4◆あたしの過去_1
いまから7年前。
高校生になって。
あたしはさっそく「初めてのこと」を2つ覚えた。
1つはアルバイト。
それは中学の時から決めていたことだった。
高校生になったら絶対にアルバイトをしたい。
それゆえに、校則でバイトが禁止されていない学校を選んで受験したほどだ。
なぜって――あたしはお金を貯めたかった。
お金を貯めて、家を出たかった。
高校卒業と同時に、絶対に。
窮屈でしかたなかった祖母のマンション。
そのころ、あたしは祖母――というよりババア――と、とある地方都市で二人暮らしだった。
中1の終わりに、たった一人のお母さんを事故で亡くして。
父は生まれた時からいないし、ひとりぼっちになったあたしは、お葬式ではじめて会った唯一の親戚である祖母に仕方なく引き取られたのだ。
この祖母が――戦前生まれの祖母は、とにかく口うるさくてケチだった。
あたしは生まれて初めて、門限というものを言い渡された。
中2で5時。
小学生かよ、とあたしは抗議したけど(いや、小学生だって、今のコは塾で帰りが遅くなるはずだ)
「うちの方針だから。女の子は5時に帰って家事の手伝いをするものです」
と祖母は絶対に譲らなかった。
門限を皮切りに、制服のきこなし、見るテレビまで制限された。
私服も祖母がついてこないと買ってくれないから、好きな服はたいてい却下。
それ以外にも、机の上の片づけ方から、箸のあげおろしに、あげく
「うちはおじいさんの遺族年金でやっと暮らしてるんだから、無駄遣いするな」
と夜更かし厳禁、お風呂の時間や水道の使い方まで難癖つけられて。
使っていたピッチも
「中学生には必要ない!お金がもったいない」
と取り上げられた。
なにもかもがんじがらめに縛りつけようとする祖母に納得できないあたしは、当然反抗した。
毎日のように繰り広げられる激しい口げんか。
「養ってやってるのに文句言うな! 嫌なら出ていけ」
祖母は玄関に向かって指をさす。
一度は――あたしはその通りに出て行こうとした。
まだ、転校してきたばかりで、そんなに仲がよくなったわけじゃない。
だけど、頼めば誰かクラスメートが泊めてくれる。
そう思った。
だが、玄関に向かったあたしの背中に
「いいか、一度出て行ったら、二度と戻ろうなんて思うなよ」
鬼婆のような祖母の低い声。
英会話の友達、とやらと電話で話している声とは2オクターブも違うような声。
「二度と敷居はまたがせないからね。出て行ってとっとと野たれ死ね」
足が止まったあたしに、ババアは
「さあ、どうした。さっさと出て行かんのか」
と追い討ちをかける。
――悔しい。
まだ13歳、中2が社会に出れないことを、わかっていて。
祖母はあたしを徹底的に傷つけるのだ。
『野たれ死ね』
というのは祖母の決め台詞なのだ。
涙がこぼれてくる。
泣かされるのはいつもあたし。
悔しいよ。
あたしだって、こんなところ、出ていきたい。
出ていきたいよ。
でも、出て行っても行くところなんか、ない。
こんな田舎の町に中2の女の子が隠れるところなんかないんだ。
東京に帰りたい。
東京に……お母さんといたころに戻りたい。
あたしは布団をかぶって泣いた。