精神攻撃で魔女は焦る
アマーリアと言う叫びが聞こえると同時に、腹をその太い牙で貫かれたアマーリアが笑った。
笑って、その身の魔力を爆発させる。
それは、自分の命を削って発動させるレベルの魔法なんだなと何となく察した。
恐らく、死ぬと分かった時点で切り替えたということなのだろう。
仲間のために自分の命すら利用するとか、私には考えられないわ。
「あぁ、なるほど。相性が悪かったんだろうね、悪かったんだわ」
私の身体から数センチのところでモンスター達が動きを止めていた。
そう、あの瞬間から召喚されたモンスターが私達に牙を向いた。
たぶん悪神の加護とかそんなんだろう。
モンスターを操るっていうか、いやモンスターを生み出したのが魔王の部下というなら、元から操れて当然の物なのかもしれない。
アマーリアの発動した魔法が、やっと効果を現す。
モンスター達の肉体が不自然に盛り上がったのだ。
ボコボコと、まるでゴーヤか何かのように凹凸が出来上がると同時に……。
「うおっ!?クソが!」
内側からモンスター達が破裂した。
私の見立てでは、恐らく内側にそれこそ血管の中などに極小の魔法陣を生み出して空気でも召喚したのだろう。
「まぁいい、後はお前と魔女共だけだ」
「うおぉぉぉぉぉ!」
勇者が、雄叫びを上げながら剣を両手に無謀な突撃を敢行する。
そのまま行けるのか、それともやはり無謀なのか此方では伺い知ることは出来ない。
そして、その剣が奴に当たる。
「いつから、ヒーローだと思ってたんだ?」
勇者の剣が奴の鎧に当たり、固い金属音を発しながら弾かれる。
鎧を貫けないという、当たり前の光景がそこには出来上がっていた。
しかし、どうにも勇者の様子がおかしい。
「何で……何で!」
「鎧を貫けるはずだった、か?」
「どうしてそれを……」
私達には分からないが、お互いには分かる内容なのか勇者の表情が驚愕に染まる。
確かに、言われてみれば勇者の攻撃はそりゃもうすごいはずだ。
伝え聞いた話では、鎧くらい両断できても可笑しくない。
「異世界トリップだもんなぁ、チートだもんなぁ!それで、主人公みたいだよな!そう思っちまうよな」
「嘘だ……嘘だ嘘だ!特別なんだぞ、なんでだよ!俺は特別なんだ!」
「特別でも何でもねぇよ」
堕ちた勇者である奴の口から吐き捨てるように冷たい声が発せられた。
説明してくれる感じですか、そうですかと私達はその状況を静観する。
そんな状況を把握しているのか、それとも今の状況を楽しんでいるのか奴は高らかに言った。
「どういう原理か知らないが、俺達は異世界に来た。俺も魔王様と話すまで原理が分からなかったが、言われてみればそうだなって感じだった」
「何の話だよ!」
「勇者ってジョブの話だよ!俺達のロール、与えられたジョブの意味だ。勇者は何だ?何で存在している?そう、それは魔王を倒すためだ!じゃあ、魔王以外にやられちゃダメだよな!死んだら魔王は倒せないからな!だから、勇者は与えられているんだ」
奴は、楽しげに口を歪めながら言った。
「この世界にいる者達への絶対的優位性だ」
「絶対的優位性……」
「勇者は強い、この世界にいる者達よりも上位の存在だから負けない。剣で切ればこの世界に囚われた劣っている存在は全て思い通りに出来る、例えば鎧だって簡単に貫ける……そのはずだった」
黒い剣が鞘から抜き取られ、膝をついて現実を否定する勇者の頭上に向けられる。
勇者は俯いたまま譫言のように違うという言葉を連呼し、話を聞いていない様子だった。
「じゃあ俺は何で死んだのか?答えは勇者が二人いたからだ。どっちがその役割を持つか分からない、だから与えられない。今のお前は勇者じゃ無い、ただの人だ」
「ただの人間だと……」
「そして、勇者は二人もいらない」
アレをさせては取り返しの付かないことになる。
