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想い出の花 前編

───君は覚えているだろうか。初めて出会った日にあげた、野に咲く名も無い花のことを───







 血生臭さく、殺気立った戦場。


怒号が響く中、地に伏せた少年は、脇腹から溢れる生暖かい紅に手を染めながら、霞む視界を睨みつけていた。


───くそっ………!!!!


地面を蹴りつけたいが、そんな力も既に無い。


浅い息を繰り返しながら、少年の瞳と同じ色の晴天を、視線だけで嘲笑う。


───死ぬんだ…俺…


そう実感した少年は、ゆっくりと今までのことを回想した。


思えばまだ、何も達成していない。


そんなに多く、夢を抱えたつもりはなかったはずなのに………


瞼を閉じる寸前に、走馬灯が少年の目を通り過ぎる。


「リル………」


そこに一番映り込んでいた愛らしいの少女の名を、少年は声にもならない掠れた声で転がした。


しかし、「はい!」といつも通り元気よく返事をして可愛らしい笑顔を見ている彼女が、ただの幻覚なのだと思い出す。


───あの時、ちゃんと顔見とけば良かったな…


泣いた顔でも見ておけばよかった。


生きて帰れるわけが無かったのに。


ここはそういう場所だというのに。


つまらない意地を張ってしまった。


思い出の笑顔だけでいいと思った。


良いわけ無いのは知っていたのに。


後悔は泉のように湧くが、今更どうしようもない。


心臓の鼓動が小さくなっているのを、少年自身が一番良く判っていた。


───死にたく…ない…


情けなくていい。格好悪くったっていい。


生きていたい。やりたいことは山ほどある。


しかし残酷に、視界は閉じられた。


遠くなる思考の中で、馬の嘶きと「しっかりしろ!!」といういやに大きな声が木霊した──


✽✽✽


 アナスタチアにある、町程の広さがある大きな村。


その村の片隅にある一つの家にカイン・ハールティが越してきたのは、沢山の野花が咲く春の頃だった。


村が春に浮かれる中、カインの心は沈んだ曇り空を広げていた。


「カインちゃん、最初は居づらいとは思うけど…慣れればここは快適だから…」


「うん…」


ベッドに横になりながら話しかけてきた彼の祖母は、切なそうな顔をしながらカインを見つめた。


「何もこんな幼い子の親を奪わなくてもねぇ……でも、お国のためだからねぇ…」


彼がこの村に来た理由。


それは、彼の両親が国に連れて行かれたからだった。


「カインちゃんも能力が強ければねぇ…一緒に行けたんでしょうけど……」


彼の両親は能力が強かった。

そしてそれを隠して暮らしていた。


しかしついこの前、とうとうそのことは国にバレてしまい、国のためにと王に引き抜かれていった。


能力の強さというのは遺伝しやすいものだが、確実にそうとは言えないのも事実だ。


幸か不幸か凡人並みの能力しか持てなかったカインは、たった一人、家に残された。


まだ九歳の幼いカインに一人暮らしは到底難しく、こうして祖母の家に来ることになったのだ。


「……最初は嫌な目に遭うかもしれないけれど…」


「街でもされたから、慣れてる…」


悲しいことに、この国の国民は自国のトップを嫌っていた。


それはもう、異常なほどに。


そのため国と一度でも、どんな形でも関わりを持つと、たちまちその人は敬遠される。


厄介事に、巻き込まれないために。


それは、もう今後、一切国と関わることはないであろうカインでも変わらなかった。


今までは仲良くしてくれていた町の人々も、家に国の役人が家に来た直後から、態度が素っ気ないものになっていった。


…だけなら良かったのだが、引っ越しの直前に家の窓を割られる程度には嫌われた。


「歳の近い人…も、多分村長さんのとこのお孫さんしかいないと思うけど…」


「大丈夫だよお婆ちゃん。…ありがとう」


その後「荷物を置いてくる」と言って、少年は部屋を出た。


廊下に棒立ちになっている少年の頬には、一筋涙が伝っていた。

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