育てた攻略対象が可愛すぎる24
ご機嫌よう。私は只今信じられない状況になっております。真っ白な世界。白いテーブル、白い椅子。暖かいお茶と可愛らしいお菓子のもてなし。私は小さなお茶会にお呼ばれしています。私の前には1人の若い女性。
「まさか貴女にお会いできるなんて夢にも思いませんでしたよ。マリー・リリース様」
「まぁ、冷たいのね。あんなに私に会いに来てくれていたのに」
いえ、普通会えるなんて思わないでしょう?悩める乙女。もとい黒すぐりの会スポンサーことマリー・リリース様です。うーん、お会いしたのは石像でしたよね。サロンには彼女の肖像画もあるのでお顔はよく知っていました。でも肖像画よりずっと穏やかで優しそうな方です。肖像画を描かれた時は相当お仕事人間だった様ですからお顔も厳しくなったのでしょう。もう相当昔の人で亡くなられているはずですが。白い頬は血色もよく、波打つ栗毛は柔らかそうで、赤茶色の瞳は悪戯っ子の様に楽しげに輝いています。まるで本当に生きているみたいです。しかし、私も同じ様なものであんなに無惨な様子だったのに今は無傷でいつも通りの制服姿です。ここは死者の世界で、死んだから彼女に会えたのでしょうか。
「私の部屋はどうだったかしら?感想が聞きたかったの」
「それはもう!貴女の部屋は最高のサロンですよ。設備も素晴らしいですし・・マリー様の蔵書がとても重宝していますし」
「まあ、読んでくれたの」
マリー様のご職業は魔法の研究でした。なので部屋には彼女のいた当時のとても貴重な蔵書がそのまま残っています。とても興味深く、有用なものばかりでした。
「もちろんです。中でも貴女の術式効率化の論文は素晴らしい。お陰様でうちのサロンでは皆さん難しい転移の魔法も使えるようになったんです」
「そう。・・・というか見てたから知っているのだけど。もう皆んなびゅんびゅんとんでいくのだもの。私も目が回っちゃいそう。うふふ。でも、そう直接言われるととても嬉しいわ。昔は誰も私の論文をみてくれなかったから・・」
サロンの成り立ちには条件があります。学園に居室を構える人物である事、そして死んだ時にその魂が居ついてしまうくらい強い思念を残す事。そして居室の主人に気に入られるとサロンを開く事が出来るのです。
マリー様は当時は新進気鋭、稀代の天才と言っても過言ではない研究者でした。けれど周りに認められず、不遇の扱いのまま若くして亡くなられたのです。・・・マリー様が冷遇された理由。それは彼女の趣味にありました。まぁ、その、男性同士の愛がお好きでそれをとてもオープンにしていたのです。昔は今よりずっと男性社会で女性研究者は難しい立場でしたからね。男色というものはあったのですが、女性がその事に触れる事は嫌厭されていたので彼女は異端となってしまったのです。
「・・・時代がついてこれなかったんですよ。マリー様」
「うう。せめてセルバートくんやカグヤちゃんみたいにお話し出来る人が居たら良かったなぁ」
私とカグヤさんは転生組なので腐っていますが、ごく普通のこの世界の住人で同じような嗜好の方は極少ないと思われます。仲間が居た私達はとても幸運でした。
「自重って大変ですね」
「自重なんかしたくな〜い!セルバートくんぺろぺろ見たーい!ニコルくんにほんわか癒されたーい!!」
天才魔法使いであり、欲望に忠実なマリー様はこうして私達のスポンサーになったのです。
「もう、どうしてサロン直結で寝室も開放したのに誰もしけこまないの。なんでガイくんとセルバートくんはあそこでぺろぺろしないのよ⁉︎」
「それはちょっと、ガイ様部外者ですし」
「いいわよ。私が許可するから。見せなさいよ」
「いや。だからですよ」
サロン室はマリー様と同調しているのでどこで何をしても彼女は知る事ができます。マリー様のご要望ですが、さすがにサロンという公共の場で事に及ぶ様な破廉恥はうちには居ません。またどんな人となりが分からないマリー様に見られるなどよほどの性癖の持ち主でしょう。しかし、お会いして悪い方ではない様で安心しました。少々嗜好がアブノーマルですが。
マリー様は不服そうに鼻を鳴らし、頬杖をつきます。
その様子に小さく笑ってしまいました。稀代の天才でもそうしていると可愛らしい普通の女性ですね。
「何よ」
「ふふ。いえ、マリー様が思っていたより面白くて可愛らしい方だったので」
マリー様はぼんっと音が聞こえそうなくらい赤くなると、怒った様に眉根を寄せ怒鳴ります。ああ、慣れてないんですね。恥ずかしくて照れ隠しですか。マリー様もやはり乙女なのですね。
「もーお姉さんをからかわないで。私すっごく貴方に投資してるのよ」
「ええ。とても感謝しています」
「だから・・その」
「その?」
「っ・・・ガイくんとのこと色々教えてよ。学園に来る前の事とか」
もごもごとマリー様が恥ずかしそうに言われます。なるほど、マリー様はそれをご所望でしたか。
もちろん、私に拒む理由はありません。むしろ話し倒したいくらいです。そうです、死んだら時間なんて気にしなくていいんです。なんて至福の時!