そんな理由も無い直感が働くも、時間はなかった。
私達の目の前で、剣が振り下ろされ勇者の首が飛んだ。
奴は一仕事終えたように、血の付着した剣を振って血振りをする。
「さて、こうして俺は世界で唯一の勇者となった。今の俺は魔王にしか倒せない」
「それはどうかな」
「概念的に無理だ。勿論魔王も倒せない、奴は逆で勇者にしか殺せない。そして、勇者と魔王が手を取り合った今、お互いが存在する限り無敵だ。そして、この世界の存在であるお前らが俺に勝つことは万に一つも無い。降伏しろ、楽に殺してやる」
デュエリストばりのドヤ顔でそれはどうかな、なんて言ったが正直無理そうだった。
いや、私だって何でも知ってるわけじゃ無いからそういう知らない法則があるのかもしれない。
無理そうって思ってしまったから、無理な可能性の方が高い。
少なくとも、私のように思い込んで魔法を発動しているとしたら疑いなくそういう事を言っている奴は本当に無敵なはずだ。
厄介なのは、魔法が意思に左右されてしまうことだ。
だから、これからの戦いは意思を摘む戦いだ。
「お前を呼び出したのは私よ、私に勝てる訳が無いわ」
「お前がいかに魔法的に優れていようとも、物理抵抗値が低いことは分かっている」
「うぐぅ、急に優位になったからって格好付けやがって……童貞のくせに」
「そこッ!ボソッと言っても聞こえてるからな、ぶっ殺してやる!」
「おいおい、あまり強い言葉を使うなよ!弱く見えるぞ」
地面が爆発するように飛び散り、私の目の前に剣を振りかぶった状態の奴がいた。
剣が当たる、ならば防がなくてはいけない。
そう思い、結界を張った瞬間奴が笑った。
「ッ!」
「チッ、瞬間移動か。本当に詠唱はいらないようだな」
離れた場所で私は内側から叩いてくる心臓を抑えながら奴を見た。
奴は剣を振ったが、それだけで血糊が落ちるわけも無く勇者の血が着いている事は確かだった。
何らかの方法で、勇者がその血を利用したら魔法を無効化出来るのでは無いか?
そう考えた予想は、私の想像通りだった。
勇者の前で、張った結界がガラス片のように崩壊して空間に溶けていったからだ。
「聞いてた話だと魔法に絶対の自信を持ってたはずなんだがな」
「ハァハァ……ハァハァ……」
「自己認識による現実の侵食。自身で世界を構築し、支配下世界内で都合の良い現実を作り出す。疑いなく自分の思い込みだけで世界を変革する、そういう概念魔法を使う筈だったんだが」
「アンタ、何言ってるのよ?」
「お前の様な奴は過去にも居て、そして魔王軍はお前よりも魔法の造詣に詳しいってことだよ」
それは、もしかして私が使っている魔法の事だろうか。
だが、魔法は思い込みで出来ている物のはずだ。
どういうこと、私のような奴がいる?
「自分が作った設定を信じている。自分ですら否定できないほどに強く思い込み、そして魔法として形成している。お前は、どうやら魔法は思い込みで成立する奇跡のような不思議な物だと認識しているが、ちゃんと理論と知識の研鑽によって計算され、構築することの出来る法則だ。誰もがお前のように、自分の認識を絶対だとは思っていない。そんな魔法は、普通は成立しない」
「そ、そうやって!私が魔法を使えないと思い込ませようとしているんだろう!」
「お前は……そうだな、他人がリンゴを指さして赤いと言っても赤くないと主張する。その時に、本当は赤いのではと疑わない。結果、本当に赤くないという認識が魔力を伴って現実をねじ曲げる。出来上がった赤くないリンゴを見て、ほらやっぱりとその自信を強めている。そういう状況だ」
奴は私に剣を向けて言った。
「そういう概念魔法の使い手は、強いが同時に脆い。現実を突きつける、それが対策だ」
「…………」
「自分を信じれなくなった時、お前は魔法を失う」




