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愚弟に魔女は助けられる

私は自分が震えている事を遅れながら自覚した。

震えている、つまり恐怖を感じているのだろうか。

何の恐怖か、それは死に対しての恐怖だ。

死なないように対策はしてきた。

例え夢でも、死にたくは無かったからだ。

誰かが死んでも、どうせ関係ないし夢みたいな物だからどうでもいいと思ってた。

だが、死の恐怖が私を否応もなしにコレが現実だと思わせる。

現実だとして生活して来た私が、無意識で現実味がないと思っていた世界を現実だと認識する。

夢の中で死んでも、現実では死なない。

なら現実で死んだら?


「タルトスの旦那がこの程度の奴に負ける筈が無いのにな」

「ッ!」


奴の身体がコマ送りするように違う場所に移動していた。

移動した場所、そこには私が急遽作った保険兼弟子である五人組とルミーナがいる。


「魔術的な繋がりみたいな物を感じるからな、始末しておこう」

「逃げなさい、ルミーナ!」


勇者の剣が振られた。

同時に、触れても居ないのにルミーナ以外がバラバラに切断される。

それもサイコロ状に、執拗に切断したかのように肉片へと変化していた。

あり得ない、あれが悪神の加護による力なのか。


「確かに殺した筈なんだが、いやそうか」


吹き飛ばされるように離れた場所で、ルミーナの背中から黒い液体が垂れていた。

その傍らで白い塊がモゾモゾとルミーナを守るように蠢いている。


「命を絶つ、そういう概念攻撃だったんだがどうやらアンタ三つの命を持ってるらしい。自分の従者すら実験動物とはつくづく救えないな」

「ルミーナ!私を助けろ、コイツから逃げるんだ!」

「恐怖したな?つまり、お前は俺に殺されると思っている。あぁ、正しいさ……死ぬ可能性を認めたお前を俺は殺せる」


勇者がまたルミーナに近づいて、剣を振るった。

当然、ルミーナはその一撃を躱す。

しかし、吐血しながら今度は白い液体が背中から噴出した。

まるで血液のように、守るように蠢いていた白い塊が溶けたのだ。


奴はルミーナに近づき、その胸を踏みつけるように足を置く。

そして、首筋に剣を近付けながら口を開いた。


「これで残るは一つか。二分の一の確立を引くとはアンタも――」

「おい、何してやがる!」


奴の声を遮るように、誰かが言葉を発した。

面倒そうに、奴が振り返る。

足下で苦しげな声を上げるルミーナ、そしてそれを尻餅着いた状態で見る私を一瞥して奴は見る。

その先には、私の弟が立っていた。


「何だおま――」

「死ね!」


気付けば、カーマインが殴りかかっていた。

防がれることも無く、その一撃は奴にダメージを与えて殴り飛ばすことに成功していた。


「すっごーい、アンタ最高に今主人公だよ」

「大丈夫か、頭とか大丈夫じゃ無いけど」

「おい、どういう意味だよ」

「そうだよな。頭おかしいのがデフォだったな」


よっこらせと、カーマインは私を俵のように持ち上げて肩に掛ける。

それから凄い早さで移動して、同じようにルミーナも持ち上げた。


「待てよ」

「殺す気で殴ったが、生きていたのか」

「待たんでいいから、はよはよ!」


バシバシ背中を蹴って催促するも、カーマインの奴は微動だにもしない。

そして、立ち上がりながら口を切った勇者と相対する。

ちょっと降ろして、私逃げられない。


「その女は置いていって貰おうか、俺の中で殺せって疼くんだよ」

「それは出来ない相談だ。姉ちゃん、行け」

「そんなことは出来ないわ。でも邪魔になりそうだから、行くわ!」


取りあえず建前でそういう事を言ったが、私は全速力で走り出した。

そして、数秒で足を縺れさせて頭から地面にダイブした。

……痛い。


「あぁ、お労しやセレス様」

「私、運動できない系女子だった。助けて、ルミーナ」

