13◆気になって
あれから。
梅雨が本格化し、何度も雨の日はあったのに。
山上さんは「送って行こうか」といってくれなかった。
辞めた人のかわりに、山上さんが深夜のシフトに入るようになったから、という物理的な理由もある。
だけど、あたしと入れ替わりで出勤する山上さんは、
「お疲れ様です」
と挨拶はしてくれるものの、前みたいにいろいろ話しかけてこない。
――あたし、嫌われちゃったのかな。
好きかどうかわからない、なんて言ってたくせに、そう思うと落ち込んだ。
何か嫌われるようなことをしただろうか。あの雨の夜。
気がつくと、いつもそのことばかり考えている。
「自分から話しかけてみればいいじゃん」
人のことだから、ハルナはいとも簡単にそういうけれど。
いざ、話しかけようとすると、なんて声をかければいいのか、まるっきりわからなくなってしまうのだ。
そのうち。
山上さんはバイトにも顔を出さなくなってしまった。
シフト表から名前が消されていないところをみると、辞めたわけではなさそうだけど。
なぜか来なくなってしまった。
どうしたのかな。
ケガでもしたのかな。
まさか、交通事故?
いや、でもそんな大きな出来事だったら、バイト先でもうわさになるはず。
だけど、誰も何もいわないから、たいした理由ではないのだろう。
雪菜さんや他の人に聞けばわかるかも、とも思ったけど、変に誤解をされそうで聞けない。
「彼ばっかりが男じゃないんだし。元気だしなよ」
ハルナに誘われて、あたしは合コンなるものに顔を出してみた。
相手は男子校の2年生だ。
6月はじめに、その学校の文化祭に行ったハルナがセッティングしたのだ。
みんな親切で、場を盛り上げようとする明るい人ばかりだったけど……なんかギラついている気がした。
考えすぎなのかもしれないけど。
気をつかう優しさの下にも。
面白いジョークの下にも。
すべて――彼女がほしい、あわよくばセックスがしたい、という下心がみえ隠れしている気がしてならなかった。
まあ、あたしたちのほうも同じなんだけど。
なんか、サカリがついた犬のお見合いみたいにケモノじみてる、と思った。
その中の一人にあたしは気に入られてしまったらしい。
しつこく聞かれたので、メールアドレスを教えてしまったら、毎日のようにメールがきてうんざりした。
それに比べたら。
『狙われていた』はずの山上さんはずっと大人だったように思えた。
考えてみたら、『狙われていた』にしては、あたしは彼にメアドもケータイの番号も教えていない。
それを教えるチャンス――山上さんの側からはさりげなく聞くチャンスは山ほどあったのに、だ。
それは、大人の余裕なんだろうか。
それとも、単にあたしに興味がないだけ?
気がつくと、山上さんの顔を、もう1週間以上見ていなくて。
だけど、バイトにいけば、いやでも山上さんのことを思い出してしまう。
やっぱり好きなのかな。
好きだから不安なのか。
気になっているだけなのか。
いずれにしてもやり場のない気持ちを抱えたまま――夏休みに入った。