表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

3◆あたしは、人を殺した。_3



あのときは、本当に、軽い気持ちだった。



おしゃれな服。


新しい色のグロス。


ブランドの可愛いリュック。



欲しいものはいくらでもあるのに、お金がついていかなくて。


時給650円のファミレスのバイトに比べたら、『えっち』しただけで万札をもらえるのははるかに魅力的だった。




女子高校生。


一生で一番、女としての価値が高いとき。


それを無駄にするのはもったいない気がした。




「みんな陰でやってる」


そう自分に言い聞かせたら、『売春』という言葉も、罪悪感も、あっけなく消えた。


あのときの相手の一人が、この死体。


藤本。


優しくてエッチなおじさん。


お金をいっぱいくれて、いい人だと思っていたのに――。





――なんでこんなことになっちゃったんだろう。


あたしはバスタブの中の藤本に目をやる。


目があいたままだ。


当然、またたきもしない。


気持ち悪いけど、本当は触りたくもないけど、あたしはそのまぶただけ閉じてやった。


お湯に浸かっていたせいか、生きてるように温かい。


本当に死んでるのか疑わしい、だけど。


あたしが顔にふれたはずみで、口の端からお湯がこぼれた。


見ると仰向けに倒れた半開きの口の中には、お湯がそのまま溜まっていた。


藤本は半開きの口の中にお湯をためたまま、ごぼ、ともいわず横たわっていた。


生きている人間が、口の中に、こんなふうにお湯をためることなど、きっとない。


だから、やっぱり死んでいるのだ――。




あたしは人殺しだ。




仕方がない。


こうするしかなかった。


こいつが悪い。


そうつぶやきながら、あたしは後悔していた。


それは――衝動的に、とはいえ、こいつを殺してしまったことじゃなくて。


あのころのこと。




『それヴィトンでしょ』

『いいなー、いいなー』



友達の声は、あたしを有頂天にさせた。


藤本は気前よくお金をくれて、いろいろなものを買ってくれた。


週1のセックスと引き換えに。


どうってことなかった。


割のいいバイトだと思っていた。


あんなことをして、自由になったつもりでいたあたしは――。


本当になんてバカだったのだろう。


なんて軽はずみだったんだろう……。




あたしは、昔のあたしのせいで――取り返しのつかないことをしてしまった……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