育てた攻略対象が可愛すぎる17
ガイ様のお誕生日会。すっかり日が暮れて夜になってもガイ様達は若者らしくどんちゃん騒ぎをしておられます。真剣でちゃんばらを始めたり、適当な草木を的に魔法を使い的当てゲームをしたり。流石は皆さんそれぞれの道で期待される方々ですね。ものの数時間で庭園はぐちゃぐちゃぼろぼろです。よくまぁこの狭い範囲で収めるよう壊せるものです。しかしご心配なく、この庭園は根本から作り変える予定だそうで本日はいくらでも壊して良いそうなのです。むしろ粉微塵にしてくれた方がクリスチャーノ様は助かるのだとか。私はこの可愛らしいお庭が好きだったのでいささか残念です。しかし皆様、壊す事が楽しそうですね。おかげでちょうど他の仕事を終えて帰ってきたカグヤさんが参加したくてうずうずしています。やめましょうね、最終兵器が動くと庭どころか国が壊れますので。
「カグヤさんお帰りなさい」
「えへへ、ただいまです。準備ばっちりだよ。すごいね!皆んな楽しそうだなぁー」
カグヤさんが我慢できなくなる前に次へ移りましょう。私はグラス片手に皆さんの暴れっぷりを見ていたクリスチャーノ様に近づきます。
「クリスチャーノ様。例の催し物の準備が出来ました」
「ああ、そうか。ありがとう」
クリスチャーノ様、楽しんでいて忘れてましたね。この日に間に合わせるためにクリスチャーノ様とニコルさんは頑張っていましたからね、お声をかけて良かったです。
クリスチャーノ様は指先で空に陣を描き、空へ飛ばします。数メートル上ったところでぱんと大きな音を立て、鮮やかな青い光が飛び散ります。
「迷路庭園の用意が出来たぞ!」
楽しんでいた方々が歓声をあげて集まります。何でもいつかの森に植物採取に行った際に魔力に反応して動く植物を見つけたのだとか。魔法にも才のあるクリスチャーノ様はその植物の特性を利用し植物で出来た魔法仕掛けの迷路を作ったのです。先ほど、カグヤさんにお願いして迷路のそこかしこに明かりを付けました。日の落ちた今からですと、迷路と肝試しを足した様な感じでしょうか。皆さんこの迷路を楽しみにしていました。
「さぁ、くじ引きで2人ずつ行くからな」
クリスチャーノ様の指示でニコルさんが皆さんにくじを配ります。はてさて、ガイ様はどなたとペアになるでしょうか。
「俺はリディアナとか」
「そうね・・よろしく頼むわよガイ」
リディアナ様は一瞬何か戸惑った様子を見せましたがすぐに笑顔でガイ様の側に行かれます。うん、いいですよその調子です。
皆さんが迷路に入られた後、残ったのは私とニコルさんとカグヤさんです。2人に向い頭を下げます。
「すみませんが、私は用事がありますので少し失礼します」
ニコルさんは少し驚いた後、直ぐに頷いてくれました。
一方のカグヤさんはむくれ顔で問われます。
「・・何しに行くの?」
「ちょっとそこまでイベントを回収しに」
カグヤさんてば知ってるくせに。きっと直接見れないのが悔しいんですね。でもダメですよ、今回のイベントは貴女には内緒にしたいんです。
さてさて、確かここらですかね。地図を片手に迷路の中で出口とは逆にある一画に辿り着きます。
ゲームの中ではガイ様の誕生日がイベントの1つになっています。迷路の中で主人公はペアとはぐれ、この一画に来てしまいます。そして基本的には好感度の高い攻略対象が彼女を見つけるというシナリオです。但し、ガイ様が1番好感度が高い場合にはガイ様ではなくその場に従者が居るのです。そう、私が。
「・・・ガイのルートじゃないはずだけど」
通路から現れたリディアナ様は私を見つけ、警戒しながら此方へゆっくりとやってきます。
「ふふ、そうでしょうか?ああ、申し遅れました。私、セルバート・ケディックと申します。以後お見知りおきを」
「リディアナ・ゴードンよ」
リディアナ様は私の近くに、と言っても話すには少し遠い場所で立ち止まりました。だいぶ警戒なさっている様ですね。
「さて、本来でしたら貴女の様な田舎娘にうちのガイ様はもったいないと難癖つけるのですけれど」
「何言ってんの、ガイだって田舎者じゃない」
「ガイ様は清らかな大地でお育ちなのです」
「は?・・まあ、いいわそうなのね。で、何の用かしら」
「お聞きしたい事がありまして。・・・・・貴女はシャルディアンの乙女をコンプリートされましたか?」
