私のいた世界のお話
私は、いつも一人でした。
皆で遊ぶときも、家にいるときも、全て一人でした。
それは全て、この見た目のせい。
髪は灰色、目は青色。
両親も、兄も、こんな髪色をしていなかった。
目も、私一人が青色だった。
学校でも仲間外れ、家では邪魔者。
そんなある日、一人で公園のベンチに座っていた私に、突然話しかけてきた人がいたのです。
「こんにちは、お嬢さん」
「……こんにちは」
「君は、他の子とは遊ばないのかい?」
「……皆、遊んでくれません」
「そうか……」
そう言って私の隣に座ったその人――彼は、突然私の顔を覗き込み、目を合わせました。
「ああ……君は、まだ死んでいないね」
「……当たり前のことを言ってどうするんですか?」
「いや……心がまだ死んでないんだよ」
「心……?」
「そう、心だよ……君は、人が死ぬのはどういうことかわかるかな?」
「……心臓が止まったときですか?」
私がそう答えると、その人は困ったように笑みを浮かべながら、「う~ん」と唸りました。
それが答えではないのかと聞くと、「合ってるんだけど……」と言いながら空を見上げました。
「それも死んだって言うんだけど、死にはもっと怖いものがある」
「他にも、死があるのですか?」
「うん、心臓が止まったら人は生きられないよ」
そう言った彼は、初めて真剣な表情を見せてこう続けたのです。
「けど人はね、心がなくちゃ生きていけないんだ」
「心……ですか?」
「そう、君はまだ心が死んでない……だから、僕は君を救いたい」
『救いたい』
そう言われた私は、彼が何をしたいのか、全くわかりませんでした。
ただ、そう言った彼が、とても眩しく見えたのです。
それから毎日、彼は公園の、ベンチに座って私を待っていてくれました。
私の知らない言葉、生き物、文化、とてもたくさんのことを教えてもらいました。
そうしているうちに楽しみになっていたのでしょうか、毎日公園に行くまでの時間がとても煩わしく感じるようになっていたのです。
そんなある日、彼はこの町から引っ越してしまうことになってしまったのです。
彼は私の頭を撫でて、「絶対に、また会えるから……だから、心を殺しちゃいけないよ」そう言って去って行きました。
その言葉を信じて、私は待ちました。
何週間、何ヵ月、何年……毎日あの公園で待っていました。
けれど、彼が帰ってくることはありませんでした。
そのうち、耐えられなくなった私は、彼の言う心が死んだ状態になってしまったのです。
ふらふらと、道路に向かって歩いていく私を止める者はなく、道路を走ってきたトラックに撥ねられました。
地面で紅い水たまりに倒れた私は、「ああ、結局彼には会えなかった……」と、枯たと思っていた涙を流しました。
そんな私に近づいてくる人が一人。
その人は私の傍に跪き、血で汚れるのも構わず私を抱きかかえました。
もう目がかすんで見えない私の頬に、ぽたぽたと、水のようなものが落ちてきたのです。
「ああ……なんで、なんで僕はもっと早く来れなかったんだ……!」
「ぁ……」
「ごめんね、ごめんね……僕が、僕が君と一緒にいれば……!」
ぼろぼろと涙を流し、私を抱きかかえたのは、私がずっと待っていた彼だったのです。
やっと会えたのに、もう死んじゃうなんて嫌だな……
そんなことを思っても、やはり運命は変えられないらしく、私の意識はだんだん遠のいていきます。
「ねぇ……っまた、僕の名前を呼んでよ……っ美希‼」
初めて呼ばれた私の名前。
そして、泣き叫ぶ彼を残して、私は息を引き取りました。