育てた攻略対象が可愛すぎる5
池で溺れたガイ様ですがお屋敷に戻る頃には疲れて寝てしまいました。私もびしょ濡れでしたので後のことはメイドにお願いしました。すぐに医者が呼ばれましたが、大事なく今はお休みになっているそうです。
一晩明け、私ですが真昼間からベッドの住人でございます。お腹が昨日より珍妙な音を立てているのです。実は私、微妙に病弱?なようで季節の変わり目は必ず風邪をひいてしまうタイプです。そしてお腹も弱いようで、池の水が当たったのでしょうか消化器官がストライキ中です。ついでに寒気もしますし暖かい布団の中で寝る以外何もしたくありません。母上も分かって下さっているのでしょう。日の光で眠りづらくならないように私の顔に黒いレースハンカチをかけて下さっています。母上の香りがして安心します。しかし、おかげで息をするたび口のあたりのハンカチがスコースコーと凹んだり浮いたりを繰り返しております。たまに様子を見に来る兄上はその度大爆笑です。ええ、家族の愛を感じますよね。これ知らない人が見たら死体と間違えられないでしょうか。
そんな事を考えてうとうととしていた時でした。乱暴に扉が開けられ誰かが入って来たようです。しかし、その方はベッドに近寄らず立ち止まっています。何となくその方が戸惑っている様な気配を感じます。
「セ、セル!!!」
絶望した様な悲痛な天使の声が聞こえました。ガイ様でしたね。しかもばっちり勘違いしてらっしゃるようです。なんて純粋な方なのでしょう。うちの家族と大違いです。
感動しているととぼとぼと力なくガイ様が近づいて来ました。ぱさりとハンカチが取られます。薄っすら目を開けますとガイ様のお顔は涙と鼻水でぐずぐずでございました。
「セルぅ」
切なそうなお声に私、とどめを刺されております。どうしましょう可愛すぎますですよ。というかガイ様、私が起きてるの気づいてませんね。
ふと暗くなったなと思いましたら唇に柔らかな感触が致しました。え、え、これはもしや。
「セル・・・起ぎろよ。ちゅーじたらお姫ざま起きるって、言っだろ!」
ピュアハートクリティカルヒットでございます!!永眠、今なら永遠の眠りについても良い気がします。ガイ様、私は姫ではなく従者と分かってますよね。そのくだりはお休み前の物語だけで通用するって分かってますよね。藁にもすがる思いでちゅーしたんですよね。はぁうわどうしましょう脳内が大混乱し過ぎて体が動きません。
そわなこんな私が微動だにしないうちにガイ様はのお顔はぐちゃぐちゃにランクアップしています。
私としたことが!早く誤解を解かなければあまりに可哀想です。しかし、起きていたとなると些か不都合ですので糸目必殺今起きましたけど?を使いましょう。
「・・ん。ガイ様?」
私はいつもにないくらい瞳が見えるほど目を見開きガイ様に驚いた風を装います。
ガイ様は息を飲み、ガバリと抱きついて来られました。く、首にはいっておりますよガイ様。
「セルぅぅう!!」
私はガイ様に愛されておりますね。この喜び様、従者冥利につきるというものです。死んだふりして誠に申し訳ございませんでした。
しばらくして落ち着いたガイ様に寝てれば治るので心配は要らないとお話ししました。しかし、ご自分は一晩寝て元気になられたのに私が寝込んでいたので安心出来ないご様子です。ここは茶化して誤魔化しましょう。
「ガイ様がちゅーして下さったら早く治りますよ」
「なっ⁉︎セ、セルのバカ!子供じゃないしそんなこと出来るか」
ガイ様は真っ赤になって怒り出しました。いやこれは照れてらっしゃるんですね。さっきはして下さったのに。起きている相手では気恥ずかしいのでしょう。
ガイ様ともっとお話しをしたかったのですが流石に疲れて寝たくなりました。早く治してガイ様と居たいですし、ここは涙を飲んで退席を促します。
「セル・・ごめんな俺のせいで」
ガイ様は悲しそうにうつむいてしまいました。ちゃんと自分の行動を振り返る事ができる子に育って私は嬉しいです。ガイ様は無鉄砲な所はありますが、失敗するとちゃんと考えて復習できる子なのです。
しばらくうつむいた頭を撫でていましたら、ぱさりと振り払われました。そのまま腕を取られ引き寄せられます。啄むように何が私の唇に触れました。
「絶対、治せよっ!」
ガイ様は頬を真っ赤にして怒ったように私を睨み、だっと部屋から駆け出して行きました。
もう私のライフはゼロでございます。お腹が珍妙な音をさせていますがそんな事どうだっていいんです。もう寒気も感じませんし、むしろ暑いくらいです。寝ましょう、そして明日はガイ様と一緒に過ごすのです。ああ、でも寝るのは今の出来事を10回ほど反復してからにしましょうか。