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11◆『初めて』の重み

「せっかくだから、少し、ドライブする?」


あたしは反射的に首を横に振ってしまい……山上さんの顔を見て後悔した。


こんな、がっかりしたような顔、はじめて見たかもしれない。


即座に断ったから、傷つけてしまったのかもしれない。


「そ、祖母がうるさいんです……。すいません」


あたしは、なんとかフォローをいれる。


「ふーん」


だけど、言い訳に聞こえてるかもしれない、とあたしはさらに言葉を重ねる。


「本当に厳しいんです。高校生になっても門限6時とかだし」


「6時ィ!」


やっと山上さんは本気で驚いてくれた。


「はい」


「バイトのときなんか、軽く超えるじゃん」


「はい。バイトは特別に許してもらってるんです」


……あ、なんかウソくさいかも。


でも本当の話だから仕方ない。


バイトじゃないときに門限を破ると、罰として1回につきこづかいを1000円ずつ引かれる。


ちなみに、こづかいは洋服代は別として5000円。


バイトをしているとはいえ、ただでさえ少ないこづかいが1回1000円ずつ減るのは、本当に死活問題だ。


必死でそんなことを説明するあたしは。



――やっぱり山上さんとドライブにいきたいんだろうか。


――山上さんに嫌われたくないんだろうか。



心の中で自問自答を繰りかえしている。



「……そっか、大変だね」


山上さんは、あいかわらず落ち着いた柔らかい声で答えてくる。


「じゃあ、今日はまっすぐ帰らないとね」


「……スイマセン」


それっきり、車の中は沈黙して……雨音が再び冷たく暗がりを支配しだした。









「ええー。なんで、そのままドライブしなかったの〜」


ハルナが高い声をあげたのであたしはシーと左手の指をたてた。


学校の昼休み。


いつものようにハルナとお弁当を広げている。


昨夜の雨と打って変わって、初夏の太陽がまぶしい今日。


教室の窓を開け放っても少し暑いくらいだった。


「こづかい1000円引きくらい何さー。『捨てる』チャンスだったのに」


「声が大きいよ」


あたしはあたりを見渡した。


女子高の昼休みの教室は騒がしくて。


そのおかげか、何気ない、だけど、きわどい意味を聞き取った人はいないみたいだった。


「あ〜あ。もったいなーいい〜」


少し声を落してハルナは、あたしのお弁当から卵焼きをすばやく奪い取った。


あたしは昨日のおかずに卵焼きを加えただけのお弁当をいつも持ってきている。


女子高であるうちの学校には学食がない。


パンなどを買えばそれはこづかいから出ていくことになるから、あたしは毎朝せっせとお弁当をつくることになった。


あたしの卵焼きは、祖母に厳しく仕込まれたせいか、ハルナにとても好評で。


油断しているといつもとられてしまう。


「アリサはいいお嫁さんになれるね。いっそ処女も未来の旦那さんのためにとっとけば」


あーおいしい、といいながら時折そんな冗談をいう。


当時のあたしは、とんでもない、と思っていた。






ハルナは、高校に入ってできた友達だった。


中学時代、あたしは途中から転校してきたせいか、あんまり親しい友達はできなかった。


それに、転校してきて1週間くらいで、怖いセンパイに呼び出しくらって。


派手なグループと遊びまわっていた東京時代のニオイを嗅ぎつけられたのかもしれない。


幸い、センパイにはちょっと注意されたくらいで済んだんだけど、それがうわさになって怖がられていたらしい。


言葉づかいも、気取ってるとか陰口をたたかれているのもわかっていた。


門限が厳しすぎるのも、あまり溶け込めなかった原因の1つだと思う。




だから、高校では友達をつくりたい、と思っていた――そんな入学式の日。


靴箱にいたあたしに、小柄で愛嬌のあるコが近寄ってきた。


「1組の大友亜莉紗さん?」


そのコはいきなり話しかけてきた。


――なんでフルネームを?


と、びっくりしてうなづくと


「あたしも1組。小田春菜っていいます。よろしく〜」


とあたしの靴箱の隣に手を伸ばしてきた。


それで理解した。


張り出されたクラス発表で、出席番号が前後だったから、名前を覚えていたらしい。


それがきっかけで、春菜とはすぐに仲良くなった。


中学時代のことがあったから、女ばっかりの女子高で、うまくやっていけるか少し心配だったけど。


社交的な春菜とつるんでいたおかげで、高校ではみんなと普通に仲良くなることができたのだ。


女ばっかり40人もいるクラスにはそれこそいろいろなタイプのコがいた。


少数民族もいたけれど、だいたいはギャルっぽい遊んでる感じのコか、オタク、スポーツ系の3つのタイプに大きくわかれるみたいだった。


アニメもみないし、部活もやらないあたしは、ギャルグループのコと固まることが多かった。


そこで、あたしは知る。


仲良くなった友達のうち、半分以上がすでに処女ではないことを。

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