私の言葉にリディアナ様は声もなく驚かれます。大きな瞳がことさら大きく見開かれました。そしてすぐさま私との距離を詰めると逃がさないとばかりに私の腕を掴み見上げてこられます。近くで見るとまた美しい少女ですね。
「貴方も転生しているの?」
「ええ」
「そう。じゃ、答えるわ。私は基本ルートはコンプしてる。でもシークレットは知らない」
「ではお教えします。シークレットキャラはエルフの理事長。西棟の中階段にある風景画に触れると彼の部屋へ行けます。何か困ったり相談したければ頼ると良いでしょう」
「・・・どうして教えてくれるの?」
「貴女はハードモードを選択しました。時間がありませんので出来るだけご助力致します」
「ははっ・・・何その言い方。まるでNPCみたい」
リディアナ様は少し乾いた笑いをもらすと私から手を離します。どこか疲れた様な声音ですが、私を見る目はむしろ力強いくらいです。良かった、彼女はとても責任感のある方なのでしょう。
何故ならこのシャルディアンの乙女はただ甘い学園物語ではないのです。
「地方で不穏な動きがあります。おそらくはイルージャの者が手引きしているのでしょう」
「そう。やはり戦争が起こるのね・・」
ゲームは甘いラブストーリーで進行しますが、終盤はシャルディアンでのクーデターから始まるリバンテイン王国の内紛を主人公達が鎮めていきます。
リディアナ様がぽつりぽつりと語ります。
「でも、私自信ないの・・あの子達だって!確かに優秀かもしれないけれど、それは学生としてでしょ。友達に戦場に行けなんて私言えないっ」
リディアナ様の言葉は苦しそうで重く聞こえます。きっと彼女がずっと抱えてきたものなのでしょう。主人公は友人や恋人と共に陰謀を解き、戦場をかけ絆を深めます。その中には瀕死の重傷を負った彼らを聖女である主人公が奇跡の治癒魔法を使い助ける事もありました。
リディアナ様の姿はあまりに苦しそうで、私はそっとリディアナ様を抱き寄せます。
「彼らが信用できないのですか?」
「そうじゃないわ!ただ・・・傷ついて欲しくないの」
「ゲームの人達でしょう?」
リディアナ様が私の胸を叩き、下から私を睨みつけます。濡れた瞳は強く、美しく、そして儚く揺れます。
「酷いこと言わないで!確かにシナリオのせいで私の側に居るのかもしれないけど、彼らはいい人達よ!私は友達だと思ってる」
なるほど、リディアナ様のお気持ちはよく分かりました。一つ息をついてお返しにリディアナ様の綺麗なおでこに頭突きを致します。痛い!もー石頭ですね。でも私少し怒っているんです。
「痛っ!何するのよ」
「・・うちの天使はそんな子じゃありません!」
「・・へ?て、天使?」
「ガイ様はそんな精神操作されてリディアナ様の側に居るわけじゃありません。貴女のお話をたまにして下さいますから知っています。本当に好ましいと思っているから友人になったのです。だから彼らの気持ちを疑わないで信じて下さい」
確かに彼女が学園に現れてからストーリー通りに進んでいます。でもだからといってガイ様や他の方がまるで何かに操られてる様には見えませんでした。イベント以外でも彼女とふれ、気遣っています。また、ガイ様が話されるリディアナ様は年相応の少女で、美化されているわけでもなかったのです。
もし、現れた主人公が口先だけの女性なら私はストーリー通りに排除しようとしたでしょう。でも貴女は違うでしょう。
リディアナ様は泣きそうに目元を歪めたあと、小さく頭を振ります。
「そ、そんなの私だってそう思いたいけわ!でも、だ、だから嫌なの。彼らが凄い傷を負ったり・・私がもしそれを治せなかったらどうしようって」
「それでも、貴方達がやらなければ国は滅びます」
「っ・・・分かってるけど」
ほろりとリディアナ様の頬を涙が落ちていきました。
私は彼女の頬を両手で包むと出来るだけ優しく上を向かせます。流れる涙を親指で拭うと、びくりと肩を震わせました。
「私達を忘れないで下さい」
「・・え」
「闘うのは貴女達だけじゃないでしょう?私達従者も一緒です。貴女の友人は皆素晴らしい方々で、そして彼らの為に働きたい者も合わせて力なのですよ。・・まったく、あんまり私達を過少評価されますと私も怒りますよ?」
リディアナ様ははっとした顔で少し呆然とした後、少し気まずそうに頷かれました。ゲームでは対象キャラが命令するだけで背後の人物達は居ません、けれどこの世界で伯爵令嬢として育った彼女はその見えなかった彼らとも過ごして来たのです。その彼らを忘れていた事を恥じてらっしゃるんでしょう。しかし、一国の行く末が彼女の行動で決まると思えば周りが見えなくなるほどの重圧を感じてもおかしくありません。けれど彼ら全員と親交を持った彼女にしかできない事なのです。その為には彼女が周囲との壁を取り払い、頼ることも必要です。
