6◆2つめの初めて_1
「○○家の血をひく娘が。なさけない」
なんでも祖母の実家は『いいうち』らしい。
祖母はそういう言葉をよく使う。
あたしが高校を選んだ時も、そういった。
祖母が望むランクよりずっと低い高校だったから。
がんばればもっと上の学校に行けないわけではなかったけれど。
あたしにとって重要なのは進学率、とかよりも、校則でアルバイトが禁止されていない、ということ。
ただそれだけだった。
高校に入ったあたしは、社会勉強だから、と祖母をなんとか説き伏せてアルバイトを始めた。
(これも大変で、納得させるまで毎日毎日、すったもんだがあった)
でも、アルバイトに真面目に通うあたしを、見なおしたのだろうか。
それともさすがの祖母も60をすぎて、パワーダウンしたんだろうか。
あいかわらず、友人宅へ泊るなだのは、口うるさかったし、門限もあいかわらずで
「嫁入り前の娘は暗くなってから出歩くもんじゃない」
などと時代遅れのことを言われていたが、バイトだからといえばしぶしぶ許してくれた。
意外なのはあんなにケチなのに、アルバイトのお金は
「それはお前が稼いだお金だ。よく考えて自由に使いなさい」
といってくれた。
あたしがバイトを始めたのは、国道沿いにあるファミレスだった。
時給は研修中は630円だったけれど、働いてお金をもらえるというのはとても新鮮な体験だった。
お金をもらえる、と思えば、
皿の3枚持ちも、
オーダーとりのマニュアルも、
百種類もあるメニューの略も、
教科書よりはずっとラクに覚えられる気がした。
祖母、といえば一度、アルバイト先に挨拶にきたことがある。
「ちゃんと、店の人に迷惑かけとらんやろうね」
と声をかけられて、他のバイトの子の手前、あたしはとても恥ずかしかった。
店長も
「いちいち親御さんがあいさつに来たのは初めてだ」
と驚いていたほどだったけれど、祖母にはあたしのまじめな勤務態度を終始褒めてくれた。
若いのに、きちんとしている。
遅刻欠勤が一度もない。
飲み込みが早くて頼もしい。
そんな言葉を聞いて、祖母はすっかりアルバイトを信用してくれたらしい。
あたしは、グッジョブ、店長。と心の中で親指を立てた。
そして1か月働いて。
初めて給料をもらったとき、あたしは、何でもできる力を手にしたような気がした。
希望がはっきりと目の前に降りてきた気がした。
――あの窮屈な祖母の家を、出ることができる可能性。
あたしは、ますますバイトにせいをだした。
週に4日ほど入れば、5万くらいになった。
そのうち2万ずつは貯金するんだ、と心に決めた。
3年後には一人暮らしを始める軍資金になるはずだったけれど。
そう簡単にはいかなかった。
それと。
あたしはバイト先で、出会ってしまった。
あたしに、もう1つの「初めてのこと」を教えた、アイツ――ヒロキと。