らかく笑ってみせた。
「リード、なんて顔しているゆだ。彼は僕らを取って食ったりしないよ」
「は、はい!ーーいや、しかし・・アレならありうるような・・・美形大好き変態野郎だし・・ふ、2人とも変なプレイを強要されたんじゃ」
リードは僕の言葉に反射的に頷いて見せたが、またすぐに顔色を悪くして何やら小さく呟いている。リードが何の心配をしているかはなんとなく察するが、詳細は聞きたくはないので受け流す。それにしてもセルバートの言う通りリードは彼に過剰なくらいの苦手意識を持っている様だ。良識的なリードからして理解の範疇を超えるセルバートはどう対処していいのか分からない怪物なのだろうとは思うが。
「まぁ、彼があんまり人間離れしていたから呪われるんじゃないかと思ったけれど」
「や、やはり!!」
頭を抱え大げさに叫ぶリードに僕は少し頭が痛くなった気がした。どリードは彼が苦手なのだろうが、これはもうトラウトと言ってもいい程度ではないだろうか。僕はリードの肩をたたいて正気に戻す。
「冗談だよリード。彼もそんな軽々しく呪わないさ・・・・・それに、僕にはリードがついているだろ」
リードは僕の言葉にばっと顔を上げ、驚いたように目を見開く。何か言おうとしたようだが、小さく空いた口は何も発しないまま閉じられる。
そんなに驚く事を言っただろうか。いつも真面目でしかめっ面のリードがこんなにも表情豊かに反応するのは物珍しい。しかし、セルバートの言葉が少しだけ肩に重くのしかかる気がする。リードはそんなにも彼に劣等感を感じているのだろうか。それは僕の
「ガイには悪いけど、僕の従者の方がずっと優秀だからね」
リードはまた口をパクパクと開閉させたが何の言葉も出ない。代わりに彼の雪のように白い肌がどんどんと面白いくらい赤くなっていく。リードはやがて口を真一文字に結んでから、大きく息を吐く。そして、僕の前に跪くと僕の片手をさらい唇を落す。
「ありがたき幸せ。私の全てでこれからも貴方様を御守り致します」
僕を見上げるリードの表情は決意に満ちていて、それに僕は満足そうに頷く。
セルバートの言葉の真意をなんとなく僕は分かっていると思う。
リードは地位に溺れず、他者を見下さず正しく見る目を持っている。だからリードは慎重で、堅実な優秀な従者だと言える。
ーーーけれど、『王の従者』が死に損ないの妖精などに負けてばかりでは困るんだ。
学園では未来の臣下達の選定をし、彼らとそれなりの友好関係を築けた。今までは友人としての馴れ合い・・・それが大人の駆け引きへと変わる。僕は王位に就いた時の為、彼らを育てなければ。
悪魔のような妖精達に僕は好き勝手はさせない。
リードと僕は生徒院室に移動すると、リードを部屋の中に待たせて僕はベランダに出た。
「シェザン!」
風にあたっていたリディアが振り返る。
僕は彼女の隣に立ち、闇に浮ぶ学園の校舎を見下ろす。
「怒られてきたよ。君の侍女になる事も伝えた」
「うぅ、あの話本気だったんだ」
リディアが吐きそうな表情をして天を仰ぐ。
「ガイが君の騎士になる条件だからね。それに年若い従者としてはあれほど使える者も居ない」
「その!出来過ぎのところが怖いのよ。この前、祭典の作法について軽い気持ちで聞いたら完璧にこなせるまで拘束されて酷い目にあったわ。だいたいあの人はガイの教育係でしょ。もー!上級貴族しか出ないような祭典の女性側の作法をなんで知ってるのよー!」
「まぁ、おかげで無事やり通せたじゃないか。リディアは地方で育ったから作法も社交界にも疎いし、心強いだろ?」
「うっ、そ、それはそうだけども」
「ふふ、当の本人は『リディアは飲み込みが早いし、筋がいい。本当にガイのお嫁さんになってくれたら良かったのに』とべた褒めしていたそうだよ」
