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主人(あるじ)が可愛すぎるので仕方ありません  作者: 桃色みつる


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逆襲編:最終兵器と眠りの君3

私はサイード兄の胸に顔をこすりつけ涙を拭くと、きっとサイード兄を睨みあげた。

サイード兄はいつも通りにやりと笑う。男らしい体躯と精悍な顔に色気のある彼が笑うとドキリとするくらい格好いい。・・こんな時にびくついてしまう自分の心臓に腹がたつ。

「どうした泣き虫カグヤ。今日は随分荒れてんな」

サイード兄は私の頭を撫でる。なんて事だ、奇襲をかけたのにびくともしないとは!逆に撫で撫で攻撃により私の怒気や焦りは少し弱まってしまった。まぁ頭が少し覚めた気がするからいいや。

ふぅと息を吐く。気合いを入れてばっと両手を広げる。さぁここからが勝負だ。私はサイード兄の後ろに周りこみ、その腰に抱きつく。脇からにょきっと顔を出せばリディアナと攻略対象達。知ってる顔ではあるが、まともに話した事があるのはリードくらいだ。皆、実力者で強いし頭がいいし・・・なんかやっぱ怖い。

知らず腕に力が入っていたのかサイード兄が片手で私を下から支え、もう片手で優しく私の腕を撫でてくれる。そうだ、今の私にはサイード兄という最大の防御壁があるのだ。心を落ち着かせようとふーふーと深呼吸していたらサイード兄が笑う。

「威嚇してる猫みたいだな」

失礼な!改めて目の前の彼らの魔力からは困惑と警戒心が伝わってくる。そしてガイからは強い嫉妬と敵意が。・・・うん、通常通りだ。私がいつもセルバートと仲良くランチをしているのが気に入らないんだ。いつもだったらセルバートだけを見て無視出来るけど、今は真っ向から向き合っている。無理、怖い!怖いもん!だからセルバートの主人は嫌い。そして彼にこそ用がある事を今更ながらう恨めしく思う。ああもう、セルバートの馬鹿!勢いづけて私は声を出そうと・・

「あ、あの。た、たす・たすけっ・・」

・・私が絞り出せたのは小さな声だった。力なくて掠れてて、すごく格好悪い。だって怖い。人間怖い。私に集まる視線が怖い。私はこんな時まで役立たずなのか。情けなくて視界が潤む。そして目の前が真っ暗になった。瞼に暖かい何かが触れている。大きなちょっと硬くて暖かい手だ。

「カグヤ・・無理するな。怖いなら俺に逃げればいい。お前には俺が居るだろ」

ひっく。私の喉が鳴った。やめてもいの?逃げてもいいの?ああ、サイード兄はいつだって私に優しくて・・・意地悪だ。

「っ・・いやだ」

離れる手のひら。明るくなる視界をもう一度睨みつけた。やめられるわけないの。逃げたくなんかないの。だって私は彼を助けたいんだもん。そして私は1人じゃないもの。私は片耳につけた耳飾りを握る。

「お、お願いっ!セルバート様が!・・・セルバート様が大変なの助けて下さいっ」

私は叫ぶ。怖いのなんか吹き飛ばせるように強く、怖気ずく前に言い切るために吐き出すように。

私の叫びにガイが最初に反応する。足早にガンガンと私に近づくとお腹に響く様なドスの聞いた声を出して問うてきた。

「どういう事だ」

こ、怖いよぉぉお!!セルバートの馬鹿!全然天使じゃないし、魔王だし!私はサイード兄の背中にしがみつきながらもガイを睨みつけるとセルバートから渡された封筒をガイに向けて突き出す。

「ん!こ、これセルバート様から」

「・・セルバートから?」

ガイはセルバートの名前を聞いてすぐさま私に駆け寄り封筒を受け取る。そして中の紙を取り出し読むと、はっとしたように目を見開いた。すぐさま胸元へ手を入れる。引き上げられた手にはチェーンに通された指輪があった。この主従は・・そんなに大事ならはめておけばいいのに。ガイはチェーンから指輪を外し、指にはめる。

私も身を乗り出してその指輪を見た。青い綺麗な石の入った指輪だ。そしてガイがはめてすぐに石は青から赤へと変わった。・・・うん?どうしてだろう?