「良いですよ。それより覚悟して下さい。私のガイ様の話は長いんですから!」
それからどれだけ時間が経ったでしょうか。現世ではガイ様との出会いについて話し終わる頃にはカグヤさんが眠りこけ、イリーナさんにヘッドロックをかけられる位の時間が経っていました。今はちょうどガイ様が池に落ちて私がベッドの住人になったところです。あの時のガイ様のなんて可愛らしいこと!また嬉しいことにマリー様は飽きもせず私の話を親身になって聞いてくれるのです。
「いやーん。ガイくんたらセルバートくんにキスして起こそうとかもう天使過ぎる」
「でしょう。もうあの時は昇天するかと思いました」
マリー様、最初は変な人だと思いましたがガイ様の良さが分かるなんて、なんて良い人でしょう。
「あーあ。2人が一緒にいるところ見たかった」
「サロン室にガイ様は入れなかったですからね」
「そうねぇ・・・」
マリー様は残念そうに呟かれ、お茶を飲みます。そしてはっと顔を上げきらきらとした瞳を私に向けます。何か思いついたのでしょうか。
「そうよ。ここで実演してもらえばいいんじゃない!」
「じ、実演ですか?一人芝居はちょっと恥ずかしいです」
「うふふふひははひひひはは!」
マリー様は立ち上がると奇声を上げて笑われます。あれ、やっぱりアブナイ人かもしれません。
「私を誰だと思ってるの!稀代の天才マリー・リーリス様よ。殿方同士の愛が観たくてとうとう超本物そっくりな幻を作り上げた私に不可能はないわ!」
マリー様は呪文を唱え、私の額に手を添えるとそこから何かつかみ出すような素振りをみせます。そしてその手をくねらし靄を作ると、その靄は人ほどの大きさになりやがて消えて・・・
「ブラボー!!マリー・リーリス様最高ですっ!」
「うふふ。私の欲望に不可能は無いわ!」
私の横にはマリー様が作り出したガイ様が居ます。
おお!おお!!凄い凄いですマリー様。何をおっしゃっているかは分かりかねますが、私が最後に見たガイ様まんまです。うんうん、身長もこのくらいで髪の毛の長さも合っています。
「素晴らしいですマリー様。私一生ついて行きます!」
「うふふ。その言葉忘れないでね・・そんな事より、2人でお話ししてみてよ」
「それはいいのですけど、これ幻なんですよね?応え返ってこないんじゃ」
「大丈夫。ちゃんとそこは調整してるから。はいはいじゃシュチュエーションは私が決めていい?」
「ええ、どうぞ」
私の了解を得たマリー様は今度は何も無い空間にベッドを出し、私を寝かせます。そして幻のガイ様をベッドの側に跪かせ、私の片手を握らせます。
先程までベッドで臥せっていた話をしていたので再現をしているのでしょう。なんだか少しどきどきしますね。
マリー様は私に目を瞑るように言います。ふふ、なんだか催眠術みたいです。そしてマリー様は設定を話し出しました。
「そうね、貴方は大怪我をしたけど一命を取り留める。でも貴方は眠ったまま起きないの、ガイくんはずっと貴方が目覚めるのを待ってる」
「あの・・さっきし死んだばかりの私にそのシュチュエーションは酷くありません?」
「死人んでるんだからこれ以上酷いもなにもないでしょ」
「・・・」
「ねぇセルバート。もし、生き残ったら。・・・・・貴方は彼に何を伝えたい?」
ふと、少しだけ落ちる様な感覚の後、唇に柔らかな感触のものが触れ、そして離れていきます。どうやら始まったようですね。さすがマリー様、私にキスをされた方の息づかいさえ現実のようです。
そして懐かしい悲しげな声が聞こえます。
「セル。セルバート・・・キスしたら起きるんだろ?お前が言ってたじゃないか。いつまで寝てるんだ・・・・・頼むから起きてくれ、キスならいくらでもしてやるからっ」
ああ、ガイ様の声です。しかし声変わりされてから、こんなに力無い声は初めて聴きました。