「さぁ、背中に」


今度こそ、おんぶされた状態で逃走を試みる。


「フン、あの程度なら余裕で追いつけるだろ」

「バーカバーカ、やっちゃえカーマイン!」

「良いから行けよ姉ちゃん」


我が弟は物理最強、よしこれで勝てる。

メイン肉壁来た、これで勝てる。

一応状況を確認するために、音だけは集約するようにしていたので会話は聞こえた。


「蛮勇もここまで来たら笑えないな。良いことを教えてやる、俺は魔王が生きている限り死ぬことは無い。そういう運命だからだ」

「つまり、不死身のサンドバッグってことだろ?」


奴の引き攣る顔が簡単に想像出来る。

多分、死ぬまで殴り続けると思います。

脳筋って話が通じないってわかんだね。


「一撃でも食らえば、お前は死ぬんだぞ。怖くないのか?」

「喰らわなければ問題ない」

「あぁ、そうか――」

「うおぉぉぉぉ!」


私はルミーナの背中から振り返り、途中で音声が途切れた理由を垣間見る。

振り向けばそこには、馬乗りに殴られ続ける奴の姿が見えた。

早い、マウント取ってからの殴打ってヤバすぎ。

なお、魔王が死なない限り奴も死なないから最終的には負ける模様。


「か、考えるのよ私が助かる方法を」

「どこかに逃げればいいのでは?」

「この世界に逃げ場所はもうないわよ」


畜生、勇者ってなんだよ反則過ぎ。

一体、誰が呼び出したんだろって私だった私の馬鹿野郎。

過去に飛んでやり直す、確定した未来は変えられないとかそういうオチありそうだから無理だわ。

なんだよ、勇者やめろよ。早く死ねよ忌々しい。

魔王ぶっ殺して、勇者の無敵チート無くしてしまう?

いやいや、魔王も勇者の攻撃以外効きませんみたいな状態だっけ、無理じゃん。

……本当にそうなのか?


ルミーナの背中で私は何度も自分の考えを反芻する。

勇者はこの世界の存在には負けないと言った。

それはこの世界の存在に対して絶対的な優位性を持っているとも言っていた。

とするならば、私も勇者みたいに別の世界から降りてきたとしても間違いでは無い存在ではないだろうか。

そして、魔王はこの世界から生まれた存在であって呼び出された存在では無い。

つまり、私は勇者の理論で言えば魔王よりも優位性って奴があるんじゃないか。

ということは魔法が効く、ただ勇者がいる限り魔王は死なないから殺すことは出来ない。

魔王は殺せないが魔法は効くので、勇者のチートを無効化するように魔法を行使すれば助かる。

勇者のチートは魔王がこの世界に存在する限り発動する。

魔王がこの世界から消えれば勇者は魔王を倒す役割を失う、チートを失う。

でも殺せないから消せない。


「いや、殺さずにこの世界から消せば良いんだ」


一時的にでも魔王がこの世界から消えれば勇者のチートは消えるはずである。

でも、それには途轍もないエネルギーが必要であって、私の魔力じゃ……いや魔王を利用したら行けるかもしれない。

魔王をどこか別の世界に落とすだけなら、寧ろそこまで魔力は必要ない。

ただ魔王って言うんだからそれだけのエネルギーを持っている存在だ。

それをどこかに落とせば、保有するエネルギーの分だけ戻ってくるという問題がある。

ゴムの弾性みたいに、元の状態に戻ろうとして魔王が戻ってくるか大地震とかそんな影響が出るはずだ。

勇者の時みたいに、パワーアップにそのエネルギーを使うようにしてる訳じゃ無いからそれは確実である。

でも、それはそのままってだけで変換すれば……例えば勇者を元の世界に戻すとか莫大なエネルギーに使えば問題ない。


「あっ、もっといいこと思いついた」

「何か閃きました?」

「ルミーナ、崖下に行くわよ。魔王を見つけるのよ」


私は、最高に冴えた作戦の為に魔王を探すことにした。



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