2◆あたしは、人を殺した。_2
なんだか、臭い。
お湯が臭う気がして、あたしは藤本が沈んでいるバスタブの栓を引っ張った。
人は死んだら――垂れ流しになるっていうけど、もしかして、それ?
ううん。
そうじゃなくても、50歳をすぎたオヤジの藤本からは加齢臭みたいな独特の臭気がした。
さっき、4年ぶりに抱かれたとき。
それは、以前よりも強くなった気がして。
あたしは、以前よりもねちっこくなった行為そのものよりも、その汗が体に染み付くのが嫌でたまらなかった。
いや、藤本でなくても。
たとえ、いっさいの体臭のない男だったとしても。
嫌悪感はかわらないだろう。
もう、涼以外の男になど、絶対に抱かれたくなかったから。
涼だけのあたしでいたいから……。
バスタブのお湯はごうごうと音を立てて排水口へと流れて行き、藤本の裸体を丸見えにした。
本当に死んでいるんだろうか。
なんだか死んでる気がしない。
むくっと起きてきそうな気がする。
起きて、また言い出しそう。
『アリサちゃんが昔、何してたか、彼氏に教えちゃおうかな〜』
そう、1週間前。
突然現れたこいつは、確かにそう言った。
絶対に、それだけは困る。
絶対に涼にだけは、知られたくない。
その弱みにつけこんで、こいつはあたしをここに連れ込んだのだ。
『黙っててほしかったら、俺のいうとおりにしろ』
あたしが昔、していたこと。
それは。
エンコー……援助交際をしていたこと。