どうしましょう。幻だというのにとても胸に何か刺さる様で痛いのです。私は相手に気取られぬようそっと目を開けます。
私の側に居たのはやはりガイ様でした。あまりに声が生々しくて、先ほどマリー様がセッティングしていたのを一瞬忘れていたほどです。
ガイ様はやつれ、目元にはクマが浮かんでいますし、髪はツヤがありません。青い目は乾き、赤くなっています。それでもガイ様はごつごつとした硬い手で私の手を優しく握って下さっています。震える声はすがるような響きがあって。私の胸は酷く苦しくなります。
「っガ・・ぃさ・・」
悲しまないで。私は元気ですから、すぐに起きますから。またあの時の様に悲しませる時間を増やしたりなんかしません。例え幻でもガイ様の悲しみを早く止めたくて名前を呼びます。でも、どうしてか喉がとても乾いて上手く喋れないのです。どうか気づいて。
「っ・・・!セル。セル!」
ガイ様が私の声に気がつき、名前を呼んでくれます。ふふ、子供の愛称で呼ぶなんて反則です。懐かしいですね、本当にあの時みたいじゃないですか。少しからかってしまいたくなります。
「ガいさま・・ちゅー・してく・・たらなおりま・す」
「っ!またお前はそんな事を言って。だいたいいつも無理はするなとあれほど言っているだろうが!!」
真っ赤になって怒るガイ様。良かった、お顔の血色も良くなりましたし、元気出たみたいですね。ふふ、怒った顔も可愛いですーーーだからしょうがないと思います。
「ガイ様は・・可愛いから」
「俺をそういうのはお前くらいだ」
「ふふ。私にとって貴方は特別なんです・・・だから出来る事なんでもしたかった」
私の言葉にガイ様は息を止められ、私から目をそらすとぼそりと囁かれます。
「・・・俺はお前が側に居てくれればそれでいいんだ」
「・・・・・すみません」
ガイ様は私に向き直ると私の名前を優しく呼んでくれます。
どうして視界が霞むのでしょう。頬をあたたかい涙がつたいます。死を覚悟した時だって泣かなかったのに、なぜ今こんなに悲しいのでしょうか。やはりマリー様はとても意地悪です。こんなに嬉しくて酷い幻を見せるなんて。ずっとずっと怖かったのは、辛かったのはガイ様に会える日が1日、1日と消えていく事。ミラは私には覚悟があると言いますが、私は結局ガイ様から逃げたのです。ガイ様と会えなくなる事には意味があるのだと、目的があるから仕方ないのだと誤魔化していただけなんです。怖い、貴方を見ると幸せになるから貴方を失うのが怖い。貴方を見るともっと一緒に居たいと思ってしまうから貴方と共に歩めないのがつらい。だからもう会いたくなんかなかったのに。・・・私は貴方にとてもとても会いたかったから。頭はぐちゃぐちゃで、もう何を話していいか分かりません。何を話せば楽になれるのでしょうか。・・・マリー様は伝えたい事をと言いましたね。ガイ様、貴方に言えなかった事、幻なら言ってもいいですか。
「私は・・こんな身体ですし、きっと長くは一緒に居られなかったでしょう。でも貴方の・・私が居なくなった隣に私以外が居るのが許せなかった。ずっとずっと私の場所で、誰かに取られるのを見たくなかったんです・・・だから貴方に格好つけて死んでもいいと思った」
なんだか可笑しくて笑いが漏れます。濡れた笑は格好悪くて、ああこんなところ見せたくないのに。でも、格好悪くても貴方に知って欲しかった。言えなかった私の望み。ガイ様に触れたくて、私は寝たまま側に置かれたガイ様の手を取り私の頬へ。ガイ様は私の頬を包むように触れてくれます。ああ、やっぱり暖かい。
ガイ様はされるがまま、私を静かに見下ろしています。綺麗な青い瞳。私を見て貴方は怒って、困惑して・・・そして私を欲している。私の大好きな瞳。
私は頬に添えられたガイ様の指先にそっとキスを落としました。想いが伝わることを祈って。