「そ、そう?セルバートがわざわざシェザンに言ったんだ」
「いや、ガイが聞いたらしいよ」
「・・・それ後でセルバート、ガイにお仕置きされたんじゃないの。本当は馬鹿なのかしらあの人」
リディアは荒げていた声を落とし、呆れ気味にひとりごちる。
リディアはセルバートを助けたあの夜かちょくちょく彼の様子を診に行っていた。以前は社交的な彼女にしては珍しくセルバートに対し警戒した様子があったが、今では彼に会う日を楽しみにするほど仲良くなっていた。黒すぐりの会を訪ねてはサイードの魔族の侍女を交えてお茶会をするそうだ。側から見れば随分と毛色の違う3人組だけれど、話は随分と盛り上がるらしい。
ーーーけれど、生まれも育ちも立場も違うのにどこか彼女達から同じ違和感を感じる。
セルバートはクーデターが起こる事を予期したかのように黒すぐりの会を立ち上げた。
カグヤはセルバートに心酔し絶対の信頼を置いていた、けれどセルバートの危険を誰よりも早く察知していた。
リディアは辺境で育ち、戦争も兵士も血生臭いものなど何もない環境で育った。にも関わらず、淑女なら失神しかねない瀕死のセルバートに自ら近づき治療を行った。
彼女達の資質に寄るところがあるとしても、あまりにもうまく出来すぎではないだろうか。まるで何が起こるか予期していたように感じるのは勘ぐり過ぎか。そして彼女達3人はその内容を同じく共有していたとしたら?彼女達は何者なのか?この先の政権者達と関わりがあるのも何か目的があるのか?この先の未来も知っているのかーー
ふと肩に暖かな温もりを感じれば、リディアが頭を僕の肩に傾けている。耳の下で小さな欠伸が聞こえる。
「大丈夫よ」
リディアは眠そうな声でそう呟く。
「何のこと?」
「ふぁ・・シェザンまたなんかぐるぐる考えてるでしょ」
「そうだね。セルバートには国政を引っ掻き回されるし、カグヤが本気をだしたら国が消えるかもしれない。そして隣の聖女様はどうも危機感がなくて心配だしね」
僕は冗談めかして軽い口調でそう言ったけれど、リディアは眠気まなこながらも考えこむように小さく唸っる。そしてリディアはうん、と頷くと僕を仰ぎ見て微笑む。
「大丈夫よ。皆んな自分の好きな人が大切だから」
リディアの澄んだ声がストンと体の中に落ちた。そして頭の中がすっきりして、なんの不安も無いように思えてくる。どうしてか、彼女の言葉は何を明確に示したわけでも無いのに。
リディアは続ける。
「シェザンとサイードとガイは友達でしょ。貴方達はなんか難しい理由で友情とか捨てようとするかもしれないけどさ、それって絶対悲しむでしょ。嫌よそんなの。だから私達そんな事きっと止めちゃうんだから」
「・・・僕らには国の中の役割があるのに?」
「国家とかそんなん一乙女は知らないもん」
「僕のお嫁さんは国を蔑ろにされては困るのだけれど」
「上手くやるわ。知ってるでしょ?」
リディアはどこか楽しげに僕を見つめる。空に輝く星の光が彼女の瞳に映って綺麗で、僕は自然とため息をついていた。
彼女達のやっかいなところは阿呆なのに馬鹿で無いところ。
今は有り難い事に彼らは全て僕の腕の中にある駒だ。
ーーー彼らを囲い、殺すも守も僕次第。
「ところでリディアは僕のどこが好きなんだい?」
「え、え!それはもちろん声よ!ちょっと甘くて優しい声で。でもほら腹の黒さがちょっと滲むときとかドキドキしちゃうの。もうどストライク突き抜けちゃうっていうか!真面目な時の冷たげな声もたまらないし〜!あ、なんか黒さ全開の時の柔らかいのに怖い声もしびれるわーーーッ!もPV見た時から一途だったって言うか、も、ちょ、世代越えて声萌えって私やばいかもーやん、だって好きなんだもん!」
ーーーーーやっぱり同類。




