逆襲編:怒れる獅子と眠りの君3
怒れる獅子と眠りの君
俺は問いかけたシェザンに逆に問いかける。
「お前の方こそいいのか?」
「そうだね。・・・王子の僕の一任では総てを保証は出来ないけれど、協力者とその主の命は保証しよう。あとは個々人、働きによって交渉しようか。それでどうかな?」
シェザンの言葉にイリーナが頷く。
「承知致しました」
彼女達からの取り引きとはいえ、失うものは大きい。従者とはいえ、貴族や名家では素性の知れない者を大切な子息や令嬢には付けない。ここに居る従者の多くが代々その家に仕える家系の者だろう。彼らは産まれた時から何より家を守る事を教えられたはずだ。それに背く覚悟を決めたというのか。けれど、この場に悲壮感は無い。顔も見えないが誰もが何かしらの気迫に満ちている。そして、どこか怒りの様なものも感じられる。俺達への敵意は無いため、セルバートの身に起きた事に対してなのだろう。お前達もあいつの仇が取りたいのか。
俺はシェザンに声をかける。
「シェザン。俺は風紀院をこれから学園内の警備に就かせて来る。他の生徒、教諭は自室待機。学園外からの接触は王宮のもの以外は禁止。でいいか?」
「ああ。頼んだよ、ガイ。でも話はまだ途中だ。ここで出て行ってもいいのかい?」
「俺が結局出来るのはそのくらいだ。詳しい話はお前達が詰めといてくれ」
あまりに急な出来事だった。黒すぐりの会メンバーともほぼ初見なため、彼らと共闘出来るのかさえ半信半疑ではある。話す事は多い。けれど、そこに俺が必要かと言えばそうではない。それよりも俺に出来ることを、いやしなければならない事がある。
「おい。鈴蘭女。勝てる見込みはあるのか?」
イリーナは嫌そうに眉をひそめた後、隣のカグヤと目配せをする。そして片手を上げる。
「ウチの旦那様が首謀です」
カグヤが気まずそうに小さく手を上げる。
「・・ウチの王子が最大支援者」
イリーナが投げやりに鼻で笑う。
「ボス陣営の情報は吐いて捨てる程ありましてよ。その他にもお膳立てがあり過ぎて胸糞悪いほどですの。これで勝てないなど私達も従者が廃るというもの。貴方様方こそ足を引っ張らないでくださいませね」
イリーナの言葉に俺は頷く。
「それならいい。セルバートに無様な様を見せないことだ・・・あいつを頼むぞ」
イリーナが軽く会釈し、カグヤが何度も頷く。2人の背後に居る面々も頷いたのかさざ波の様に黒が揺れる。彼らが何者かはまだはっきりとしない。けれど、俺にはセルバートへの思いは伝わってきた。なら信じよう。セルバートを信じる彼らを。
セルバート。卒業パーティーの出し物にお前が演武を勧めたのも。今日ニコルが演武で使う武器を持ってきたのも。その武器が華美ながらも実戦に足るものであったのも。カグヤを俺達のもとへ遣わせたのも。イリーナが俺達を迎え入れたのも。全てがお前の采配なら俺は従う。お前は出来ると思うから彼らに俺達を託したのだろ。お前が信じてくれるなら俺は自分の成すべきことをするまでだ。
サロン室を出るとそこは石造りの回廊。
夜気の涼しさが息をすると体の中へと落ちていく。静かに。冷たく。そして黒い何かが腹に溜まる様に感じられる。
ふと、背後に気配を感じ振り返りながら剣を抜くとがつんと金属のかみ合う音が響く。
「ちょ!ガイの旦那あぶねぇって」
「・・・アントニオか」
俺と剣をかち合わせたのはアマンダの従者アントニオだ。
アントニオはそろそろと剣を鞘にしまい、敵意がないことを示すよう両手を広げる。
「もー置いてかれると思ったぜ。さっき俺がアマンダのお嬢に話はしたよ。お嬢は風紀院の招集しとくからサロン室に直接来いって。あ、俺が転移の魔法陣で送ってくから」
「そうか。・・・助かる」
「はいよ」
俺は鞘を仕舞う。
アントニオは俺達の足元に魔法陣を展開させた。
俺はその魔法陣に乗るよう静かに自らの魔力をのせる。
アントニオは俺と顔を合わせ、不思議そうに笑う。
「あんた、俺達のこと聞かないのな。あんな黒ずくめのやべえ集まりだと思ったろ」
「セルバートの選んだ者ならいい」
「ははっ嘘つきだなぁー」
浅黒い肌と黒い髪、がさつな程に明るい笑顔と淡い青い瞳。主人と同じく朗らかなその面の裏はしたたかなのだろう。
けれど、そんな事はどうでもいい。俺の邪魔にならないならそれでいい。
アントニオが笑を深め俺から視線を外す。
「シェザン王子から伝言。『頭と口は動く様にしとけ』ってさ」
「・・なんだそれは」
「捕虜の取り扱い。・・・あんた会長の仇にって生徒殺さないでくれよな」
「・・・善処する」
俺に出来る事。ーーーお前の為に出来る事。セルバートがもう傷つかない様に。世界がお前を傷つけないために。俺はお前を傷つける者を殲滅する。
次回魔王降臨。