「貴方が欲しい」
それが私の望み。愛していると伝えることより貴方が欲しい。貴方への愛は私の独占欲の塊です。私はずっと貴方の心を独り占めしたかったのです。貴方を私だけのものにして誰にも触れさせたくなかった。
ガイ様の目は大きく見開かれ、息を飲みます。とても綺麗な瞳、その美しい青が私へ近づいてきます。ずっと見ていたくてそのまま見つめていると、何を見ているのか分からないほどまで近づいていました。唇に触れる暖かさ。私はキスをされているんですね。そっと触れる労わるようなキス、その後は貪るような深いキス。苦しくてでも嬉しくて、白む意識の中でこのまま死ねたらなんて幸せだろうと思います。
ごん。と鈍い音がしてキスが止まりました。
「ちょっとガイッ!なに重傷者を窒息死させようとしてるのよ!私がせっかく助けっていうのにっ」
リディアナ様の声です。
頭をさすりながら気まずそうに視線を落すガイ様。
私は頭を少し動かしてガイ様の後ろを見ますと、お怒りのリディアナ様が両手で銀のお盆を持って立っています。ガイ様以外も居るなんて、なんて精巧な幻でしょう。
「セルバート様。私達も居ります」
静かな声にベッドの足元を見ると、声をかけたイリーナさんら黒すぐりの会が勢ぞろいです。
・・・・・マリー様、はりきってますね。ええ、よく周りを見ればサロン室から繋がる寝室じゃないですか。高窓からは月明かりが差し込み、暗い室内を照らしています。さっきまで明るい白い空間しかなかったのに、凄い幻ですね!
しかし、あの濃厚なキスを幻とはいえ知人に見られたのは今更ながらとても恥ずかしいです。カグヤさんなんか耳まで真っ赤になってイリーナさんの胸に伏せたままぷるぷるしています。イリーナさんにいたってはその視線に突き刺さるような絶対零度の冷たさを感じます・・・。
「セルバート。今更恥ずかしがるのか?あれだけ俺を煽っていたのに」
ガイ様は私の耳に口を寄せ、今までで一番甘ったるい声でそう囁かれます。どこで覚えたんですかそんな仕草⁉︎あ、私か⁉︎
た、確かに今までわりと破廉恥方面は積極的にこなしてましたけどTPOは守ってますし?死ぬ気だったからはっちゃけてました。でもこんな公開プレイみたいなの・・・・・ちょっとときめいちゃいます・・。
そんな事を考えてガイ様を見上げたのが悪かったのでしょう。唾を飲んだガイ様に私はまた口を貪られてしまいます。・・こんな破廉恥な子じゃなかったと思うのです。ああ、でも強引なガイ様も素敵なのです。私もされるがままになっていると案の定、ガイ様の頭にお盆が降ってきました。
「もう!セルバートは1人の体じゃないんだからっ。労わりなさいよバカッ」
ガイ様の頭を撫でます。可哀想なガイ様。どんなに石頭だとしても痛いでしょうに。
「リディアナ様、そんな大げさな」
「大げさじゃないわ。貴方ずいぶん無茶するようだけど、これからはお腹の赤ちゃんの事も考えなさいよ!」
うん?・・・・・・・・・・・・はて。リディアナ様のおっしゃっている意味が分からないのですが。バグでしょうか。マリー様、マリー様。話がとんでますよー。
一応確認しましょう。
「あ、赤ちゃん?どなたのでしょう?」
「貴方とガイの!」
「・・・どちらに?」
「貴方のお腹に!居るの!」
もうマリー様ってばご冗談が過ぎます。
「またまたぁ酷い幻ですね」
ええ、名残惜しいですがここまでにしましょう。マリー様に抗議せねば。もう一度お布団に入って、目を瞑って。さぁ寝れば幻が覚めて・・・・・・・・・・
「幻じゃなーーいっ!!」
リディアナ様の叫びが聞こえばさりと布団が剥がされます。気づいた時にはガイ様のお膝の上でガッチリホールドされていました。
ガイ様が真剣な表情でリディアナ様に問います。
「今の話は本当か?」
「・・本当よ。セルバートが回復するか分からなかったから言わなかったけど。ちゃんと気をつけてあげて」