「貴女にお願いしたい事があります。事が起こるまで、彼らと学園生活を精一杯楽しんでいただけませんか」
「え?だ、だけど・・色々準備とかあるではない?」
「来る日の備えは私達がどうにかします。だから貴女には彼らの心の準備をお願いしたい」
「心の準備・・」
「彼らが迷いなく尽力できる為に作って下さい。護りたい人、護りたい場所、護りたい国を。ーーそして傷つく彼らの体と心を癒して下さい」
リディアナ様は私の言葉をきき視線を落とし目をつむります。そしてややあってからしっかりと頷かれました。
「ーーー難題ね。でも、そこまで言われてやらなきゃ女が廃るわ」
私と見つめ合うリディアナ様は困った顔で笑って下さいます。やる気が出たなら上々です。
「では、リディアナ様の助けになる様、私から一つお渡ししたいものがあるのです」
「なにかしら?」
「貴女を助ける呪術を」
「えっ⁉︎そ、それって呪いって事でしょ」
リディアナ様が私の手を離れ一歩、二歩と下がられます。呪術と聞いて怖がらせてしまったのでしょう。
「呪いですが、貴女に危害を加えるものではない事を我が主人に誓います」
「なんで神じゃなく主人に誓うの⁉︎」
「私の至上はガイ様だからです」
「・・・」
私の答えにリディアナ様は難しい顔をされましたがとうとう退がりきり緑の壁に背中がつくと、諦めた様に私を見上げます。
私はリディアナ様に体が触れるかどうかというところまで近寄り、怯えさせない様ゆっくりと彼女の頭の横に片手をつきました。もう一方の手で彼女の滑らかな頬を捕まえ、彼女の耳に唇を寄せます。
「どうか、私を助けると思って受けて。でないと、心配でしかたがないのです」
リディアナ様は「ひぃ」と小さく息を吸われます。しばらく小刻みに震えていましたが頷いて下さいました。
「それでは口をあけて舌を出して頂けますか?」
リディアナ様は頬を染め躊躇いながらも言われたように舌をだします。
私がその様子が可愛らしくて小さく笑ますとリディアナ様は恥ずかしそうにぎゅっと目を閉じます。
「ふふ、気恥ずかしいでしょうからそのまま目を閉じていて下さい」
「ぅう〜〜っ」
私は口の中を切り、事前に用意していたオブラートを血塗れの自分の舌に置きます。オブラートは溶け、描かれていた呪術式がほのかに熱を発しますした。すぐにリディアナ様のお顔を両手ですくい、その可愛らしい舌に私のものを押し付けます。何をされたのか理解出来ず硬直されたのを好機と舌同士を擦り付けます。
「っうゔう!!」
リディアナ様が正気に戻り口内に逃げる舌を追います。そのまま彼女の舌を嬲る様にキスを続けました。
しばらくして私が口を離した時にはリディアナ様は吐息とともに崩折れそうになってしまい、彼女の腰を抱く様に支えます。リディアナ様の様子ですと、どうやらまだどなたとも深い仲にはなっていないのでしょう。彼女の耳にふっと息を吹きかけますと可哀想なほど震えます。
「無防備過ぎます・・・いいですか、貴女が気を許しても良いのは攻略対象方だけ。例え彼らの従者であっても油断してはいけません」
体を離し、見下ろしたリディアナ様は瞳を潤ませています。ふるふる震えて、まるで狼に食べられる前の仔羊ですね。まったく、深くも知らない人の話をほいほい聞いて本当にお人好し、そしてお馬鹿さんですねえ。
「もちろん・・同じ転生者であってもですよ」
私は彼女の軽率さが可笑しくて口角を上げます。リディアナ様の瞳には金糸の様な目を見せそれは厭らしい笑顔の私が居ます。
リディアナ様のお顔から表情が一瞬抜け、風を切る音が聞こえたかと思えば私の頬に平手打ちが飛んでいました。
「っ!最低っ」
リディアナ様が泣き声混じりの怒声を上げます。
その時、ぐいっと私は後ろへ引かれました。私の襟を誰かが掴みリディアナ様から引き離します。後ろに倒れかける私を追う様に平手打ちを受けた方とは反対側へ拳が近づいて来るのが一瞬ですのにとてもゆっくりと見えました。大きな手、節が立った強い男性の手、そして見覚えのある綺麗な指輪をしています。
舌を指定したのは詠唱する際、必ず使う所だから。執拗にキスをしたのは貴方がきっと怒るから。私って最低ですね。