「っクソ!あの馬鹿ッ」

ガイはそう吐き出すと指輪に手をかけ魔力を流す。すると指輪の石が輝き光が一方向へと集まる。その間にガイが口早に説明した。

「この指輪は対の指輪の持ち主の体調によって石の色が変わる。平常時は青、弱れば赤だ。光を追えばセルバートの持つ対の指輪があるはずだ」

そう言うや走り出そうとするガイをシェザン王子が止めた。

「っ!どういうつもりだ。離せっ」

「落ち着けガイ。方角が分かっても広い学園内を1人で無闇に向かって見つかるか分からない。ここに居る皆を使え」

ガイは舌打ちをして足を止めると私に鋭い視線を投げる。のせられた殺気にひくりと喉が鳴る。

「お前、なぜセルバートが危ないと知った?この手紙には指輪としか書かれていない。・・お前はあいつの居場所を知っているんじゃないか?」

「し、知らないよ!だから助けてって言ったでしょ」

「セルバートとは最後にどこで会った?」

「っ。じゅ呪術の授業で・・」

「なんと言っていた?」

「時間が来ても自分が来なかったらこれをガイ様に渡してって」

ガイは鋭かった目をさらにひそめ冷たく言い放つ。

「・・・その話からだとセルバートに危険が及ぶとは判断しかねるな。どうしてお前はセルバートが危ないと知っていた?」

「・・・それは」

私は物語(ストーリー)を知ってるから。またイリーナから事前に彼が狙われるような対象になっているとも聞いていた。でもどっちもガイには話せない。

「お前はセルバートが狙われていることを知っていたんじゃないか!」

言いよどむ私にガイは掴みかかるように迫る。

私は怖くて目をつぶる。でも恐れた衝撃は来なかった。目を開けると私の胸ぐらを掴もうとした手はサイード兄に止められていた。

「・・俺の女に手を出すな」

「っ!貴様ぁ!!」

サイード兄に殴りかかろうとしたガイをメイスとクリスが止める。それでも振り切って襲いかかって来そうなガイに私はサイード兄によりしがみついた。

サイード兄が私の頭を撫でてくれた。優しい顔なのに目には輝きが無い。いや、何の感情も感じられないような空虚な瞳。

どうしてそんな目をするの?

サイード兄はガイに振り向き、静かに言う。

「カグヤは何も知らない。お前の従者に刺客をけしかけたのは俺だ」

私は一瞬、サイード兄が何を言ったのか意味が分からなかった。いや分かりたくなんかない。いや、嫌だよ。どうしてそんな事言うの?

ガイは今度こそ止めに入っていた友人達を振り払い、サイード兄に殴りかかった。振りかぶった大きな拳がサイード兄の顔に打ち入れられ、歪む輪郭と勢に飛ばされるサイード兄。ガイはそのまま倒れたサイード兄に馬乗りになると胸ぐらを掴み上げ、詰問する。

「どういう事だ!貴様、セルバートを何処へやった!?」

ガイの必死な声に私も我にかえる。慌ててサイード兄の頭のそばにしゃがみこむ。

「・・・・・にぃ。どうして?」

サイード兄は血の混じった唾を吐くと、皮肉気に笑う。

「お前の従者は目障りなんだよ。俺のカグヤに手を出しやがって・・お前に気があるやつにも邪魔だったろ。だからお前に気のある女にいい方法を教えてやったのさ。後はどうなったか俺は知らねぇ・・ぐぅ!」

「貴様ぁ!」

サイード兄が言い終わるやガイがサイードの首を締める。ガイの周囲に漂う魔力に彼の心がのってる。怒りと憎しみと焦りと・・後悔。何を悔やんでいるの?

そして何の感情も移さないサイード兄の心も。

「違うっ!違うよ、やめて!!」

私はありったけの力でガイに体当たりをする。軽い私だけれど魔族の脚力でなんとかガイをサイード兄の上から退かせられた。そのまま私はサイード兄の上に覆いかぶさる。

馬鹿なにぃ。かわいそうな人を笑ってそれで貴方は強くなったつもりなの?上に立ったと思ったの?・・・それならどうしてそんなに貴方は悲しいの。

サイード兄を守らないといけないのにまた涙が出てくる。

起き上がったガイが仇でも見るような恐ろしい目で私を射抜く。

「お前はセルバートを助けたいんじゃなかったのか」

もう潮時か。いいや言っちゃおう。もういっぱいいっぱいで頭がどうにかなりそうだ。全部ばらしてどうにかしたい。

「っ!そうだよ。セルバート様を助けたい。あのね、セルバート様が狙われたのは実家に爵位がないから大事にはならないけど、学園内外に影響力があるから。彼が狙われたら皆注目する。近い王宮から護衛のため騎士団が派遣されるはず・・・その隙にクーデターを起こすのが反国王派の狙いなの!」

私の話に皆、大なり小なり息を呑む。それはそうだろう、まるで遠い国の戦語りの様だけど隣国の王子の従者である私の話だ。つまり隣国も一枚かんでいる。

今まで静かにしていたシェザン王子が前に出て私と同じ様にしゃがみ、サイード兄の顔を覗く。

「サイード。今の話は真実なのか?」

サイード兄はシェザン王子を見てまたいつも通りにやりと笑い、肩をすくめた。

「・・さぁな」

だけどサイード兄の声にはいつもの力強さがなかった。彼から伝わるのは諦めと無力、そして喪失感。

私が裏切ったから?

ガイが立ち上がりシェザン王子に告げる。

「そんな事はどうでもいい。こいつらがセルバートの居場所を知らないなら俺は行く!」

「はぁ、ガイはせっかちだな。まぁ、待て」

シェザン王子はガイを止めると、いつも優しげな顔を厳しくした。まずクリスに視線をやる。

「クリス。この指輪の術式から場所を特定できないか?」

「あ、ああ!出来るかも。ガイ、ちょっとその指輪貸してくれ」

ガイは指輪を外しクリスに渡す。

渡されたクリスは逆に驚いた様に固まった。

「どうした?早くしろ」

「あ、ああ。こんな大事ならものすぐに渡してくれると思わなくて」

「お前の事は信用してるからな」

「っ!ありがとう。待ってろ、すぐにセルバートを探し出すから」

やっぱりまだちょっと怖いけど、味方につけたら頼もしい人達。リードなんかは私の頭を撫でるとサイード兄を助け起こしてくれた。セルバート、待ってて!すぐに助けに行くからね。

前回から間があきすみません。

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