「勿論だ」
お二人の間ではさくさくやり取りが進みましたがね。私は混乱の真っ只中です。思わずお腹をさすってしまいます。
ガイ様は私の手に手をのせ、大事そうに私のお腹にあてます。じんわりと暖かなガイ様の体温が感じられます。ほうけた顔の私の額にガイ様はキスをします。
「責任はとる」
「え、っ・・と、どういう意味ですか」
「俺の妻になって欲しい」
「あの、私男ですし平民ですよ」
「問題ない。戸籍はシェザンにどうにかさせる。俺は次男だから爵位はないし平民と変わらない、お前も嫁は貴族でなくてもいいと言っていたろ」
「そ、そうですけど。ご実家はそれでいいなんて」
「入学時に俺とお前の両親には了解を得てる。まあ、お前が合意すればだが・・・既成事実もあるしな」
ガイ様はにやりと黒い笑顔で笑われます。色んな意味でどきどきします。
だから避妊しなかったのか⁉︎ガイ様こんなに用意がいいなんて私びっくりですよ。ちょ、いつの間にこんな悪どい子になっていたんですか。
私はなんとなく身の危険を感じ、じりじりとガイ様の膝から離れようとします。
しかし、ガイ様にすっと腰を撫でられ震えてうごけなくなってしまいました。誰だこんな技仕込んだのは⁉︎私だよおバカ‼︎
「あの、でも私はこんな体でちゃんと産めるか分からないですし」
「子はいた方が良いだろうが、俺はお前が居ればそれで良い」
ガイ様の言葉に私はつい反射で小さくはいと答えてしまいます。だってガイ様が私と居たいと言ってくれるんですもん。嬉しいのですれけど響は完全に『逃がさない』です。逃げられる気もしませんが。
黒すぐりの会の面々は『わーぃお祝いだあ!』とはしゃいでいます。何名か重傷者が居るのがとても気になるのですが、盛り上がっている手前聞き辛いです。後で労をねぎらいましょう。
ぶっちゃけそんな周りの事など今関わってられないのです。ガイ様からやっと目を離せた私は両手で顔を覆い声なき悲鳴を上げています。もうここまできたら分かります。これは幻じゃないんですね。幻と偽って意識を現世に帰されたのでしょう。マリー様の馬鹿!意地悪!きっとどこかでほくそ笑んでいるに違いありません。なんて!なんて恥ずかしい事をしてしまったのか。ああ、もうマリー様が全部悪いんです!
「セルバート」
名前を呼ばれ私は仕方なく手を少しだけ降ろし、ガイ様を見上げます。
ガイ様は穏やかな顔で微笑まれます。そんな顔をされるとますます恥ずかしいのです。ガイ様は私の手を取り、あの指輪に口付けを落とします。そして手を握り、腕の中の私を優しく見下ろしました。
「セル。お前をずっと愛してる。どうか俺をお前のものにして・・・そしてお前を俺にくれないか」
ああ、私はなんて幸せ者なのでしょう。幸せで胸がこんなに痛くなるなんて初めて知りました。笑って愛しい方にキスをします。
「私の全てを貴方に」
ガイ様は今までで見た中で一番素敵な笑顔を浮かべ、私と額をそっと突きあわせます。目を閉じて小さく囁かれました。
「・・やっと言えた」
ごめんなさいガイ様。私がずっと言わせなかったから辛かったでしょう。
とても幸せそうなガイ様。ここまで言われて応えなければ男が廃るというものですね。
私は先ほどまでのお返しとばかりにガイ様の唇にかぶりつき、そのまま頬を唇でつつつと撫で、ガイ様の耳にわざと音をたててキスをします。
「ふふ。ガイ様、貴方は私が必ず幸せにして差し上げますからね?」
びくりと背筋を震わすガイ様の可愛らしいこと。私だってまだまだ負けないんですからね。
その後、「自重しろ破廉恥野郎共!」とお怒りのリディアナ様にお盆で殴られました。リディアナ様、音葉使いが悪いですよ。しかしガイ様、良く我慢しましたね。これ凄く痛いんですけど・・・ーー
次話、それからとあとがきです。




